働き方改革のテーマの1つとして話題に上る「裁量労働制の拡大」。今回は知らないと痛い目に遭う基本のキを紹介します(写真:xiangtao / PIXTA)

「働き方改革」のテーマの1つとして話題に上る「裁量労働制」。今国会に提出される「働き方改革法案」には、裁量労働制の対象拡大については盛り込まれない見通しですが、生産性向上の一手として期待されています。

今回は、その「裁量労働制」に関する、現場で実際にあった大失敗を紹介します。

ゲーム会社の中堅社員・高橋さんの例

ゲームアプリの開発会社に勤める高橋さん(仮名)は、役職はついていないものの社歴もそこそこ長く、経営陣と現場社員とのパイプ役として重要なポジションを担っている38歳の男性です。

事の発端は職場の「労働担当者」になったことでした。「労働担当者」とは裁量労働制(専門業務型裁量労働制)の導入で必要となる労使協定の締結をする労働者側の代表者のことです。

高橋さんは「頼まれたから軽い気持ちで引き受けました」と言いますが、「裁量労働制」についてよく知らずに安請け合いすると思わぬトラブルに巻きこまれかねません。

高橋さんが労働担当者としてサインした会社との協定書では「1日の労働時間を8時間とみなす」となっていました。しかし、現場の勤務実態は少なく見積もっても「10時間」だったのです。裁量労働制における労働時間の話になると、「どうせ何時間やっても「みなし」だから変わらないよ」と言う方がいます。しかしそれは大きな間違いです。

裁量労働制では、対象となる業務であって一定の手続きをすれば、実際の労働時間とは関係なく、あらかじめ決めた「〇時間」としてその日の労働時間をカウントすることができます。そのため、1日の労働時間を「8時間」とみなすと、その日は何時間働いても「8時間」です。これが、労使協定で「10時間」とみなしていればその日の労働時間は「10時間」となります。

つまり、法定労働時間の8時間以外に1日当たり必ず「2時間残業している」とみなされるのです。そうすることで、毎日2時間分の残業代が支払われるというわけです。

例えば、わかりやすく時給1,000円の人が裁量労働制の対象となったとしましょう。労使協定でみなし時間を「8時間」としていれば、実際には何時間働いても1日8,000円ですが、これを「10時間」とみなしていれば、実際の労働時間は「8時間」の場合と同じでも支払われる給与は10,000円となるわけです。1か月20日とすれば、同じ仕事をしているのに実に40,000円もの違いが、これが1年間にもなると480,000円の差になるというわけです。
 高橋さんはそうとは知らず、裁量労働制の人が2時間分の残業代を受け取れなくなる協定書にサインをしてしまったことになります。結果として、「あいつに同意して失敗した」「経営陣の犬」など同僚から恨みを買ってしまうことになりました。

裁量労働制では「1日10時間」が実質上限になる 

「時間外・休日労働に関する協定届(通称・36協定)」で定められている、残業時間の上限は週45時間(特別条項除く)です。したがって、裁量労働制であっても週45時間を遵守しようとすると、みなし労働時間は「1日10時間」が上限に近い協定時間になります。

なぜなら、みなし労働時間を「1日11時間」としてしまうと、その月の稼働日が20日であれば必然的にその月の残業時間は60時間以上となり、36協定の上限時間を超えてしまうからです。実際の労働時間よりも労使協定で締結された労働時間が短く感じる人が多いのは、36協定に抵触しないよう会社が調整したから、という可能性があります。

そのため裁量労働制は、残業代が「少ない」「割に合わない」という不満が噴出するケースも少なくありません。ここを理解せずに簡単に労働者代表としてサインしてしまうことの怖さを理解しておく必要があります。サインをした後に「お前のせいで給与が安くなった」なんて言われても手遅れなのです。

今後、ますます労働者代表の役割と責任は大きなものなっていくでしょう。変に安請け合いをしてしまうと思わぬところで会社と社員の板挟みとなってしまいます。では、労働者代表になった場合、どんな知識を最低限持っておく必要があるのでしょうか。

まず、裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。この2つ、対象となる業務と、導入のプロセスに違いがあります。

1)専門業務型裁量労働制

新商品の研究開発等その業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者に委ねる必要があり、使用者が具体的な指示や命令をしないこととする業務がこの制度の対象となります(労働基準法第38条の3)。「裁量がある」とは、自己の考えで判断し、業務を進めることができる事をいいます。したがって、新卒や社歴が浅い社員にはなじまない制度といえるのです。そして、対象となる業務も、

/珪ι福新技術の研究開発等
⊂霾鷭萢システムの分析・設計
5事の取材または編集
ぢ膤悗砲ける教授研究
ダ罵士など

上記をはじめとする19の業務に限られています。また、これらの業務であっても、裁量労働制を導入するにはみなし労働時間等を定めた労使協定を使用者と労働者代表とで締結し、労働基準監督署長に届出なければならないのです。

2)企画業務型裁量労働制

「事業の運営に関する事項について、企画、立案、調査及び分析する業務」であって、「その業務の遂行方法を大幅に社員に委ねる必要がある」ため、その業務の遂行等に関し、会社が具体的な指示をしないこととする業務が対象となります(労働基準法第38条の4)。

経営企画の業務などが該当するのですが、この制度を導入するには専門業務型とは異なる手続きが必要となります。まず、対象となる事業場ごとに労使委員会を設置しなければなりません。

そして「対象労働者の範囲」「みなし労働時間」等、所定の事項について決議を行い、その決議届を労働基準監督署長に届出なければならないのです。なお、こちらは専門業務型と異なり、社員の個別同意が必要となるのも特徴の一つです。

柔軟な働き方を可能にすると言われる裁量労働制ですが、問題点としては次の5点が挙げられます。

 屬澆覆兄間」が実態とかけ離れている

例えば、実際には日々、平均で10時間はかかる業務であったとしても、労使協定の締結時に1日の労働時間を「8時間」と協定している場合は、いくら働いてもその日の労働時間は「8時間」となり、1日2時間、1か月では約40時間、さらに1年間で480時間ものサービス残業が発生してしまうのです。

⊆尊櫃砲郎枸未与えられていない

会社によっては、完全に部署単位で裁量労働制を導入してしまっているケースがあります。そこに配属された人は、その人のスキルに関わりなく裁量労働制が適用されてしまっているため、本来であれば「業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務」について裁量労働制を採用するべきところ、「実際には上司の指示に従い働いている」社員でも裁量労働制対象者として扱われてしまうのです。

専門業務型で挙げられている業務に該当しない

前述したようにこの制度を適用できるのは19の業務に限られています。例えば、単純にデータの入力および管理の業務であるにもかかわらず、拡大解釈して「情報処理システムの分析」として届出てしまっているようなケースです。

法定休日には裁量労働の適用は不可

た写襪箋抛の割増が支払われていない

あくまでも、「1日の労働時間」をみなすことができるというだけの制度ですので、深夜の時間帯に勤務をすれば、当然に深夜割増の支払いが必要になります。また、法定休日には裁量労働制が適用できないにもかかわらず、平日と同じように「みなし時間」として誤った扱いをしているケースも散見されます。

ハ働者代表の選出方法に問題がある

労働者代表の選出方法は、本来は選挙等による民主的な方法で選出しなければならないのですが、「あらかじめ文句を言わないと思われる人を指名し、過半数の同意もとらない」といったような形だけの労働者代表による労使協定になっているケースもあります。このようなケースでは、そもそも協定が無効となってしまうことも考えられます。

以上のような問題点を念頭に置き、社員に不利益がないか精査し、また疑問点は会社に問い解決した上で、導入に応じるか決めることをおすすめします。