2018年の独身の日にアリババは24時間で過去最高の2135億元を売り上げた。中央はダニエル・チャンCEO(写真:AFP/アフロ)

中国は現在世界一と言えるスマホ社会になっている。そして、世界の工場から世界の消費市場に一変し、消費市場は激戦区になった。

その相乗効果で、電子商取引(EC)がますます注目され、特に国際間の電子商取引である越境ECは成長分野になった。

日本でも報道された先月のW11(ダブルイレブン:11月11日、独身の日)セールでは、アリババの越境ECにおいて、国別をみると日本の商品は人気No.1になり、アメリカやオーストラリアなど、日本より先に越境ECに進出した「先輩国」よりも人気を博した。

アリババの「W11祭り(日本の紅白歌合戦のようなイベント)」では、タレントの渡辺直美も出演し、視聴者の若者から大きな支持を得た。消費市場で「日本ブーム」が形成された理由には、中国がスマホ社会になったことだけでなく、日本企業の努力もある。

中国市場に出遅れ、あきらめる日本企業が多いなか、広い中国市場に本気に向き合い、地道に努力を重ねる企業も増えているように筆者は感じている。

今回は、W11の特徴から、最近の消費傾向の変化を説明するとともに、越境ECなど中国人消費者向けのビジネスで勝ち抜くヒントを提示したい。

O2O融合の元年

2018年のW11の最も大きな特徴は、オンラインとオフラインの融合(O2O)を通して、この「祭り」を盛り上げたことである。

アリババや京東(ジンドンJD:中国2位のEC会社)などECサイトが台頭し始めたとき、「これでリアルの流通業が終わる」という悲観的な考えが多かったが、最近ではECサイトがオフラインのスーパー・コンビニを買収したり、進出するなど、中国の消費市場では新しい風が吹いてきた。ネットでも、店舗でも、ショッピングモールでも、「buy、buy、buy」の熱気を感じる。

ネット通販が台頭したとしても実店舗が不要になるということには、中国の消費市場でも日本でも恐らく起こらないのではないか。その理由に、商品と消費者がコミュニケーションする重要なタッチポイントとして役割を果たしているからである。

実店舗で見て格安価格でネット購入する行動(ショールーミング)は、日本でも中国でもよくある話だが、O2Oが融合すれば企業の利益も保証される。実際使ったり、食べたりしてみないとわからない商品が多いため、ショールームとして実店舗を重視する風潮に確実に変わってきた。これは、日本国内市場にも参考になるだろう。

W11は、エンターテインメントだ。エンターテインメントを通して、ファンを育成し、知名度を上げ、これからの売り上げにつなげる。

そこにいちばん関係があるのは、アプローチ方法である。

昨年までは、「〇〇%割引」「史上最安値」だけで通用したが、今年は、ブランド・店舗が、オンラインとオフラインのイベントを通して、消費者にまずファンになってもらうことに一生懸命努力していた。

日本など外資企業にとっても、「ファンになってもらう」ことは重要だ。つまり、中国でビジネスをするには、自社の「コア」だけを残し、現地の消費者目線でプロモーションすることで、「ファン=消費者=将来のリピーター」を育成する必要がある。

カルビーの中国戦略

たとえば、カルビーはいつも現地の消費者目線でプロモーションを仕掛けている。多くのインバウンド、越境EC関連日本企業がまだ何も準備していなかったときに、自社の強みを打ち出し、消費者の不安を解消できるストーリーをうまくつくり、中国人目線の越境EC店舗を開業。

多くの日本企業がやっと昨年(2017年)後半から、中国の有名なネットアイドル(網紅)のライブ中継をするようになったが、カルビーは2016年のはじめごろにはスタートしていた。今は「TikTok」のような短編動画拡散にも注力している。

今、中国では「疲れすぎでボーッとするのがいちばん好き」という自虐ネタっぽいフレーズが若者の間ではやっている。オトナたちそれを理解できないかもしれないが、今時の消費者の潜在ニーズをリードしていると言えよう。

カルビーは、オンラインでは、「抖音DouYin」(中国版「TikTok」)でボーッとする若者にカルビーの商品で目を引こうとする動画シリーズを投稿している。若者達は面白いと思い、自分もそれを真似して転送、投稿することであっという間に拡散した。

カルビーによれば「抖音」だけでの露出数は1633万回になったという。

一方、オフラインでは、杭州の有名ショッピングモールのど真ん中にスペースを設け、「最後までボーッとできた人が日本往復チケットをもらえる」というイベントを仕掛けた。


カルビーが仕掛けたイベントの様子(写真:Calbee E-Commerce Limited提供)

日本ではなかなか考えつかないイベントだが、中国人の若者に受け、1日のイベントの参加者数は2000人を超え、ライブ中継も人気となり、コメント数だけでも3万2000件があったそうだ。

一見「ふざけている」イベントかもしれないが、オンラインとオフラインの間で、商品と消費者の間で、面白い!受ける!シェアしたくなる!美味しい!といったコンテンツをイベント化し、そこから、越境ECのいちばんのユーザーである若者の心をつかんだのだ。

多様化している消費市場

3つ目の特徴は、消費内容の多様化である。今まで、トイレットペーパーの大量買いから車の安売りバーゲンとして有名だったW11は、本年は、「モノ」も「コト」も販売するようになった。

有料音楽・動画サイト、出前サイトはもちろん、交通チケット、保険、オンラインの旅行商品、エステ予約なども急に存在感が高まった。中国の消費市場が今「階層化」「多様化」しており、違うグループの人に、違うタイミングで、違う消費意欲が出てくる。

その変化、ターニングポイントを把握するのはECサイトだ。特に生活に近い商品・サービスのほうが、生活の質を最も改善できるため、こうした「生活の質を高める」買い物がますます好まれるようになる。生活用品が強みである日本企業にとって良い時期になってきた。

W11を代表としたECイベントの変貌は、中国の消費市場の進化を表している。O2O、個性、モノもコトも要求されている。越境ECは85後(1985〜1989年生まれ)、90後(1990年代生まれ)の若者が主力軍だと言われている。したがって、デジタルネイティブの彼らに、SNS+ECの戦略が必須となり、「取引を攻める」より、まず「ファン育成」が重要となってくる。商品もプロモーション方法も、ますます多様化しており、「祭り」になっている。

渡辺直美の登場には、日本重視、日中関係改善のサインとして捉えられる。今後、いかに戦略を練り、越境EC、ECで成果を挙げるのか、日本企業の実力が問われている。

2019年も、より多くの日本企業が中国市場で活躍することを期待したい。