観測網の整備以前、地震が発生した正確な位置の特定は困難だった。水平方向はある程度予測できても、深さ精度は特に悪く、実際には深さ10キロ―20キロメートルの地震が、見かけ上は深さ100キロメートルで発生したようになっていた。

 「精度の向上でプレートの状態についてようやく議論できるようになった」(平田教授)。プレート境界の強度や力の分布など、地下の構造が3次元で分かり、再現できれば予測につながる可能性がある。

過去の地震解析「理論作る」
 飛躍的に進んだ海域での地震観測だが、まだ十分とはいえない。現在の観測網は日本海溝と南海トラフの一部領域で、高知県から宮崎県沖にかけた西側領域の設置は進んでいない。南海トラフ巨大地震に備え、整備が求められているが、数百億円程度かかるとみられ、早期実現は難しいのが現状だ。

 さらに、海域での観測は設置環境により使える機器も限られ、「陸域と比べると、まだまだ開発が必要な段階」(青井センター長)。このため、海洋機構は観測精度を高めながら設置コストを抑える観測機器や手法の開発を進めている。多点展開できるよう、大規模な掘削工事なく容易に設置できる海底下の浅い領域で、地殻変動を連続監視するシステムの構築を目指す。

 DONETの高度化も進む。海洋機構は水深2000メートルの海底から現在のセンサーの設置場所の5倍の深さの約5000メートルまで掘削してセンサーを設置し、地震を高精度・リアルタイムで観測するシステムを19年3月までに構築したい考えだ。

 センサー設置に先駆け、18年秋にも地球深部探査船「ちきゅう」を利用し、南海トラフでの掘削作業を行う計画。海洋機構の平朝彦理事長は「5000メートル掘れば地震の発生地点に大きく近づける。地震発生の早期通報や予測精度の向上につながる」と期待する。
(文=曽谷絵里子)