花井悠希の朝パン日誌 vol.23
パンが私を呼んでいる?〈山下製パン所〉と〈テーラテール〉

ここを訪れて下さっている皆様にはお馴染みかもしれませんが、今回は少しお久しぶりな帰省定期便です。そう、帰省してましたよ回です。紹介するの東京だけじゃないから気長に全国のみなさんも読んでねと暗に訴えているシリーズでもあります(笑)。今回は名古屋と伊勢で出会ったパン屋さんをご紹介!

外宮参道でパン詣で…山下製パン所

三重に帰省するとやっぱり訪れたくなるお伊勢さん。内宮はいつも混んでいるのだけど、外宮や別宮は混雑を避けられるのでよく訪れます。

外宮参道沿いにあるパン屋さん〈山下製パン所〉。同じく参道にあるビストロ〈ココット山下〉さんのパン屋さんです。

お隣はなんと牛乳屋さん。みんな牛乳飲んだりソフトクリーム食べたり。こんなナイスで懐かしさも感じる並び、なかなか出会えないはず!眺めているだけでメロンパンが進みますね。(何故メロンパン?)

寄ってらっしゃい見てらっしゃい!全シズル感好き、集合だよー!ココット山下のハンバーグを使う、たまにしか登場しないらしいレアなパン。もうハンバーグはビストロのそれ。ケチャップじゃないトマトソースはエッジがたちつつもトマトをみずみずしく使い、肉の美味さ、生地の甘みもしっかりキャッチできる濃度で仕上げられています。その本格的な味わいは、ダークブラウンの生木のテーブル、右手には赤ワイン。そんなお出かけなシチュエーションが眼に浮かんでくるよう。

おぅおぅ、カウンターの向こうでたった今しがたソースを作り上げた、無駄なく動くシェフも見えてくるよ。(惚れるな注意、幻影です。)

モチモチのその先、シトシトとして、水分をたゆんたゆんに有している真っ白な生地は、口内に届くや否やシュンと溶ける。そして少しの甘さを広げます。この甘さ、知ってる。そうだ、白ご飯の甘みに通じるものがあります。

ハンバーグをまるっと一個使っているから、ズシリと重い。だけどこのハンバーグ、パンの柔らかさの延長線にあって、同じくらいやわやわと容易く解けるんです。そしてその形が崩れていく全細胞から、肉汁がたわわに流れ出て、真っ白なたゆんたゆんの生地に遠慮なく進出して溶かしていく。生地が受け止めきれず、手を伝う肉汁。そこに、ローストされ旨みが濃縮されたパプリカの甘い口づけ。なんという艶っぽさなんでしょ。ちょっとはその艶分けてくれ!(何にお願いしてるんだ)。柔らかいが故に、のほほんと食べているとポロポロと肉が、ポタポタと肉汁が逃げちゃうので、ここは一つスピーディによろしくお願いします(笑)。

まずは温めずそのまま頂くと、生地の繊維1つ1つがしなやかに溶け、舌に吸い込まれていっているんじゃないかと驚くほど滑らかです。これは期待しちゃう。

ブリオッシュってやつは、温めるとまた違う顔を見せてくれることを私は知っている。ホッホッホ。なので容赦無く半分は温めの刑!想像を裏切らず、ほわんほわんとしたシフォンケーキのような食感に転身!

中には、カスタードとプラリネクリームを合わせたクリームがスタンバイ。少し粘度のある(ピーナッツバターみたいな)奥行きのある味わいと、キャラメリゼされたナッツがカリカリと香ばしくアクセントを与えて、ほっこり。シフォンケーキに生クリームを添えたみたいなデザート感覚のパンです。ご褒美度高し!

式年遷宮の後、素敵なお店が増えている外宮参道。お伊勢参りの楽しみがまた増えました♪

あの子にそっくり…〈terre à terre(テーラテール)〉

もう1つのパン屋さんは、私の家族が最近よく行っているらしい名古屋のパン屋さん。お店に着いて、ズラッと並んだパンを見て、あれ?と気づく。

ものすごく"「365日」に似てる!" 母に小声でそう伝えた時、視界の縁で捉えたのはまさしくその「365日」のショップカード。まさか、また私は狙わずして杉窪章匡氏プロデュースのベーカリーに辿り着いていたのか。(
第16回の朝パン日誌参照)店員さんにお伺いしたらやはりそうでした。この度もお世話になります杉窪さま!

歯切れよい豊満ボディのパンがあんこを包み込む。あんこのごつごつした形に添い遂げる柔らかさが優しい。そしてこのあんこが甘さ控えめで、小豆の粒立ちの良さとホクホク感を際立たせていてしみじみ美味しいんですよ。そこに無塩バターが油脂の膜を作るものだから、なんだか温もりを感じる味わいになっています。いちごがキュンと、ついつい忘れがちな乙女心も思い出させてくれますよ(おそらく)。

見慣れたそれとは全く違う形しているけど、食べればしっかりクロワッサン。ぎっしりの層がピチピチと、バターを勢いよく弾けさせながら崩れていきます。層が歯を甘噛みしていくその小さな抵抗が愛らしくて仕方ありません。

そうやって口内を刺激する食感に気を取られていると、ふと気づけば見渡す限りのバターの海。さぁ、溺れる覚悟はできているか?(たまにはカッコつけたいお年頃)

甘さ控えめな生地はドライな風合い。層はゆとりの空間を持ち、空気たっぷりなのでさらりと涼やかな顔をしています。その余裕の隙間を、チョコレートがカリッと弾け甘やかにとろけ出し埋める。はい、こちらもれなく、私が度々言う"ツンデレ系"パンになっております。

紅茶の香りって、なんてこんなにリラックス出来るんだろう。瞳を閉じて身を委ねて、華やかで心満たす香りを隅々まで行き渡らせたい気持ちになる。

ブリオッシュ生地は何の抵抗もない柔らかさで、香りと共に溶けていく一体感。物語の流れを止めません。上手く出来てるなぁ。(なにさま!)

真ん中の紅茶ガナッシュがとろけ出すと華々しさは頂点に!さらに瞳を閉じて(もう閉じてるけど)クロッカンショコラ同様のカリッとしたチョコレートの遊び心と戯れれば、もうあなたも「紅茶のブリオッシュ」のトリコなはずです。

予定を特に入れない贅沢な日曜日のブランチのシメにゆったり食べたい。そして願わくばお昼寝もセットにしてください(誰宛?)。

名古屋も三重も魅力的なパン屋さんが増えている噂を聞くので、これは帰省のたびにパン巡りツアーへ繰り出さないと追い付けなさそうです。また東海エリアの朝パン日誌更新もお楽しみに♪

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