カジノを含む統合型リゾート施設(IR)実施法成立で、カジノ経営への参画を目指す国内外企業の動きが活発化している。しかし一方で、ギャンブルに対する世論の風当たりや課税、収益自体への不安も拭えないことから参入に二の足を踏む企業も出るなど、早くも暗雲が漂い始めている。

 「カジノを含むIRが国内3カ所を目途に開設されれば、その市場規模は約250億ドル(日本円で3兆1600億円)から500億ドルとされ、カジノの粗利は1兆7500億円と弾くシンクタンクもある。しかし、そうした試算は各団体でもバラバラで、政府も明確な数字を出さない。そのため余計に積極派、消極派に分かれている」(シンクタンク関係者)

 まず積極派では7月25日夜、大阪で行われた『天神祭2018』に、米カジノ運営大手MGMリゾーツ・インターナショナルのジェームス・ムーレン会長が登場し、トップセールスを繰り広げた。

 「会長自らアピールしたのは、大阪がカジノ誘致に成功する確信があってのこと。この祭りにはMGMのほか、ゲーミング事業とエンターテインメント施設開発を行う、マカオが拠点のメルコリゾーツ&エンターテインメントも協賛し、会長のローレンス・ホーは4月、すでに大阪市内に事務所を開設している。また、トランプ米大統領最大の支持者として知られるラスベガス・サンズのアデルソン会長も、日本でのカジノ展開に最大級の関心を示し、準備資金は1兆円規模と言われているほどです」(経済誌記者)

 日本国内では、ゲーム・パチンコ機器のセガサミーホールディングスが、韓国のカジノ大手、パラダイスとの合弁会社で動く。

 IR実施法が成立した7月20日、セガサミーの里見治紀社長は「国益にかなう施設の開発・運営は日本企業が責任を持って取り組むべき」とコメント。同社は昨春から、韓国・仁川空港近くでIRを開設し、日本向けの事業へ向け着々と準備を重ねてきた。

 「大阪では国内企業の動きも活発化している。京阪ホールディングスでは、大阪の誘致が決まれば、5年以内をめどに1000億円を投じ、IR設置の候補地となっている夢洲(大阪市此花区)と京都を結ぶ中之島線の延伸を進める方針を打ち出しています。また、南海電気鉄道も、関空と夢洲に旅客船を運行する計画があることを明らかにしています」(地元記者)
ほかに、候補地となっている横浜では、京浜急行電鉄が'14年からIR新規事業プロジェクトチームを設置し、準備を進める。

「背後には、横浜のIR誘致に積極的だった菅義偉官房長官の存在がある。しかし最近は、菅氏の後ろ盾とも言われた“ハマのドン”こと横浜港運協会会長の藤木幸夫会長が、最近になってカジノ反対論をぶち上げ、地元商工関係者の賛成論者の間で困惑が広がっています。横浜市の林文子市長もいまだ“白紙”を通している。今後、菅氏がどう調整するのか、参入を計画している企業は固唾を飲んで見守っています」(大手建設会社関係者)

 加えて候補地に挙がっている北海道の釧路市では、道東の阿寒湖周辺などを中心に道内13のホテルや飲食店などを展開する鶴雅グループが動いている。

 大阪と並び誘致活動で一歩リードしているとされる長崎県でも、エイチ・アイ・エス傘下のハウステンボスがカジノの誘致に取り組んでいる。しかし、冒頭で触れたように、国内ではカジノ=ギャンブル依存症のイメージが強く、各世論調査でも5、6割が反対という数値もある。

 「ハウステンボスのある佐世保市でも、市民団体が市へ誘致中止を申し入れている。しかも今回成立した法案では、カジノ事業社は納付金として収益の30%を国に支払わなければならない。そのため、成立したとはいえ、運営会社には不安が広がりはじめている。そうした動揺が、建設会社や不動産業者など、参入を画策している企業に広がり、二の足を踏んでいる状態なのです」(前出・経済誌記者)

 曖昧な姿勢を見せているのが、大林組や三菱地所、三井住友フィナンシャルグループなどだ。

「大林組は積極的な投資への結論には至っていませんが、5月にカジノリゾート対策チームを立ち上げている。三菱地所も現時点では出資はしないが、プロジェクトに関与する方向でいるといいます。カジノ業者やパチンコ業者が積極的なのは当然の話ですが、建設業者などは地元住民の拒絶を押し切ってまで先行き不透明な商売に手を突っ込めない。そのため、内部で準備を進めながら、しばらく横並びの様子見の状況が続きそうです」(同)

 本番は誘致場所が決まった後になりそうだ。