音楽と人々との関係の在り方について考えてみた!

先日、筆者の好きな音楽アーティストのアルバムCDをiTunesに取り込んでいる最中、ふと「そういえば今の若い人たちはCDから音楽をリッピングするなんて手間は掛けないんだろうな。というか、そもそもPC(パソコン)を自宅で使わないか……」と考えていました。

思い返せば、CDのリッピングが問題視されたのは2000年頃。当時はまだ音楽をパソコンで取り込むとか、MP3データにして持ち歩くといったことは珍しく、その取り扱いに関しても様々に議論があった時代です。そのため2002年あたりからパソコンへの取り込みができない「コピーコントロールCD(CCCD)」といったものが登場してきましたが、音楽CDとしての規格上の逸脱(レッドブック違反ではないが規格外用途)、コピープロテクトの甘さによる無意味さ(結局リッピングできてしまった)、そして何より音楽CDとしての音質が悪くなるという本末転倒ぶりもあり、早々に世の中から消えていきました。

そんなすったもんだの2000年代も振り返ってみればまだまだ音楽に元気があった時代でもあり、様々なジャンルとアーティストの作品がヒットチャートを賑わせていましたが、それも2010年代に入ってくると状況が一変します。AKB48に始まるグループアイドルによる楽曲がランキングを独占するようになり、またそのランキング自体もCDに付属する握手券などの特典狙いによる大量購入が大きな要因となるなど、音楽人気のみでのランキングとは言い難い状況を生んだことはみなさんもよくご存知のことかと思います。

そんな音楽と音楽業界の在り方に「音楽は死んだ」「若者の音楽離れ」などとまことしやかに囁かれるようになりましたが、本当に音楽は死んだのでしょうか。そしてまた若者は音楽を聴いていないのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回は音楽と人々との関係の「今」を考えます。


みなさんは音楽をどのくらい聴きますか?


■若者は音楽から離れていない
2017年4月に一般社団法人日本レコード協会が公開した「2016年度 音楽メディアユーザー実態調査」によると、音楽に関心があると答えた消費者は69%にのぼり、さらに有料聴取層に至っては32.6%と未だに音楽は人々が大きな関心を寄せるジャンルであることが分かります。

その内訳を詳しく見てみると、さらに面白い事実が見えてきます。音楽に関心があると答えた層を世代別に見れば中学生や高校生、大学生といった10代の若者でとくに関心が高く、無関心層はわずかに1割程度となっています。ところが20代では約25%、30代以降に至っては軒並み30%台と、年齢層が上がるに連れて関心が薄くなっていくことが分かります。

また注目すべきは有料聴取層で、高校生ではなんと54.3%もの人々が音楽を購入して聴いているのです。「音楽を買うなんて当たり前では?」と思う方もいらっしゃるかと思いますが、その購入比率は年齢層の上昇とともに下降していき、30代では早くも30%台に、50代以降では20%台にまで落ち込んでいます。

そしてこういった「音楽への強い関心」の度合いの薄まりは無料聴取層でも見られ、特に「新しい音楽を求める層」の減少幅は加齢によって急激に減少しています。一方で無料聴取層でも既知の音楽を無料で聴いている層は加齢とともに常に増え続けています。

つまり、若者の音楽離れが進んでいるわけではないのです。むしろ「中年の音楽離れ」が加速しているのであり、超高齢化社会によって世代人口が先細りとなっている今、人口比率的にボリュームゾーンとなっている50代や60代が音楽を買わなくなっているのですから、音楽媒体の売上が落ちているのは当然なのです。


若者は新しい音楽を強く求めている(資料より引用)


■音楽は聴きたい。しかし先立つものが……
主な音楽聴取手段に目を向けると、また違った考察もできます。音楽を聴く媒体として圧倒的なポジションを取っているのがYouTubeとCDです。意外にも「売れていない」と言われているCDがその上位に食い込んでいるのは、いわゆるインターネット上の風評とは随分違ったイメージがあります。

しかしその他の媒体に目を向けてみると、テレビやラジオ、インターネット配信動画やストリーミングサービスなど、様々な媒体が10%から20%台にひしめいており、音楽に触れる媒体が分散化していることが分かります。

つまり、音楽を手に入れる手段が多岐に分散したことでCDという媒体や有料ダウンロード配信といった手段が選ばれにくくなっているだけなのです。


音楽に触れる手段がこれだけ豊富になったことを実感させられる(資料より引用)


音楽の購入理由を精査しても、「アーティストが好きだから」に次ぐ形で「楽曲/映像を気に入ったから」がランクインするあたりに、無料音楽配信サービスやYouTubeなどがコマーシャルとして正しく機能している様子が伺えます。

一方で非購入理由では「無料の音楽配信サイトや動画配信サイト、アプリの利用で満足している」が上位にランクインし、さらに「金銭的な余裕が減った」ことが楽曲購入の減少理由の上位に入るなど、長引いた不景気の影響が大きく現れているようにも思われます。


音楽は聴きたいがお金がない……そんな声が聞こえてきそうな調査結果だ(資料より引用)


■大衆の音楽から個々の音楽へ
これらの調査結果と現在のスマホ全盛の時代におけるリスニング環境から、筆者は「音楽の環境音楽化」と「個人で楽しむ趣味化」が進んでいるのではないかと感じました。YouTubeなどではその勃興期より「作業用BGM」などと名前が付けられた違法アップロードによる楽曲を流すだけの長時間動画が大量にあり、動画配信サービスでありながら音楽のストリーミング配信のように利用する人は多くいました。

またAppleやGoogle、LINEなどによる音楽のストリーミング配信もユーザーを着実に増やしており、自宅でも外出中でもラジオ感覚で音楽を利用している人が増えています。


LINEモバイルではLINEの音楽配信サービス「LINE MUSIC」で利用するデータ通信量を料金に加算しない「カウントフリー」を導入したプランも用意されている


少子高齢化が進み購買のボリュームゾーンである人々が音楽から遠ざかりつつある今、特定の音楽アーティストを熱狂的に支持しそれがブームになるという時代は終わったのかもしれません。若者は若者なりの方法で音楽を探し、自分だけの音楽を手に入れようと必死ですが、それが市場へ数字として反映されていないことは非常に寂しくもあり悔しくもあります。

しかし、音楽が死んだわけではありません。むしろ音楽は以前よりも人々の「個々の生活」に環境音楽として浸透し馴染みつつあります。2000年代までは人々が同じ音楽を共有することでブームが起きそのブーム自体も楽しむ文化がありましたが、これからはそれぞれのリスナーが個々に探し出した素晴らしい音楽をSNSやインターネット配信を通じて発信しレコメンドしていく時代なのです。

筆者もまた、音楽に関心があり有料で聴取している31.5%の40代の層の1人です。一昨年も昨年も、新たにお気に入りのアーティストを見つけてCDを買い集めたりiTunesのダウンロード配信で購入したりしました。今年もまた馴染みのアーティストに固執することなく新たなアーティストを発掘し、SNSなどで「この曲いいよ!」と発信していきたいと思います。


個人が発信できる時代だからこそ、音楽にはまだまだ可能性がある


記事執筆:秋吉 健


■関連リンク
・エスマックス(S-MAX)
・エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
・S-MAX - Facebookページ
・連載「秋吉 健のArcaic Singularity」記事一覧 - S-MAX