2020年の東京五輪は、'17年より1000万人以上多い4000万人のインバウンド客(訪日観光旅行者)が見込まれるという。そんな中、“ホテル特需”を当て込んでの建設ラッシュが活発化しているが、これによる宿泊施設の供給過剰が不安視され始めている。
 「国内主要8都市のホテル客室数は'20年末時点で32万9700室となり、16年末より32%増になることが、世界的不動産サービス業のCBRE(米カリフォルニア州)の日本法人の調べなどで明らかになっている。今後、京都は57%増の1万3000室、大阪は42%増2万1000室、東京は2万9000室が新規開業しますが、一方で、今年6月には一般住宅でも宿泊業が営める民泊新法が施行されるため、ホテル業界関係者の間では'20年時点での供給過剰状態が言われ始めているのです」(経済誌記者)
 昨年1月の時点で、みずほ総合研究所は東京で'20年に最大1万5000室が不足すると試算していたが、今年に入り一転、「ホテル不足は緩和され、むしろケースによっては供給過剰の可能性も強まっている」との見立てを示しているのだ。

 それをよそに、すでに東京五輪を「千載一遇のビッグチャンス」と捉えてホテル建設に積極的参入しているのが、まず外資系の大手ホテル業者だ。
 筆頭はシェラトンやリッツカールトンホテルなども傘下に入れ、世界で110万室を持つ世界最大のホテルチェーン、米マリオット・インターナショナル。
 マリオットは'20年までにデベロッパーの森トラストグループとタイアップし、東京・銀座と虎ノ門にマリオットの高級ホテル『エディション』を開業する。さらに大阪の御堂筋では、積水ハウスと提携し、27階建ての最高級ホテル『W OSAKA』を建設中だ('21年開業予定)。
 また、米ハイアットホテルアンドリゾーツも、'20年までに、日本国内で10カ所に新ホテルを開く予定だという。

 一方、国内のホテル業界もこぞってホテル建設を進めている。アパグループは、'19年秋に横浜ベイエリアで『アパホテル&リゾート 横浜ベイタワー』を開業予定で、客室数2311室と国内最大級規模のホテルで周辺の宿泊施設を戦々恐々とさせている。
 また、三井不動産グループは昨年から『ザ セレスティンホテルズ』を展開させた。
 「銀座8丁目、旧日航ホテル跡地に開業させた『ホテル ザ セレスティン銀座』を皮切りに、京都の祇園でも新たに開設した。京都のホテルは伝統を打ち出した切妻屋根と、現代建築を調和させたもの。銀座も京都も、いずれもハイクラスの客の長期滞在型をターゲットにしたものです」(業界関係者)

 日本のホテル御三家の一つである、ホテルオークラの『ホテルオークラ東京』本館は、'19年春のリニューアル再オープンを目指し、'15年から建て替え中だ。新ホテルは42階と17階の高層タワーからなり、オフィスも入る複合施設に生まれ変わる。
 「異業種からも五輪特需をアテにしてホテル建設が相次いでいる。際立つのは衣料品などがメーンの『無印良品』ブランドを勧める良品計画で、'19年春に銀座3丁目にホテルと旗艦店をミックスさせた施設をオープンさせる。他にも、婚礼大手企業やキャンプ用品企業までもが、ホテル進出を窺っているといいます」(同)

 民泊ビジネスにも大手が続々動き出している。リクルートHDは、民泊の仲介で世界最大手の米Airbnbと提携、'20年を目指し一気に参入する。一方、国内IT大手の楽天も、不動産情報サイトのLIFULLと共同出資した『楽天ライフルステイ』を発足、こちらも本格的に民泊事業に乗り出している。

 このようなホテル建設ラッシュ、民泊施設の増加も、五輪開催まではトントンで収支するとして、問題はその後だ。
 「五輪開催に伴い、それまでの7年間で客室数が倍増したブラジル・リオでは、その後、客室単価も稼働率も急降下し、倒産するホテルが相次いだ。日本も二の舞が懸念される」(経営アナリスト)

 そのため'20年以降の健全運営を睨む大手ホテルもある。ニューオータニホテルズでは、すでに五輪後の客室需要減を見越して研修会場などの利用に力を入れる方針を示している。
 「三井不動産傘下で日本を代表する御三家ホテル、都内日比谷にある『帝国ホテル』は、'20年まで大きな動きを見せていない。周辺関係者によれば、むしろ五輪後が勝負と見て、周辺地域も含めた建て替えと再開発を目指しているという話もある」(前出・経済誌記者)

 観光客利用者の争奪戦は加熱する一方だが、その後の展開を見定めたところが真の勝者となりそうだ。