『2000社の赤字会社を黒字にした 社長のノート』(長谷川 和廣著・かんき出版刊)

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赤字会社の人に企画書を書いてもらうと、プランは立派なのに、「いくら儲かるか」が書かれていないことが多い。これまで2000社超の赤字企業を再生させてきた長谷川和廣氏は「利益についての発想がスッポリ抜け落ちている『お役人型ビジネスパーソン』では困る。仕事は利益ありきで考え、そのために必要なコストを逆算すべきだ」と説く――。

※本稿は、長谷川和廣『2000社の赤字会社を黒字にした社長のノート』の一部を再編集したものです。

■「利益を出す!」という発想が抜けている人が意外に多い

以前、私が再生させたあるメーカーで、セールスプロモーションのための店頭イベントを開催することになりました。イベントの成否は主婦層をどれだけ集客できるかにかかっています。

担当者からプランが上がってきたとき、それは一見完璧なものに見えました。集客法や雨天の場合の対処法まできちんと練り上げてあったのです。

しかし……、そのプランには「いくら儲かるか」という記述が、どこにも見当たらなかったのです。

冗談のような話ですが、利益についての発想がスッポリ抜け落ちている「お役人型ビジネスパーソン」は意外に多いものです。

そしてその大半は、自分がそうだということにまったく気づいていません。特に赤字会社の社員にこの手の企画書を提出させると、半数以上に利益に関する記述が見られないことも珍しくないのです。「いくら儲かるのか?」を常に考えることが仕事人の基本です!

■利益を生むため口ぐせとは?

あなたが上司という立場であるなら、良い会社にするために立ち上がらなければならないケースが多々あるはずです。しかし、組織の壁は厚い。足の引っ張り合いは日常茶飯事。また現実問題として、昇進するにしたがって無気力になる人も多いはずです。しかし、利益を生むシステムを作るために、やるときは断固やるべきです!

そんなとき、私は次のような口ぐせをつぶやきます。

・不人気を覚悟する
・ためらわない
・ひるまない
・誠意を持って、事に当たる
・毅然とした態度を貫きとおす
・忍耐強く行う

改革への決断、実行への強い意志、結果への覚悟が必要なのです。同時に明確な改革目標を部下に理解してもらい、達成への明るい見通しを示さなければなりません。

■ビジネスの極意は相手の支払い能力の見極めにあり

あなたは営業というのは取引先に商品を売り込み、請求書を送ったらそれで終わりと考えてはいませんか?

実はこのタイプほど、会社にとって危険な営業マンはいないのです。理由は、相手の支払い能力についてノーケアだから。しかし順調なときは、この問題は顕在化しません。

でも、これが怖い!

不景気のときには、支払いのちょっとした遅れや貸し倒れなど、あなた自身の失点に直結する落とし穴が待っているからです。

私は昔からお客様を支払い能力によって、5段階に分類していました。支払いが1カ月でも遅れたところは現金着払いでないと商品を渡さない、などといったことは日常茶飯でした。常に取引先の支払い実績に注意を払い、そしてそれに沿った対応をすることが肝要なのです。お金のないところから、どう回収するのかがビジネスでは一番難しい仕事なのですから……。

■「初めにコスト削減」ではなく「初めに利益ありき」

市場競争が激化すると、企業間ではいかにコストをカットするかの競争にシフトしていきます。もちろん収益を確保するためには、コスト削減は必要不可欠です。

しかし、コストを削減した結果、売り上げや利益が下がってしまったという企業も珍しくありません。接待を禁止したせいで大口の取引先を失う、人件費削減のためにリストラしてその分をアルバイトで埋めようとしたら、彼らの能力があまりに低くて現場が混乱したなど、本末転倒のコスト削減は枚挙にいとまがありません。

実は、真にコストパフォーマンスを求めるということは、「最小の投資で最大の利益を得る」では不正解。「最大の利益を得るために、必要な投資を最大限に行う」というところから考えるべきだと、私は思います。

企業がまず考えるべきは、「初めにコスト削減」ではなく「初めに利益ありき」ということ。私は細かいコスト削減も徹底的に行いましたが、同時に問屋筋の皆様をハワイ旅行にご招待するなど、業界中が驚くような大胆な投資も行ってきたのです。経費としては交際費になるのでしょうが、実際には「人」に投資していると言えます。

■コスト削減アタマでは、なぜ利益が得られないか?

なぜ「最小の投資で最大の効果」を狙うことがダメなのか、突き詰めて考えてみましょう。

あなたが営業マンだったとします。コスト削減を第1に考えるなら、一切飛び込み営業などせずに、お得意様ばかりをルート営業すればいいわけです。交通費も労力もかからないですし、残業も減るので余計なコストは削減できます。しかしラクをした分、当然、営業成績は下がります。

次に「最大の利益を得るために、必要な最大投資を行う」というスタンスの営業を想定してみましょう。まずルート営業の成績をほとんど落とさずに、時間を作るために何ができるかを考えます。毎日回っていた訪問を1日おきにする、電話ですむことは電話ですます、受注システムを簡略化するなどして効率化を進めます。そして空いた時間を新規開拓に充てるのです。

コスト削減という言葉の怖いところは、手抜きを誘発する点にあります。「何もしないほうがマシ」という発想は、経営者にとっても社員にとっても命取りになります。

■コストを削減して収益力を高める2つの手法

私が50億円の赤字を抱えていたニコン・エシロールで実行したコスト削減の手法は「総量規制」と「ゼロベース予算管理」です。同社はニコンとフランスのエシロール社が2000年に合弁で設立したメガネレンズメーカーです。

「総量規制」とは、各構成要素ごとに量を決めるのではなく、総量を上回らないように規制することで、製造費の削減に効果的です。人間は不思議なもので「30日間、ランチは毎日500円」と決められるより、「1万5000円でやりくりしなさい」と言われたほうが気持ちがラクになり、工夫する楽しみを感じます。つまり、現場の裁量に任せるほうが高いモチベーションを維持できるのです。

「ゼロベース予算管理」とはカーター元米大統領が考案した手法で、予算案を前年ベースで考えるのをやめて、1から各部門に予算を割り当てることです。年末の駆け込み工事のような予算確保のためだけのムダ使いが減るだけでなく、必要なものにはきちんと予算をつけるわけですから売り上げに影響を及ぼしません。

ニコン・エシロールではこの2つの方法で製造部門は20%、営業・一般部門で30%のコストを削減しました。

■仕事の報酬は仕事。良い仕事をしたから次の仕事がやってくる

「仕事の報酬は仕事」という言葉は、私がまだ30代の初めに、ある外資系企業でプロダクトマネジャーとして、日々、仕事に追われていたときに上司から教えられたものです。

そのときは、ある食品関連のマーケティングを任されていました。プレゼンテーションも5回はやりましたが、まったく企画が通りません。

これが最後だと思い、徹夜をして必死になって考え、ようやく提案が承認されました。その商品はその後、大ヒットし、会社の売り上げにも大きく貢献しました。それからです、いろいろな仕事が私のところに舞い込んできたのは──

そんなときに上司に呼ばれ、「仕事の報酬は、仕事なのだ」と言われたのです。当たり前な、単純な言葉ですが、今でも心にずしりと残っています。あの人は良い人だとか、あの人は真面目だとか、あの人は頭が良いとか──。それだけで食っていけるほど、ビジネスは生易しくありません。良い仕事をしたから、そして売れるものを作り、会社に貢献できたからこそ、次の仕事がくるのです。

だからといって、仕事が舞い込むものではありません。あくまでも、「仕事の報酬は仕事」。

お客様や取引先、そして自社に大きく貢献し、利益を出したからこそ、次の仕事に恵まれる。

そして利益が出たから、自分や周りの人たちの生活も潤うのです。

(会社力研究所代表 長谷川 和廣 写真=iStock.com)