1980年代、日本ホビー史上に残る一大ブームを起こした「ビックリマンチョコ」。

近年発見された超レアシール

 僕らのお目当てはそのおまけシールだった。しかしあまりのヒットに売り切れ続出で、やっと買えても「1人3個まで」の制限さえあった。こづかいのすべてを費やし、プリズム加工などが施された憧れの「ヘッド」を当てようと奮闘するも、ハズレ扱いの「悪魔」が出たときは意気消沈……。

「ロッチ」を覚えていますか?

 そんな僕らには敵がいた。「ロッチ」だ。ビックリマンシールそっくりの外見で、カプセルトイの中に5枚ほど入って売られていた。「ビックリマンだ!」と買ってみて、「ロッテ」のロゴをよく見ると、「ロッチ」となっている。そう、ニセモノだった。あのころ僕らの多くはこの「ロッチ」の罠に引っかかってしまったのだ。


読売新聞1988年2月20日より

 こどもたちをだましにだまして「ロッチ」の発行枚数は1,000万枚にのぼったが、本家ロッテに起こされた訴訟などがダメージとなり発売元のコスモスは解散。ロッチ騒動は幕を閉じた。

 しかし当時はロッチ以外にも、数々のパチシールがこっそり発売されており「ニセモノ」とさげすまれていた。しかしそのパチシールがいま、高値で取引されているという。まんだらけ中野本店カード館の責任者である田嶋宏一郎さん、まんだらけ広報部鍋島一機さんにお話をうかがった。

コピー系よりも「下手絵」が人気!?

田嶋 パチシールには、コピー系と創作系があります。コピー系はトレース、もしくはカラーコピーに近いようなもの。あの「ロッチ」はコピー系で。値段は400〜500円ほどとそれほど高くは無くて、1,500円ぐらいが上限です。

 ただ、そのままコピーしたものでは無く、手で描いたものは人気がありますよ。コピーじゃないパチシールのなかで、ちょっと絵が上手なものは「手書き」、あまりにもアレなものは「下手絵」と言います。

田嶋 この「野聖エルサM」、よく見ると面白いんですよ。杖の先にある手がパーとグーになってて。これ、一桁違いますからね。正規品が500円、パチシール(手書き)が6,000円。

――完全に逆転現象ですね。

「創作系」こそパチシールの醍醐味

田嶋 こういう風に、手書きだと「似てますが、違います」と言い逃れる余地ができるんです。

田嶋 コピー系とともに人気を博しているのが「創作系」です。どうアレンジされているか、その面白味がコレクターにとってはポイントなんです。パチならではのダイナミックさで。

 これはパチシールの中でも人気シリーズ「ドッキリマン」の超神ゼウスです。シリーズタイトルとかもこのへんはハッキリしてきて。

「子どもはニセモノが嫌い」。だから貴重に

田嶋 同じシリーズの本家のスーパーデビルから生じた「ブラックデビル」です。これは青ずきんが多くて、赤ずきんが少ないんですね。それが値段にも反映されて。オリジナルが紫だから、最初青が出たと思われます。それが「寄りすぎた」から、赤に軌道修正したのではないでしょうか。コスモスのシリーズの中で、さらに強くアレンジされたオリジナルのキャラクターとして「魔神ゲロ」というものもいます。彼は本家ビックリマンの「ネロ魔身」がモデルのキャラです。

田嶋 コピー系をお持ちの方は、「ニセモノって知らなかった」人が多くて。実は子どもって、割と「ニセモノ、ダメ」って正義感がはたらくんですよ。なので、これをマストアイテムとして買ってた子は少ないです。

 いま生き残ってるパチシールは、おもしろい趣向の方が当時から「僕はニセモノってわかってたけど、好きだった」っていう方が取っておいたものです。

10年ほど前から、パチシールはメジャー化

――パチシールの値段が上がったのはいつごろからですか?

田嶋 10年ぐらい前にうちでパチシールだけのオークションイベントをやったんです。そのときに20万円ぐらいですごく競り合っていて。それまでコレクターさん同士でほのぼのとやってたのが、雰囲気はガラリと変わりましたね。

鍋島 「あ、こんなのあるんだ」って気づいた人がドッと入ってきました。

田嶋 希少価値のより高いものがハッキリしましたね。こどものころは「ニセモノ=敵」だったものの、大人になってみんな許容範囲が広がって、懐かしさと一緒に時代そのものを楽しむっていうことでしょうか。近年は新しく発見されるものが話題にもなっています。

見つかっているのは国内に2点だけのスーパーゼウス

――“発見される”ってあるんですか?

田嶋 最近、話題になったのは「スーパーゼウス」の希少性の高いパチモンですね。

――すごくかっこ悪いけど、味がありますね。

田嶋 パチシールの黎明期に出ていたシリーズがあって、「トップ5」と言われるレアシールがずっと君臨し続けたんですけど、それに先んじて発行されたとされるこれが新発見されたんです。

――オークションなら、どんな値段になりますか?

田嶋 20〜30万円ぐらいですね。見つかっているのは国内に2点だけで。これはオリジナルのビックリマンの中に入っても、トップアイテム級です。

全容解明がむずかしい、パチシール

――30年前は天と地の差だった、本当のビックリマンと肩を並べたんですね。パチシールの世界は「持っている人が少ない」から、全容が解明しづらいんですか?

田嶋 はい。あと本家ビックリマンはデータがロッテさんに残っているので、かつての情報がリリースされますけど、こっそり作っていたパチシールは資料としては残らなくて。もう情報は、モノからしか知ることはできません。

鍋島 そのときだけ作って売り切っておしまいですから、再販もしないですし。

田嶋 「パチシール=コスモス」って言われますけど、実際のところはホント、当時の印刷メーカーはかなりやっていたようです。各メーカーさんともそれは闇に葬っているんですけど。

鍋島 当時の駄菓子屋には、もうメーカーすらよくわからない引き物(束になっているところから、袋に入ったカードを引き抜いて買うもの)がたくさんあったんです。間違いなくそういう機材や環境が整っている人たちがやってるんですよね。ちょっと版下で小細工すれば、ロッテのロゴなどの「刷られてはいけない部分」は印刷しないようにできるんです。そうすれば原盤やノウハウがあるし、コピー品はいくらでも作れます。

――元コスモススタッフも証言してますもんね。ロッテと同じ印刷会社のところで印刷しましたって(EX大衆2014年8月号より)。

パチは自転車やタンスに貼ったりして遊ぶ

田嶋 あとはコストをどこまでかけないで、似たものを作れるか。ビックリマンの印刷はすごく高コストなはずなので。だからパチシールは節約のためにコーティングもされていないものが多いです。そのためシールがダメージを受けやすいので、パチは残りづらいんです。

鍋島 貼っちゃったりされる率も高いですよね。

田嶋 大事にされない。

鍋島 本家シールは使うのもったいないから大事にとっておく。パチは自転車やタンスに貼ったりして遊ぶと。

マニアで囁かれている「パチシールが生まれた理由」

田嶋 当時のシール職人さんは、「すごく手間のかかることを安くやらされた」とおっしゃってましたね。

鍋島 ビックリマンシールに使われたシルク印刷は、最初は白、じゃあ青、次は赤……って色ごとに色を落として、最後に黒で締めて、輪郭を付けて行いますからね。いわゆる浮世絵みたいなものです。メーカーさんはそのしわよせもあったから、腹いせに「コストカットさせられた部分を取り戻そう」とやったのでは……と、マニアの間ではささやかれています。真相はわかりませんけどね。

田嶋 当時の職人さんがおっしゃっていたのは、「この印刷を当時の予算と時間でやれと言われたのは、死ぬほどキツかった」と。

――そう考えるとチョコとシールがついて30円ってすごく安かったんですね。

田嶋 異次元の安さです。いま作っても、数百円の販売価格になるのが普通です。いまの100円でさえも安いと思います。それは当時の「量の力」だったのかなと。

パチシールには、まだ未知の世界が広がっている

――最後にパチシールの魅力とはなんだと思いますか?

鍋島 解明されていないのが魅力ですよね。パチシールは“埋まらないパーツ”が圧倒的に多いんですよ。並べたときに、「あ、ここありそうだけど無いな、全容はどうなってるんだろう」って。

田嶋 「きっとまだ何かあるんだろうな」という部分がある。あとパチシールコレクターの方は、ニセモノであるからこそ愛せるというユニークな感性を持っていると思います。多様を愛するというか、それはある意味で「寛容」ということなのかもしれませんね。

(辰井 裕紀)