「テック企業への警戒心は日に日に強まっている──米ミズーリ州当局が法令違反でグーグルを調査した理由」の写真・リンク付きの記事はこちら

欧州の規制当局は、競争を抑止しているとしてグーグルを非難してきた。独禁法違反を調査してきた米連邦取引委員会(FTC)は2013年、比較的簡単に同社と和解した。独占禁止に賛同する者たちは、次にグーグルの脅威となるのは州の司法長官だと予想してきた。

その予想は、11月13日(米国時間)に現実となった。ミズーリ州のジョシュ・ホーリー司法長官が、グーグルが同州の消費者保護法や独占禁止法に違反しているかについて調査すると発表したのだ。調査のため、同長官はグーグルに対して自社製品に有利になるような検索結果の操作や、ライヴァルのコンテンツの排除、ユーザーデータの収集および利用などについて情報を求める召喚状を発した。同長官は声明を通じ、「消費者の個人情報が、業界大手の利益を膨らませるために危険にさらされる」ことがないようにすると誓った。

この動きを、連邦上院議員への出馬を目指すホーリー長官による宣伝行為と疑う向きがある一方で、グーグルがもつ驚くほどの市場支配力に対する当然の反応と見る者もいる。だが、ほぼ全員が、規制をめぐるグーグルの悩みがミズーリ州でとどまる見込みはなく、ホーリー長官の行動は、シリコンヴァレーの巨大企業各社にとってさらなる問題の兆しとなるだろうと意見が一致している。

インターネットにおける競争を専門とするアナリスト、スコット・クレランドは「ホーリー長官の件はこの先起きることの前触れなので、グーグル本社の人間は胃に穴が開きそうになっています」と語る。ジョージ・H・W・ブッシュ(父ブッシュ)政権で働いていたクレランドはさらに、「ホーリー長官は、グーグル問題に関して民主党と共和党の両方とかなり緊密に連携しています」と指摘した。グーグルを追うのは、「民主党であれ共和党であれ、法の執行や政策、政治の面で賢明なこと」だというのだ。

ホーリー長官が召喚状を発したのは、グーグルやフェイスブック、ツイッターの幹部が米連邦議会で、2016年米大統領選においてロシアの干渉に果たした役割をめぐって2日間にわたって厳しい質問で追究されてから2週間も経たないうちのことだった。

苦境に立たされるグーグル

シリコンヴァレー企業のために政界とのパイプ役を果たしているブラッドリー・タスクは、ホーリー長官の調査は、ある点から見れば「ある州のひとりの司法長官が行ったことです」と語る。だが、グーグルにとってもっと大きな懸念は、グーグルに対する公共のイメージが変わることだという。高速インターネットサーヴィス「Google Fiber」を自分の管轄区域に誘致しようとかつて奔走した役人たちは、いまはグーグルを追究すれば評判がよくなると思っているのかもしれないのだ。

タスクは、グーグルに対する役人たちの姿勢の変化は、Uberが直面した変化を思い出させると語る。Uberの場合、「同社と『関係しているのはすばらしいこと』から、同社を『攻撃していると見られるのはすばらしいこと』」へと、形勢が変わったという(ちなみに、タスクはUberに投資している)。

タスクはグーグルの扱いを、アマゾンが計画している第2の本社をめぐって都市や州が競い合っている状況と対比させた。アマゾンは、「たとえ支払わなければならない小売価格が高くても、多くの雇用をもたらす物理的に実体のある存在です」と同氏は言う。しかしグーグルの場合は、「経済に貢献しているという感覚がありません」。アルゴリズムに基づく入札は、「人々にとって、アマゾンと比べてはるかに実体がないのです」と同氏は続ける(タスクは、アマゾンの子会社であるホールフーズマーケットのコンサルタントを務めてきた人物でもある)。

グーグルはあらゆる面で強まっている政治的圧力への対処法を見つける必要がある、とタスクは指摘する。グーグルの立法問題担当チームが何を提案しようと、「ロビイストをどんどん増やすことがその対処法になるとは思いません。圧力を弱めるのに役立つ可能性はありますが、根本的な問題は(ワシントンとの)関係ではなく、会社のイメージなのですから」

大手テック企業への警戒心

大手テック企業から見れば、各州の検事は面倒を引き起こしてきた実績がある。米国政府のマイクロソフトに対する調査は注目を浴びたが、これは州の司法長官から始まったものだ。グーグルは2015年、ミシシッピ州の司法長官から召喚状が出されるのを食い止めようとしたが、共和党知事の州と民主党知事の州を含む40州の司法長官たちが反撃した。

グーグルは今回の声明で、「まだ召喚状を受け取っていませんが、ユーザーのためにプライヴァシーの保護を強化し、競争の激しい動的な環境で事業を続けています」と述べた。

グーグルの商慣行に関するホーリー長官の懸念は、検索結果における自社製品に対する特別な扱いなど、欧州連合(EU)が独占禁止法に基づいて同社に下した決定をある程度反映している。だが同長官は、グーグルなどシリコンヴァレーの大手企業に対して、近頃よく聞かれるポピュリスト的な表現も用いていた。

ホーリー長官の声明は、グーグルが収集する大量のデータに対する全般的な不快感を表明していた。ユーザーの位置情報や、オンライン上のクエリ、グーグルが米国におけるクレジットカード取引の70パーセントにアクセスできると推定されているような状況だ。「グーグルのように一企業が大量の消費者情報にアクセスできる場合には、企業がそうした情報を適切に利用しているかを確認するのがわたしの義務です」。そうホーリー長官は述べる。

ホーリー長官は37歳。ジョン・ロバーツ米連邦最高裁長官の書記を務めていた人物だ。最近、連邦上院議員への出馬をめぐって、元大統領顧問スティーヴ・バノンの支持を勝ちとった。バノンは、大手テック企業をリベラル派エリートの擁護者だと批判し、グーグルやフェイスブックを公益企業同様に規制するべきだと呼びかけてきた。

こうした新しい政治状況で、グーグルがEUと和解できなかったことは、より大きな意味をもつとVrge Strategiesの共同創設者であるマーク・ブラフキンは指摘する。同社は、支援運動やコミュニケーションに関してテック企業と協力するコンサルタント会社だ。「グーグルは今後、Google検索や『Adsense』、『Android』を対象に何年も続く欧州委員会の調査に直面するだけではありません。グーグルに対する決定は、競争を規制する世界中の当局による事例の基準になり得るのですから」

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