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今、時代の潮流となっている「女性活躍」。その大きな一つの柱が、女性の管理職登用であるとされる。政府や企業は、「女性を管理職に!」と勇ましく掛け声をあげるが、そうした声の大きさと裏腹に、現場では様々な混乱が生まれていることをご存知だろうか。

管理職登用に関して、突然の制度変化に戸惑っている女性は少なくないが、困惑しているのは女性だけではない。女性登用の推進役を任された男性管理職や、ポスト獲得を目指して女性と闘う男性の同僚なども、思い煩い、憂うつな日々を送っている。「女性活躍」は男たちの問題でもあるのだ。

突然の改革のシワ寄せを受けている男性をどうするのか――ここまで考えなければ、女性活躍は「絵に描いた餅」に終わってしまう。今回は、そんな男性たちの実態をレポートしよう。

まさかの昇進拒否

「女性部下のためを思って、彼女たちに活躍のチャンスを与えようと頑張ってきたのに、それが自分で自分の首を絞めることになるとは……。女性登用に足をすくわれたようなもんです。とてもやりきれないですよ」

長い沈黙の後、メーカーで専任部長を務める佐藤宏さん(仮名、50歳)は、こう思いの丈を吐き出した。

佐藤さんは男性が管理職を独占してきた会社で、コミュニケーション能力や細やかな気配りなど女性に優位性があるとされる能力に注目し、10年以上前から女性総合職の採用増や管理職登用の必要性を上層部に進言してきた。

当初は腰の重かった経営陣も、世の中の流れも相まって次第に理解を示すようになり、今では総合職採用の増加とともに、事務職中心だった女性の職務内容は、企画や営業などへと少しずつ広がっていったという。

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ところが、ようやく初の女性課長を誕生させようという段階に入り、予期せぬ事態が発生してしまうのだ。

「女性部下が管理職昇進を断ってきたのです。そんなこと、全く予想していませんでした。理由を聞いても、『自信がない』の一点張りなんです。狐につままれたような気分でいたら、今度は私自身が……。自分の部署に割り当てられていた女性管理職の数値目標を達成できなかったために、人事考課がガタ落ちし、結局ラインから外されてしまいました」

佐藤さんは、女性部下を育成して課長に昇進させることを、半期ごとに査定が行われる自身の人事考課でも目標に設定していたが、2期連続で未達成となり、査定は最低評価に下落した。それからしばらくして、部長から専任部長へと、実質的に降格した。彼の勤める会社では専任部長は部下のいない管理職に過ぎない。人事から半年経った今も、目の前の現実を受け入れられずにいるようだ。

なぜこうした事態になってしまったのか。佐藤さんの話から推測するに、女性部下に管理職に必要な能力や経験が不足しているにもかかわらず、拙速に事を運んでしまい、「自信がない」と昇進を拒む複雑な事情や心境を十分に理解できていなかった可能性が高い。また、会社が与えたありがたい昇進のチャンスを受け入れるのは当たり前、といった一方的で独善的な面があったかもしれない。

「女性管理職を増やす」数値目標が一人歩き

佐藤さんのようなケースが出てくる背景を理解するためには、これまでの「女性活躍」の経緯を押さえておく必要がある。

職場における男女差を積極的に解消する「ポジティブ・アクション」。こうした動きに対する企業の意識の高まりは、2016年の女性活躍推進法の施行を契機に一気に加速した。

同法で従業員301人以上の企業などに義務づけられた行動計画には、女性の採用比率や勤続年数など複数の項目があるが、メディア報道などを介して情報が社会に浸透していく過程で、「女性活躍」イコール、女性管理職を、数値目標を設けて増やすこと、とミスリードされていった側面がある。

このため企業などは、取り組むべきさまざまな「ポジティブ・アクション」の中でも、女性の管理職登用こそが最も重要で、かつ真っ先に取り組むべき「女性活躍」施策であると捉え、当の女性社員たちが望む働き方や職場でのポジションを度外視し、数値目標達成ありきで、「数合わせ」の女性登用を進めようとしているケースが少なくない。

一方でそうした企業が、女性社員が管理職に就くために必要な能力の開発や、経験不足に対する対応や、家庭との両立で障壁となる長時間労働の改善といった、本質的な対策は不十分だという例も散見される。

形だけを整えようとして、実質が伴っていないということだ。

こうした女性登用の進め方に対して、さまざまな葛藤を抱えて思い悩んだ末に、管理職就任を拒絶する女性が増えていることは、以前の記事(「出世を諦めた女性」は‟悪”なのか〜女性登用が生む根深いジレンマ)でも述べた。

こうした混乱は、如実に数字に現れている。国の最新データ(厚生労働省の2017年度雇用均等基本調査)では、女性の課長相当職以上の比率は前年度より0.6ポイント減少して11.5%にとどまり、2020年までに「少なくとも30%程度」に増やすとする政府目標との間には大きな隔たりがある。政府の旗振りは目立つが、実際の「女性活躍」は、まだまだ進んでいるとは言い難い。

繰り返しになるが、こうした「掛け声」と「実態」のズレは様々な弊害を生んでおり、そのシワ寄せは男性にも及んでいることをよくよく認識しておくべきだ。女性を管理職へと押し上げる推進役の任務を課せられた男性幹部社員たちも、思いのほか苦しみ、「女性活躍」施策に翻弄されていることを、私は多数の男性社員へのインタビューを通して痛感してきた。

男性上司も、管理職候補の女性部下を育成した経験に乏しい。このため、的確に職務を割り当てながら、管理職に必要な能力やスキルを伸ばしたうえで、昇進させてさらに力を発揮させていくという、本来あるべき人材育成と昇進のプロセスを具現化できていないケースが多いのではないだろうか。

女性を「引き上げる」管理職の仕事は様々な点で難しいのである。晩婚化の進展により、管理職候補となる時期に、まだ幼い子どもを抱えた女性社員は増えている。男性管理職は、そうした女性社員について、労働負担を軽減する両立支援という配慮をしなければならない。しかしそれと同時に、責任の重い立場への積極登用という、ベクトルの異なる仕事を行わなければならない。

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こうした方針に矛盾を感じつつも、抗えない管理職男性たちも少なくない。その苦悩や悲哀は大きいだろう。

そうした困難な仕事の果てに、佐藤さんの事例のように、候補の女性部下が管理職昇進を断るという、男性上司にとってゆゆしき事態が起こる可能性もある。男性にとっては、推進役としての任務の未達成で人事評価を下げかねない、つまり自身のキャリアにとって危険因子ともなっているのである。

数合わせの登用が招く“逆差別”

管理職ポスト獲得を目指す男性社員にとっても、「女性活躍」推進の動きは、出世競争において女性を過剰に優遇し、男性を不利な立場に陥れるものとして否定的に捉えられてしまいがちだ。

「これって、“逆差別”以外の何ものでもないですよ。数値目標を達成する数合わせのために、肝心の能力を無視して女性を優遇するなんて、全く納得いかないです」

卸売業の鈴木祐介さん(仮名、39歳)は、「就職氷河期」の厳しい闘いを勝ち抜いて入社し、社内でも競争相手が多いなか、長時間労働にも耐えて懸命に努力し、実績を積み重ねてきた。だが、念願の課長昇進が目の前に迫っていた時、入社年次が1期上の女性社員にポストを奪われてしまった。

「不意討ちをくらいました。ちょうど法律(女性活躍推進法)に従って女性登用の行動計画を立てて、実行に移す時で、子育てしながら仕事を続けていた女性に白羽の矢が立ったんです。子どもがまだ幼く、2、3年前まで時短勤務をしていたような状態で、実績なんてあるわけないじゃないですか」

現にその女性課長は就任早々、采配が振れないばかりか、女性部下へのいじめや取引先との商談ミスなどトラブルを連発した。その尻拭いを鈴木さんがする羽目になり、彼自身も以前のように成果を上げることができなくなる。その挙げ句、子会社に出向することになってしまったのだという。

「部長など上には女性課長の問題行動を訴えましたが、聴く耳を持たず、彼女に厳しく指導することもなかった。職場で理不尽なことは経験してきましたが、それも乗り越えて用意周到に管理職目前まできた僕が、こんなところでつまずくなんて……」

鈴木さんも現在の境遇にぼう然と立ちつくしたまま、いまだ先の仕事を考えられずにいるように見えた。彼の話を聞くに、これは決して出世競争に負けたことへの「恨み言」ではない。

景気が回復したとはいえ、人件費を積極的に拡大することには様子見をしている経営者がまだ多く、不況時からの管理職削減の動きから一転してポストが増えるとは考えにくい。

そんな状況下で長時間労働にも耐え、成果を上げるために必死に働いて昇進を狙ってきた男性たちにとって、思いがけない女性登用が自身の昇進を排除しかねない“逆差別”と映ってしまうのは、無理ないのかもしれない。

男性の声も生かした女性登用に

「ポジティブ・アクション」は、営業職は大半が男性、管理職に女性は一人もいない、といった職場に存在する固定的な性別による職務分離、差異を是正するものだ。過剰に女性を優遇することで、新たな男女差を生み出すようなことは決してあってはならない。

企業は数合わせの女性登用に走るのではなく、性別にかかわらず、社員の能力や実績を適正に評価したうえで、昇進の機会均等を徹底していくべきである。

そして、女性社員に対しては、入社後早い段階から、将来の管理職昇進も視野に入れた職務配置や人材育成、人事評価へと改善していく必要がある。

とはいえ、女性の管理職が少ない現状では、企業内で「女性活躍」推進の実質的な執行役を任されているのは、ほとんどが男性の管理職である。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2015 年に公表した「女性管理職の育成・登用に関する調査」(正社員の男女3000人対象)では、管理職に就いている男女に「管理職になろうと思った理由」(複数回答)を尋ねているが、男女で顕著な違いが見られた。

男性が「より高い収入が得られるから」(46.5%)が断トツで多かったのに対し、女性は「自身の知識や経験で、組織に貢献したいと思ったため」(26.6%)のほか、「会社や上司から仕事を評価されたため」(16.5%)、「上司に管理職になるよう説得や励ましを受けたため」(16.5%)が、いずれも男性よりも多い回答だった。

女性は男性に比べ、報酬よりも、上司からの評価や励ましといった働きかけによって管理職を志す傾向があることがわかった。

管理職の男性上司たちは、女性部下を育て、彼女たちが自ら進んで管理職を目指す動機づけを与えていくうえで、重要な役割を担っているといえる。しかし、上記で見てきた通り、「数合わせ」の女性活躍推進は、男性の反発や反感を引き起こしかねない。

そうした男性、女性双方にとっての不幸を避けるため、女性登用を巡る男性社員たちの声を真摯に受け止める必要がある。そして、その声を労働施策や人事制度に反映させていけるかどうかは、「女性活躍」施策の成否を分ける重要なカギともなっているのである。