いつも気難しそうな表情を浮かべているが、実は気さくで心優しいロティーナ監督。ヴェルディでの充実した日々に終止符を打った。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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 61歳のスペイン人指揮官が、日本と日本サッカーへの想いを赤裸々に明かした。

 過去2シーズンに渡って東京ヴェルディを率いて、J2リーグのみならず日本サッカー界をも席巻したのが、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督だ。緻密なスカウティングをベースに、センチ単位で守備時のポジショニングを徹底させるなど、スペインでも屈指の戦術・戦略家として鳴らした手腕を随所で披露。悲願のJ1昇格こそ果たせなかったが、緑の軍団を闘う集団へと鍛え上げ、2年連続で昇格プレーオフへと導いた。

 シーズン終了後の勇退は既定路線で、セレッソ大阪監督への転身も水面下で決まっていたのかもしれない。それでもクラブ関係者、選手、そしてサポーターの誰もそこに異を唱えていない。ロティーナ監督が誠心誠意、ヴェルディを愛し、真心を込めて強化に尽力したからだろう。

 
 そんなロティーナ監督が、母国スペインの全国日刊紙『ABC』の電話取材を受けた。バスク地方・ビスカヤの出身である指揮官はそのなかで、日本での生活を通して感じた文化的なギャップ、新たな発見、日々の感動、違和感など想いの丈を語っている。「シエスタ? 日本では許されないよ。その価値観自体が存在しないからね」と笑い、こう語り始めた。

「日本は世界のなかでも特異な概念を持っていて、それはフットボールにおいても同様だ。日常生活においては礼節と敬意がなによりも優先される、まさに特筆に値する国。フットボールについても、良い意味で期待を裏切られた。驚くべきことに、試合が終わると対戦相手の選手たちやサポーターからも拍手や賛辞を贈られるんだ。こうした価値観はヨーロッパにはないもので、当初は信じられないことばかりだった。我々は彼ら日本人から、多くのことを学ぶべると思う」

 ヴェルディでの日々は、J1参入プレーオフ(ジュビロ磐田戦)の敗北とともに終わりを告げた。解団式は「本当に感動的なお別れだった」ようで、「まずは選手たち全員が私に敬意を示してくれて、それから一人ひとりが愛情あふれる言葉をかけてくれたんだ。あれほどの感動はそうそう味わえるものではないよ」と語り、「日本人とはなんて素晴らしいん人びとなんだと、あらためて実感した」と称えている。
 ただ、チーム強化を図るうえで理解できない側面、弊害となった部分も少なからずあったという。

「ヴェルディでは、モダン・フットボールの戦術家であるイバン・パランコ、フィジカルトレーナーのトニ・ヒルというふたりの優秀なスタッフとともに仕事をした。我々はほとんどの練習を非公開としていたが、複数のフットボール関係者が練習を見学したい、公開してほしいと申し出てきてね。私が壊した慣例はほかにもあった。日本の選手たちは本当に練習の虫。でも私はそれを許さなかった。人間の身体には休息が必要で、それは勝利に欠かせない要素だと理解させたんだ」

 このオーバーワークの価値基準に関しては、さらに深く言及している。

「日本では、フットボーラーは休んではいけないものと見なされている。それこそオフの日でもね。シーズンが終われば30日間の休みがあるんだが、とある選手は私に『スペインのどこかのクラブに行かせてほしい』と言ってきた。そうしたやり取りは日常茶飯事で、ヴェルディはだいたい朝10時から12時まで練習するんだが、選手たちはそれが終わってもさらに2時間、パーソナルな練習をやるんだ。試合前日でさえそれをやる。だから私は彼らに言った。ゆっくり身体も頭も休めなければダメだと。選手たちにはかなり新鮮に響いたようで、驚きをもって迎えられたんだ。最終的には『じゃあ15分だけならいいぞ』と私が折れた」