“自我に目覚めるロボット”から学ぶこと―― 『疾風!アイアンリーガー』にアミノテツロー監督が込めたメッセージとは?
1990年代前半、テレビ東京系列で1年にわたって放送されたアニメ『疾風!アイアンリーガー』。ロボットたちがスポーツで競い合うという斬新な設定からか、当時はもとより、25年経った今でも根強いファンのいるいわば伝説のアニメ作品だ。その『アイアンリーガー』が4月22日からはCSテレ朝チャンネル2でも放送中。なぜ、25年も前のアニメが今でも受けているのか――。前編に続き、アミノ監督に『アイアンリーガー』に隠されたメッセージを聞いた。

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――『アイアンリーガー』といえば、なんといっても「オレのオイルが沸騰するぜ!」というキャッチコピー。あれほどのインパクトがあるものはなかなかありません。どう誕生したのですか?

アミノ 改めていうと実にバカバカしいですね(笑)。でも、よく聞かれるんですがこのキャッチコピー、ぜんぜん覚えてないんです。どこでどうやって生まれたのかがわからない。特にこれと決めて作ったものじゃなくて、自然に出てきた。



――それにしてもある種ショッキングですよね。あ、オイルね……と(笑)。

アミノ そうか、こいつらオイルで動いているんだ、というね(笑)。ロボットが出て来る作品をやっていると、動力はなんだという話によくなるんです。でも、ボクは気にしなかった。まあ充電くらいはしてもいいけど、程度のもんでね。最初、「このロボットたちは何で動いているんだ?」と聞かれた設定制作のスタッフが「魂です!」と答えていたんですよ。まさにそれだなあって(笑)。

―― 一般的なメカ、ロボットもののアニメだと動力源が作品のキーになることもよくあります。が、『アイアンリーガー』ではそのあたりは気にしない!という潔さ。

アミノ 飛躍してますよね。他のメカものと比べれば明らかに特殊、全然違う(笑)。途中から出てくるゴールド三兄弟にしたって、なんでロボットなのに三兄弟なのかって話ですから(笑)。

セリフも最初はロボット感があったけど、だんだん人間くさいセリフが増えていって、兄弟間の会話もライバル間の会話も熱がこもってくる。ヤクザものだってあそこまではできないというくらいの恥ずかしさ、なんですよね。そこを作っていったのは、スタッフたちのボルテージがどんどん上がっていったから。



――やはり笑顔のマグナムエースに引っ張られたということですね(笑)。

アミノ 全体を決定づけるようなインパクトがありましたね。でも、よく考えればいきなり笑顔で現れてボールを掴んでいるというのはどうなんだろう(笑)。いやいや、お前最初からチームにいなかったじゃん、と思う(笑)。でも、そのなんでもありなところも『アイアンリーガー』の魅力のひとつなのかもしれませんね。



――笑顔で登場する主人公のマグナムエース、さらに「オレのオイルが沸騰するぜ」というインパクト絶大のキャッチコピーなど、『アイアンリーガー』は当時も今も新鮮な点がたくさんあります。今の時代も多くのファンがいるのは、そのあたりに理由があるのでしょうか。

アミノ もう何でもありですからね。だから、他のメカアニメにはなかなかないというのは間違いないでしょう。ただ、世の中の一部を切り取って鋭いドラマを作るのもひとつだし、世の中なんでもありなんだよというのをドーンと見せるのもひとつ。『アイアンリーガー』はそっちへ行ったんですね。これを人間がやるとややこしいけど、あのロボットたちがやってる分には「好きにやってれば」とバカバカしい感じで観られるので(笑)。

――そして、最後まで観ていくとそのロボットたちが成長していくんですよね。涙なくては見られないシーンもあったりして……。

アミノ そうなんです。よく、AIだなんだと言ってますよね。SFの世界では、知識を持ったAIのさらに上の自我を持つ存在、AE(※)なんていうのもあります。それでいうと、『アイアンリーガー』のロボットたちはまさに自我を持つようになる。自意識を持つ、自分が何者かを感じるようになっていく。それは『アイアンリーガー』のひとつのメッセージのようなものですね。
(※)『人工実存(Artificial Existence)小松左京「虚無回廊」から』



――自我を持つロボット、ですか。それは1993年当時にしてはかなり新鮮だったと思いますが、今ではまさにタイムリーなテーマかもしれません。

アミノ キアイリュウケンというキャラクターが出てくるんですが、こいつ、どこからどう見ても空手をやってるんです。設定も空手リーガー。だけど、なぜかサッカーをやっていて、本人は何の疑問も持っていない。それが、第8話で、自分が空手リーガーだということに気がつくんです。自意識の芽生え。本来の自分を初めて知るんです。

でも、そこで空手をするんじゃなくて、サッカーを続ける。「オレは空手リーガーだけど、自分の役割はサッカーの中にある」と自分の道を見極める。そこからそれまで以上に自分の力を発揮していくわけです。こういうふうに、いろんなキャラが自分に目覚めて他のロボットたちや人間たちに影響を与えていく。『アイアンリーガー』の軸というのはそこにあるんです。



――自意識が芽生えるというあたり、それこそ子供や思春期の人たちにも見てもらいたいような話ですね。

アミノ 昨今の様子を見ているとね、生き方がどうも流されているじゃないですか。情報はいくらでも集まるし、その中でどうしても流されることがある。

それはそれでうまい生き方をしているのかもしれないし、気楽でいいのかもしれないけど、本当は流れに乗るんじゃなくて自分の進む道は自分で選べるもの。自分の道を自分で見出して進んでみてもいいんじゃないの、ということをこの『アイアンリーガー』のメッセージとして受け取ってもらえたら。まあ、作っているときにはそこまで深い意識でやってるわけじゃなくて、結果そうなっただけなんですけどね(笑)。

――なるほど、その奥深さが放送から25年たった今も『アイアンリーガー』を愛する人が多いゆえんなのかもしれませんね。最後に、アミノ監督から視聴者、そしてまだ『アイアンリーガー』を見たことがない人にメッセージを頂けますか。

アミノ 基本的には楽しい作品なので、楽しんでみてもらえればいいんです。ロボットたちが笑顔でスポーツして、バカバカしいことやってるアニメですから(笑)。大人でも子供でも、層は問わない作品だと思いますから、いつでもどんなときにでも。ただ……そうですね、ちょっと迷ったり悩んだりしたときに見てくれるといいんじゃないでしょうか。

自分の生き方、自分の道の選び方。それをちょっと考えるきっかけにでもなってくれれば一番うれしい。ちょっとでも何かに気がつくきっかけに。そして、見てくれた人がまた語り部になって伝えていってほしいですね。そして作品がいつまでも生き残っていただければ、監督を務めた人間として何よりありがたいことですね。



■番組情報
「疾風!アイアンリーガー」

毎週日曜 よる10:30(2話連続放送)
http://www.tv-asahi.co.jp/ch/contents/anime/0292/
テレ朝チャンネル2