小学生に英語を教えるのは、中学生以降に教えるのとはまた違う(写真:Greyscale/PIXTA)

2020年から小学校英語が教科として正式にスタートします。それに伴い、全国の小学校では移行期間としての英語科が、5、6年生(3、4年生は外国語活動)ですでに始まっています。文部科学省が作成した『We Can!』という教材(教科書にあたる)を使った授業が、すでに全国の小学校で行われているのです。

現場の先生方は初めての教科を、この教科書を基にさまざまな工夫をしながら授業を進めています。これまでの(教科ではない)英語活動の経験があるとはいえ、英語の授業は初めてですから、先生方の苦労も大変なものと思われます。

日本の英語教育の大きな改革となる小学校での英語の授業。この年代での英語授業で気をつけたい3つのわなについて考えてみたいと思います。

中学校では当たり前のパターン・プラクティス

1. 「繰り返しゲーム」の落とし穴

まず1つ目は、小学生といった年代にとっては、英語を「自分の言葉」として表現しながら身につけていくことが必要だということです。

野球少年の6年生、K君は「I can play baseball.」という文章を習いました。canを使用して自分の得意なことを言ってみるのがその授業の課題でした。クラスの友達も「I can play soccer.」「I can play basketball.」「I can play the piano.」と言い表していました。これは自分の特技を表現しているといった点では、自分のことを話していると言えます。

ただ、ここで気をつけたいのは、単に何ができるのかを「言い換えて」いるパターン・プラクティスになってしまうことです。子どもは自分の気持ちと切り離されたパターン・プラクティスを繰り返していても、英語を自分の言葉として定着させることはできません。

パターン・プラクティスは、アメリカの軍隊が敵国の言語を訓練する「オーディオ・リンガル・メソッド(ミシガン・メソッドやアーミー・メソッドとも呼ばれます)」が有名ですが、この指導方法は日本の英語教育でもよく見受けられます。

この方法では即座に言い換えて発語することが重要で、学習者の気持ちは重要視されません。学習者はただひたすら繰り返すだけです。このようなパターン・プラクティスは体系的に学べたり、目的が明確だったりする大人や、中学生、高校生には効果があるかもしれません。ところが小学生年代の子どもは同じようにはいきません。

言葉は、まず自分の気持ちがあって、それが言語として表出されるものです。なので、まず何を伝えたいか、何を表現したいかが重要です。しかし、パターン・プラクティスばかりを繰り返していると、自分の気持ちを表現するどころか、言葉から気持ちが離れていってしまいます。結果として、子どもはそれを身に付けることはできません。

単に単語を言い換えるのは、あくまでも「言い換えゲーム」であって、コミュニケーションで使用する英語としては成立しないので身に付きません。子どもが英語を学ぶ場合は、自分が言いたいことを英語で言うことが重要です。なぜなら自分の言いたいことを気持ちを伴って発語することを通して、子どもは言葉を身に付けていくからです。

むしろ嫌いなものの話をしたほうが…

前述のK君の授業の場合、むしろ「I don’t like soccer because...」といった文章を作ってみるほうが、子どもたちは豊かに思考をめぐらせることができたでしょう。嫌いな理由はさまざまですから、小学生は柔軟な発想で自分なりの意見をあれこれと考え、発言も活発になります。このように小学生の特性をつかんでいれば、ちょっとした工夫で活発な表現は引き出せます。

そのためにも、子どもが面白いと感じたり、興味の持てる内容を選ばなければなりません。授業の課題をこなそうとするばかりに、無意味な内容の文章を与えても、子どもにとってそれは他人の言葉であって、自分の言葉にすることはできません。さらに、その気持ちとなった言葉は、キャッチボールをしてこそその役割を果たします。なので、パターン・プラクティスではなく、子ども同士が自然にやり取りできる環境設定が必要です。

現在使用されている『We Can!』では、「子どもの日常生活に沿った、子どもの興味や関心に合う題材の設定がされている」(文部科学省)ということですが、指導方法によって、それが生かされもしますが、これまでの中学校での英語の授業のようになってしまう危険もはらんでいます。だからこそ、先生の工夫は不可欠です。小学校の先生は全教科を指導していて、生活全般も含めて子どものことをよく知っていますので、その点は大いに期待したいところです。

2. 自主性を尊重しない

2つ目のわなは、子ども自らに気づきを与えない指導方法です。

新学習指導要領の外国語の目標では、「外国語の音声や文字、語彙、表現、文構造、言語の働きなどについて、日本語と外国語との違いに気づき……」とあります。体系的に英語を学ぶ中学校の授業のように教師から教えてもらうのではなく、学習者である子どもが「違いに気づく」ことが目標とされているのです。

小学生くらいの子どもは多くの英文に出会っているうちに、たとえば「文章は大文字で始まる」「複数形の単語にはsがつく」「疑問文の最後は上がって(または下がって)発音する」などといったことに自ら気づくことができます。小学生年代では、どの科目でも同じことが言えると思いますが、一方的に教えられて学ぶよりも、自分で気づくことでその科目への関心が増し、学びへの意欲が持てるのです。

こうした意欲を育てるには、題材の内容が重要です。なぜなら子どもは英語の内容を重視しながら学ぶからです。子どもだからどんな内容でもいいわけではなく、むしろ題材選びは重要です。

ある小学校5年生のクラスで、「Can you speak Japanese?」という例文を使用した授業での出来事です。子ども同士がペアとなり、文章を変化させて質問し合いました。そしてある男子が「Can you speak Spanish?」と相手に聞いたところ、「話せるわけねーだろっ!(笑)」と笑いながら返事が返ってきました、それも日本語で。

意味のない質問をしたところで…

子どもは話される英語を聞きながらも、実は内容を重視しています。英語の質問に対して、単に英語で話される質問ではなく、実際に自分に対しての質問としてとらえているのです。これまで行われてきた中学校の英語の授業では、「Can you speak Spanish?」と聞かれたら、「No, I can’t.(またはYes, I can.)」と何の疑問もなく答えていたでしょう。「これは文型の練習だ」と考えて、内容がさほど自分に関係なくても、割り切って返答しているのです。

しかし、小学生だとそうはいきません。質問された内容は、まさに自分に尋ねられた内容ととらえます。なので、意味のない質問をされると英語自体に興味を持てないうえ、身に付けることができません。必要なのは、子どもが興味を持てる質問をすることです。

ある英語教室では、遅刻してきた子が 「I’m sorry to be late.」と言ってから教室に入るように指導されていました。その教室に通っていた中学生は、小学生の時は、それが不定詞の表現だったなどとは理解もしていませんでしたが、「中学校で不定詞を習ったときに、あの『I’m sorry to be late.』 がグッと身に染み込んだ感じがした」と話していました。

教えられたときは気づかなかったことも、使う場面と音を覚えていたからこそ、文法事項として習った際に自分の言葉として取り込むことができたのでしょう。出合ってすぐにその英語を実感できなくても、後になって理解することもあるのだと大人は知っておきたいものです。

これまでの学校英語では、自分の生活や文化に関係しないことを題材として学んできました。黙々と勉強する英語の題材を自分のこととして読むことができず、多くの場合、英語はただ単に学ぶ対象の学問としてとらえられてきたのではないでしょうか。それだからこそ、実際に使ってコミュニケーションしてみる英語は身に付きにくかったともいえるのです。

3. 成績だけを追い求める

3つ目のわなは、英語の点数やテストなどの「評価」にこだわりすぎることです。

2020年からの新学習指導要領による小学校の英語科が、これまでの英語活動と大きく変わるのは、「評価」がつく、いわゆる成績がつくということです。実際のところ、どのように評価をするのか文部科学省でもまだ明確にはなっていないようです。正確な英語を読み書きできるのにおとなしい子、その逆に積極的に英語を口に出すけれど文法的に間違っている子などをどのように評価していくのか。評価に関しては注意して見守っていきたいところです。

しかし、子どもが本当の意味で英語を身に付けていく場合、いい点数を取ることを目標にしてばかりいて、英語の力が付くでしょうか。これまでの日本の英語教育では、テストの点数を上げることが目標となっていた傾向が強かったように思います。点数を上げるために学んだものは、テストが終わると忘れてしまって、結果として身に付かない可能性がある。だから「あんなに勉強したのに話せない」という日本人の大人が多く存在するのです。

TOEICの点数だけにとらわれると

先日、4歳の息子に英語教室を探しているお母さんから電話で問い合わせを受けました。そのお母さんは、「TOEICの点数はどれくらい取れますか?」とお尋ねになりました。TOEICは、移民の多いアメリカ合衆国で仕事に就くのに必要な英語力を測るために開発され、オフィスで利用されることを仮定した英語能力テストです。

TOEICの点数についてお尋ねになったこのお母さんが、どのような英語をわが子が身に付けることを望んでいらしたのかは定かではありません。ただ、幼い時から試験の点数や学校の成績を気にしながら英語を学ぶことは有効でしょうか。成績だけに焦点を絞ると、苦痛になり、長く続けることはできないばかりか、自分の言葉として英語を身に付けることはできないでしょう。

1つの言語を身に付けるのは、そんなに簡単なことではありません。今英語ができる人は、少なくともある時期に必死になって勉強した人たちです。勉強しないで英語を操れるようにはならないのです。

子どもは自分のやっていることに意味があると思えば真剣に取り組みます。その言語を身に付けることによって、どういった幸せが得られるのか。英語が話せれば、英語で言いたいことが言える、英語で聞きたいことが聞ける。英語は「身に付けるのに値するもの」だということを子どもに伝えたいと思うのです。そのためにも子どもが興味を持って自分の言葉として聞き、話し、読んで、書く必要があります。

小学生が英語を学ぶのにどのような学び方がふさわしいのか、保護者の方とともに考えていきたいものです。