東名阪で出店が続く鳥貴族。2018年2月末時点の店舗数は直営、FC(フランチャイズ)合わせて610店に上る(撮影:今井康一)

「上期に目標としていた(既存店)売上高4%増は達成できなかったが、下期はそれを目指して頑張っていきたい」。焼き鳥居酒屋チェーン、鳥貴族の大倉忠司社長は3月20日に開いた決算説明会でそう語った。

同社は3月上旬に2018年7月期上期(2017年8月〜2018年1月)決算を発表した。店舗網の拡大を続け、売上高165億円(前年同期比18.5%増)、本業の儲けを示す営業利益8.9億円(同51.0%増)と増収増益で着地した。

28年ぶりの値上げに踏み切る

鳥貴族は1985年に大阪府東大阪市で1号店を開業。「焼き鳥屋」という業態にありがちな赤ちょうちんにカウンターというイメージを払拭し、若者や女性でも入りやすい、テーブル席を増やすなど明るい店舗作りを打ち出した。

東名阪で出店を加速し、2018年2月末の店舗数は直営、FC(フランチャイズ)を合わせて610。商品面では食材に全品国産を使用。価格面も280円(税抜き)均一という低価格を武器に成長を続けてきた。

そんな中、鳥貴族は大きな決断を下した。2017年10月に28年ぶりの値上げに踏み切り、298円(同)均一に改定したのだ。人件費や求人費が上昇傾向にあることに加え、2017年6月に施行された改正酒税法によってビールの仕入れ価格が上がったことが値上げの主な要因だ。価格改定を実施したことが、今上期の増益へとつながった。

大倉社長は2017年12月、東洋経済の取材に対し、「値上げするタイミングはずっと検討していた。280円均一はデフレ環境下だからやってこられたが、今後は政府主導の政策で経済の風向きも変わってくると考えた」と語っている。

もう1つの要因は、人件費の抑制が進んだこと。従業員の勤務シフトを見直したほか、前下期から導入を開始した注文用タッチパネルで省力化を進めてきた。タッチパネル導入によって、1店舗平均で月20万〜30万円ほど人件費を抑えることができたという。1月末時点で直営店374店中206店の店舗に設置されており、今後も導入を進めていく予定だ。

苦戦が目立つ関東エリア

このような取り組みを進めているが、下期は楽観できる状況ではない。というのも、値上げを実施した2017年10月以降、客数減少が目立っているのだ。


前2017年8月期は通期で客数が1.4%増だったが、値上げ以降に前年同月を超えたのは2017年11月のみ。2017年10月は2度の台風、2018年1月は関東で雪の影響があったとはいえ、ぱっとしない状況が続いている。特に2018年になってからの客数は1月が6.2%減、2月が8%減と厳しい状況だ。

既存店売上高をエリア別に見ると課題が浮き彫りになる。地盤の関西圏では上期の累計で既存店売上高が3.8%増、東海圏も1.8%増と健闘している。他方、関東は2.2%減と唯一前年同期を割っている。関東は東名阪のなかでも重点的に出店してきたエリアであり、現在最も店舗数が多い。

大倉社長は、「関東での鶏業態の競争激化」を挙げる一方、関西については「競争激化がまだ緩い。関西から出てきた会社なのでブランド力の強さがあったと考えている」と述べた。


ワタミが展開する鶏業態「三代目 鳥メロ」。既存の総合居酒屋からの転換を進めている(撮影:今井康一)

大倉社長が分析するように、鶏業態の居酒屋は競争が過熱している。ワタミは既存の総合居酒屋を「ミライザカ」や「三代目 鳥メロ」という鶏料理居酒屋に積極的に業態転換してきた。ミライザカはハイボールを、三代目 鳥メロは生ビールをそれぞれ199円(税抜き)で販売するなど、ドリンクは価格が鳥貴族を下回っている商品もある。

鳥貴族の分析によると、主要顧客である20〜30代の学生・会社員の客数に大きな影響はなかったが、家族客や40代以上の客は値上げを境に来店が減っている。大倉社長は「20〜30代をターゲットに店作りをやっていくことは今後も変わらない」と述べ、ターゲットは変えずに客数の底上げを図っていく考えだ。

客への声かけを積極化

具体的には、外食店で重要視されるQSC(品質・サービス・衛生管理)を改善する仕組みを導入した。従来は、各店舗でマニュアルを徹底することに重点が置かれていたが、改善システムではQSCにかかわる項目を全店統一のチェックリストで細かくチェックする。各店の課題を明確にし、マネジャーと店長で改善計画をすり合わせ、実行していく。焼き鳥の調理技術や接客についても、担当トレーナーが店舗を回りながら指導する制度を設けた。


鳥貴族の大倉忠司社長。1985年に鳥貴族1号店を出店した。1986年に会社を設立し、社長を務める(撮影:山内信也)

さらに、タッチパネルを導入し席の回転率が向上した一方、ドリンクを中心に商品の注文数が伸び悩んでいるという新たな課題も浮上している。これについては、客への声かけを積極化し、追加の注文を促していく考えだ。

鳥貴族は2021年7月期までに営業利益率8%(今上期5.4%)、国内店舗数は現状の約1.6倍の1000店舗体制という目標を掲げている。大倉社長は「外食は類似店が出るとそちらに流れる傾向はあるが、今までやってきていることに間違いがなければまた戻ってきてもらえる」と自信を見せる。

上期は直営店とFC店を合わせ純増40店と順調に店舗網を拡大した。今後も規模を拡大しつつ、既存店を回復軌道に乗せることはできるか。鳥貴族の真価が問われる。