17日、主な野党が欠席して開かれた衆議院議院運営委員会の理事会。奥は古屋圭司委員長(写真:共同通信)

通常国会を7月22日まで延長したのは、IR法案や参議院定数を6増させる公職選挙法改正案などを今国会で通すためだった。なかでも、IR法案は安倍政権が特に成立に力を入れている案件だ。また公職選挙法改正案は2019年の参議院選挙に間に合わせるために、ぜひとも今国会で成立させようと考えている事案である。

西日本を広域に襲った「平成30年7月豪雨」の対策と“同等以上”に扱っているようにみえ、それが野党からはかっこうの批判対象になっている。しかし、安倍政権が通常国会延長を決断したそもそもの理由を鑑みれば、それも致し方がないことだった。

パーティー券収入をめぐる疑惑

その様相が一気に変わった。会期の最終週に入った7月17日、朝日新聞が朝刊で古屋圭司・衆議院議院運営委員長のパーティー券収入をめぐる疑惑を報じたのだ。

これを受けて、17日の衆議院は混乱に陥った。議院運営委員長は国会の運営を取り仕切る重要な役割を担っている。その当人が渦中の人となった以上は本会議を開くことができない。同日午前に衆議院政治倫理・公職選挙法改正特別委員会で強行可決された参議院の定数を6増する自民党の公職選挙法改正案は、午後の本会議に緊急上程されて成立するはずだったが、翌日以降に持ち越されることになった。

朝日新聞が報じたのは「二重帳簿疑惑」だ。同紙が入手した古屋事務所のパーティー券販売状況を記載した手書きノートのコピーによれば、古屋氏が代表を務める政治資金管理団体「政圭会」が2016年7月25日に開いた「政経フォーラム」の収入は1188万円で、218の企業・団体などが594枚のチケットを購入したことになる。


7月17日のメインイベントは、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)署名式となるはずだった(写真:首相官邸/ロイター)

だが公開されている収支報告書には642万円しか記載がなく、その差が「裏金」とされた可能性がある。朝日新聞はノートに記載された企業にもパーティー券購入の事実と購入枚数を問い合わせて確認しており、ノートの記載内容で実態は間違いないとの自信をのぞかせる。

なお時効にかからない過去5年分の報告書には計22回のパーティーで1億2572万円の収入があったことが記載されており、単独のパーティーで収入が1000万円を超えるのは2015年7月に安倍晋三首相を招いて盛大に開かれた「在職25周年記念パーティー」の1件のみだ。

もしその他のパーティーでも同じような手口が使われていたとすると、虚偽記載の金額はいっそう巨額になりうる。

本人は「二重帳簿疑惑」を否定

古屋氏は同日午前に国会内でぶら下がり会見に応じ「過少申告はない」と述べ、「二重帳簿疑惑」を否定した。

しかし、野党は「ぶら下がりでは足りない」と書面での説明を要求。国民民主党は本会議が開かれないことが決定されたにもかかわらず、同日夕方に代議士会を緊急に開いて古屋氏を痛烈に批判した。

「被災地は復興にむかって頑張っている。そういう時に全国から衆議院議員を集めて、この状況(本会議が開かれない)だ。古屋委員長ひとりの都合で、全部の日程が狂ってしまった」(泉健太同党国対委員長)

怒りや混乱が渦巻いたのは野党だけではない。自民党内でも古屋氏に関する報道によって混乱が起きた。

ある自民党の議員秘書は「午後3時のニュースで本日の本会議が流れたと言っていた。それなのに党の国対に聞いても『まだ決まっていない』と言うんだ。でもニュースですでに確定的に流れてしまっている。そんな状態で東京で時間を潰すわけにはいかないから、代議士には地元に帰ってもらった。やらなくてはいけないことがいっぱいあるからね」と、いかにも迷惑そうに話した。

古屋氏は故・安倍晋太郎元外相の秘書

野党筆頭である立憲民主党の辻元清美国対委員長は「またアベ友ではないかという気持ちがある」と、豪雨迫りくる中「赤坂自民亭」の様子をSNSで拡散して顰蹙をかった西村康稔官房副長官の例をほのめかしつつ、うんざりした様子で記者団に語っている。

古屋氏は安倍首相より2歳上で、同じ成蹊大学出身。故・安倍晋太郎元外相の秘書も務めたこともあり、両者の縁は極めて深い。古屋氏は第2次安倍内閣で国家公安委員会委員長兼防災担当相兼拉致問題・国土強靭化担当相として初入閣を果たしており、思想信条的に最も安倍首相に近いひとりでもある。

「今回の件は立法府の要(かなめ)である議運委員長が泥沼にいたということが明らかになり、非常にショックだ。何よりも先に大島理森議長も自民党も古屋委員長に説明を求めるべきだが、明日の本会議は古屋委員長の職権でたてられている。果たしてこのままの状態で、大島議長は(本会議開会の)ベルを押せるのか」(辻元氏)

野党からの指摘を待つまでもなく、この問題は極めて深刻である。これについてさすがに政府与党もかばいきれない様子で、菅義偉官房長官は17日午後の会見で「議員がご自身で説明されるべき」と述べ、自民党の二階俊博幹事長も「本人が説明する」と言及。公明党の山口那津男代表も「説明責任を尽くすことが大事だ」と指摘している。

加計学園問題、日大アメフト問題など、「当事者がいかに誠実に説明するか」が問われる事件が相次いで起きている。古屋氏は自民党の幹部議員として、手本を示すべきだろう。