一時は倒産の危機まで囁かれていたものの、2018年12月期の全店売上高が5242億円と、大きく落ち込む以前の水準を上回り、完全復活を遂げた日本マクドナルド。一方、かつてはその高品質ぶりで人気を得ていたモスバーガーは、2018年8月に起きた食中毒事件以降、大幅な減収が続き「どん底状態」に喘いでいます。何が両社の明暗を分けたのでしょうか? 今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、マクドナルドのV字回復を可能にした理由を分析・解説するとともに、モスバーガーがどん底から這い上がるために必要な施策について自説を記しています。

マクドナルドが完全復活したワケ、どん底のモスバーガーがやるべきコト

日本マクドナルドホールディングスの業績が絶好調だ。2月12日発表の2018年12月期の全店売上高(直営店舗とフランチャイズ店舗の合計売上高)は、前期比6.9%増の5242億円だった。14年の鶏肉偽装問題などで落ち込む前の水準を上回った。

見事なV字回復となった。鶏肉問題前の13年12月期の全店売上高は5044億円だったが、鶏肉問題後の15年12月期には3765億円まで減った。だが、通期ベースではこれが底となり、その後は上昇が続くことになった。鶏肉問題前の水準を上回ったため、マクドナルドは復活を果たしたと言っていいだろう。今回の全店売上高は5242億円だったわけだが、次の焦点は過去最高の5427億円(10年12月期)を超えられるかに移る。

マクドナルドは鶏肉問題によりどん底まで沈んだ。だが、やるべきことをやってきたため、どん底から這い上がることができた。どん底に落ちたのは鶏肉問題が大きかったが、それ以前から業績は悪化していた。鶏肉問題以外にも問題が潜んでいたためだ。この問題を解決したことがV字回復の起爆剤になった側面がある。

問題となっていたのは「QSC」の低下だ。QSCとは「Q:クオリティー(品質)」「S:サービス」「C:クリンリネス(清潔さ)」の3つのことを指し、特に飲食店において重要な概念となるが、それらがマクドナルドで低下していたため、客離れが起きていた。

マクドナルドはQSCの改善に取り組んだ。その中で大きな役割を果たしたのが15年4月下旬に本格導入したアプリ「KODO(コド)」だ。利用したマクドナルド店舗の印象や店への要望を伝えるためのアンケートアプリで、利用者は「ポテトが冷めていた」「店員が無愛想だった」「席が汚れていた」といった率直な意見を送ることができる。アンケートに答えるとドリンクなどの無料券がもらえることもあり、導入からわずか8カ月足らずで470万件もの回答が得られたという。これを基に、マクドナルドは問題点を改善していった。

「灯台下暗し」とはよく言ったもので、自身の問題点を自身で気づくことは難しいことだ。そこでアンケートの形で自身の問題点を顧客に指摘してもらって知るようにしたことは大きかったといえるだろう。アンケート収集を行う飲食店は珍しくはないが、マクドナルドのように“積極的に”アンケートを収集しているところはそう多くはない。

マクドナルドを救った「顧客本位の経営」

KODOの導入で大きかったのが「顧客本位の経営」ができるようになったことだろう。導入前までは少なからず「売りたいものを売る」といった「自社本位の経営」がなされていたように思える。特に商品開発や商品の打ち出しでそれが顕著だった。しかし、KODOの導入で顧客の声を幅広く拾うことができるようになり、次第に「顧客本位の経営」に変わっていった。

そのことが如実に現れたのが、通称「名前募集バーガー」を販売したことだ。同社初の試みとして、新発売するハンバーガーの正式名称を公募し、16年2月から売り出したのだ。話題を集めることが大きな目的だが、商品名を顧客に決めてもらうことで「顧客本位の経営」を行なっていることを内外にアピールする思惑もあったと筆者は考えている。商品名は売れ行きを大きく左右する重要な要素となるが、その決定権を顧客に渡すことほど、「顧客本位の経営」を行なっていることを分かりやすい形で人々に印象づける施策は他になかったのではないか。

マクドナルドは「名前募集バーガー」を皮切りに「顧客本位」の打ち出しを次々と繰り出していった。商品の人気投票を行う「バーガー総選挙」やマクドナルドの愛称をかけて商品のツイート数を競うキャンペーンを開催するなど消費者参加型の施策を実施してきた。これらは、顧客本位の考え方がないと生み出せなかっただろう。マクドナルドがKODOなどを通じて顧客と真摯に向き合ってきた賜物ではないか。

こういった施策が功を奏し、全店売上高は鶏肉問題前の水準にまで回復した。鶏肉問題でどん底を味わったわけだが、逆境をバネにできたことが成功の大きな要因だろう。

マクドナルドが好調の一方、ライバルのモスバーガーの業績は冴えない。運営会社のモスフードサービスの18年4〜12月期連結決算は、売上高が前年同期比7.7%減の502億円と大幅な減収となった。純損益は2億円の赤字(前年同期は22億円の黒字)だった。

18年8月に複数の店舗で起きた食中毒事故で業績が大きく悪化した。食中毒事故をマスコミが大々的に報じ、モスフードサービスは自社のホームページ上に同問題が起きたことを9月中旬に公表した。これにより、9月の既存店売上高は前年同月比15.1%減と大幅な減収となってしまった。その後も業績は回復せず、10月14.9%減、11月12.9%減、12月8.4%減、19年1月10.8%減と大幅な減収が続いている。

もっとも、モスバーガーの不調は食中毒事故の前から起きていた。食中毒事故発生月の18年8月まで既存店売上高は7カ月連続で前年を下回っていた。客数に関しては数年前から現在までマイナス傾向が続いている。客離れは食中毒事故以前からのものなのだ。

復活のためにモスバーガーが取り組むべきこと

モスバーガーで客離れが起きるようになったのは、業界の中で高価格から中価格に移行してしまったことが大きい。かつては「低価格のマクドナルド、高価格のモスバーガー」という構図で見られていた。しかし近年は「シェイクシャック」など高級グルメバーガー店が台頭したほか、チェーン店でも高額のハンバーガーを販売する店が増えており、次第にモスバーガーは高級ハンバーガー店とは見られなくなっていった。

このようにして「中価格のモスバーガー」と見られるようになり、これにより中途半端感が出てしまい、次第に埋没するようになっていったと考えられる。

近年は市場環境の変化から中価格市場は埋没している。低価格市場と高価格市場の存在感が高まっているためだ。低価格市場は多くのチェーン店がしのぎを削る激戦区だが、いつの時代も一定のボリュームがある市場で、低価格商品は安定した需要がある。一方、高価格市場は景気に左右されやすい側面があるが、近年は株高などで富裕層の消費が拡大しており、高価格商品の需要が高まっている。「安ければ安いほど良い」と考える人が根強く存在する一方、「高くても品質が良ければ買う」と考える人が増えているのだ。

このようにして存在感が高まっている高価格市場と低価格市場に挟まれるかたちで中価格市場は埋没していったと考えられる。中価格のブランドと見られるようになったモスバーガーも同様に埋没していったのではないか。

中価格市場は埋没しているが、もちろん、やり方次第ではその中でも存在感を発揮することは可能だ。また、食中毒事故で傷ついたブランドイメージを回復させることも、もちろん可能だ。マクドナルドが実施してきたように、まずはQSCを徹底的に改善し、食中毒事故で傷ついたブランドイメージを回復させる必要がある。そして、顧客が望む商品を開発する必要があるだろう。さらに、埋没から脱却し存在感を発揮するために、顧客が面白いと思える斬新な施策を打ち出すことも必要だろう。「顧客本位の経営」ができるかが問われそうだ。

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