日大アメフト部の選手が「監督やコーチの指示」で悪質タックルをおこなったと告白し、日本中で話題となった22日の緊急会見。この会見を最後までみたという、メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の著者で健康社会学者の河合薫さんは、自身が「剣道部」だった頃のエピソードを紹介するとともに、会見をおこなった日大アメフト部の選手にあえてエールを送ります。

レギュラーと補欠。日大アメフト選手の会見に関する雑感

日大アメフト選手の謝罪会見は見ていて、とてもとても切ない気持ちになりました。まだ、20歳。あのフラッシュの中での記者会見は、本人の想像以上のプレッシャーと緊張との戦いだったと思います。

記者たちはしきりに「なぜ、監督やコーチの指示に従ってしまったのか?」と繰り返し、その度に唇を噛み締め、「レギュラーから外され,練習からも外された」と答える彼。

「ああ、この人たちはレギュラーから外されること、試合に出れないということが、生活のすべてがアメフトになっている学生にとって、どれほどキツいことなのか。わからないのだなぁ」と、ため息が出ました。

そして、私は…、“あの時”のことが脳裏に蘇りました。

何度かお話していますが、私は大学時代剣道部(高校もですが)。バリバリの体育会系の剣道部です。

私は50人近くいる剣道部の中で、ただひとり1年生の時からレギュラーで試合に出場し続け、常にチームのエースを張っていました。

ところが、1試合だけ出られなかった。大学生にとって一番大切な試合と言っても過言ではない、4年生最後の引退試合となる関東学生大会です。

なんとANAの採用面接と重なってしまったのです。ものすごくショックで、どうにかならないものかと会社に問い合わせまでしたほどでしたが、覆るわけがありません。

「団体戦で全国大会に出よう!」を合い言葉に(個人では出てます!)、一緒に頑張ってきた仲間に、自分の都合で出場できないのは申し訳ないと思いました。

「試合に出られなくて、本当にごめんね」と謝る私に、「薫ちゃんのいない分まで、頑張るから!任せて」と答える仲間の存在はうれしかった。

……いいえ、違います。それはウソ。

「薫がいないのはイタいな〜」と言われることに快感を覚え、表向きは「私がいなくても大丈夫だよ」と言いながらも、内心は「私が出なきゃ、チームは勝てない」と思っていたのです。完全なる強者の思考回路です。

そして、試合当日。面接試験を終えて、私が試合会場に着いた時、全国大会行きが懸かった試合が行われている最中でした。

先鋒、次鋒が引き分けて、中堅が負けた。誰もが「もう終わりだ」と諦めかけていたのですが……、な、なんと私が抜けたことで入ったマンネン補欠のミヤちゃんが、見事な一本を決め、最後の大将にバトンを渡したのです。

結局、最後は負け、その試合を最後に私たち4年生は引退することになりましたが、ミヤちゃんの粘りで、誰もが納得のいく引退試合となったのです。

お恥ずかしい話ですが、私はその時に初めて、自分がいかに自分中心で4年間を過ごしていたかを思い知りました。

ミヤちゃんは、4年間、足が凍る寒稽古にも、真夏の鬼のような合宿にも、日々の稽古にも欠かすことなく参加し、一緒に汗と涙を流していました。

「全国大会に行こう!」を合言葉に、4年間一緒にふんばってきたのです。

私は常に表舞台にいましたが、彼女はステージに立つこともないのに、最後まで耐えていたのです。ホントは自分だってステージに立ってスポットを浴びたい。

なのに「頑張ってね」とレギュラーを励まし続けました。一度たりともいやな顔をすることなく、私に「頑張れ!」とエールを送り続け、常に100%の応援をしてくれていたのです。

どこの誰が補欠を目指して苦しい稽古に耐えるでしょうか。恐らく彼女は、幾度となく悔し涙を流していたに違いありません。

勝ったの、負けたのと、表舞台で流される涙以外の悔し涙が、同じ空間に存在していたことに私は最後の最後でやっと気がついたのです。

自分にスポットライトが当たらなくなったとき、日大のコーチや監督があのアメフト選手にかける言葉は他にあったはずです。

がむしゃらにスポーツに打ち込める学生時代だからこそ学べることがたくさんあります。今回のような「贖罪の気持ち」は……いらなかった。なぜ、その手助けをコーチや監督はしなかったのか。できなかったのか。

ひとつだけ確かなのは、彼は今のしんどさを乗りこえたとき、やさしくて強い人になると思います。

ふんばれ! とにかくふんばれ! そんなことを思いつつ、1時間もの記者会見をすべて見てしまいました。

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