阪神電鉄の朝の普通列車は表定速度が低いが、そこにはダイヤの工夫がある(写真:wifineko / PIXTA)

筆者は東洋経済オンラインで2017年2月より、「朝の通勤通学時間帯、大手私鉄で最も速い列車は何か?」をテーマに、関東編(「朝」の首都圏大手私鉄、一番速い列車は何か)と関西編(「朝」の関西大手私鉄、一番速い列車はどれだ)、さらに日本全国(全国大手私鉄「朝ラッシュ」最速運転ベスト20)と3つの記事を掲載してきた。

また逆に、いちばん遅いノロノロ運転の列車はどれかについても、関東圏・関西圏に分けて調べてみた。それが「朝」の首都圏大手私鉄、遅い列車はどれかと「関西大手私鉄」朝のノロノロ運転ランキングである。

今回は関東編・関西編の結果を統合し、これらのエリアに含まれなかった名古屋鉄道(名鉄)名古屋本線と西日本鉄道(西鉄)天神大牟田線も入れ、東京メトロを除く全国の大手私鉄で、朝ラッシュ時に最も遅い列車は何かをランキングしてみることにした。

朝ラッシュ時に最も遅い列車は?

調査のルールは関東編・関西編と同じく、朝7時30分〜9時30分までに都心の終点駅(乗り入れ列車の場合は、自社線の終端駅)に着く列車。所要時間と表定速度(駅停車時間などを含めた平均速度)を算出するための区間は、各駅停車および特別料金不要の優等列車すべてが停車する駅のうち、都心の終点駅から最も離れた駅を起点とした。

所要時間・表定速度はこの時間帯に走る各種別のうち、最も遅い列車で比較した。ちなみに名鉄名古屋本線に関しては、名鉄名古屋駅が終点ではなく中間点に位置するため、豊橋―名鉄名古屋間と名鉄岐阜―名鉄名古屋間、2つの路線に分けた。

それでは20位から順に発表していこう。

まず第20位は、南海本線の準急行(駅などの表示は「準急」)が入った。泉佐野―難波間34kmを所要時間65分で走り、表定速度は31.4km/hである。第19位は名鉄名古屋本線(伊奈―名鉄名古屋・63km)の普通。同線は豊橋駅が始発だが、同駅は全時間帯、快速特急・特急・急行のみの発着で、普通列車は隣の伊奈駅発着となるため、この区間で調べた。所要時間は124分、表定速度は30.5km/hである。

さて、表定速度30km/h台はここまで。次からは20km/h台に入る。 第18位は相鉄いずみ野線・相鉄本線、湘南台―横浜間(21.8km)の各駅停車。この路線は朝の時間帯、湘南台発5時台から8時37分までがすべて各駅停車だ。その中で最も遅いのが所要時間44分の列車で、表定速度は29.7km/hとなる。

続いて第17位は阪急宝塚線(宝塚―梅田・24.5km)の普通で、所要時間50分・表定速度29.4km/h。第16位は京阪本線・鴨東線(出町柳―淀屋橋・51.6km)の普通で、所要時間は106分、表定速度は29.2km/hだ。第15位も関西勢で、阪神なんば線(尼崎―大阪難波・10.1km)の準急。同線は快速急行以外の種別は各駅に停車するため、準急も普通列車と変わらない。所要時間は21分、表定速度は28.9km/hだ。

遅さが目立つ朝の京王線

第14位は京阪中之島線・京阪本線・鴨東線(出町柳―中之島・53.3km)の普通。出町柳発中之島行きの普通は6時台に1本、7時台に2本あり、最も遅い列車は所要時間111分で表定速度は28.8km/hだ。

第13位には関東勢がランクイン。京王相模原線・京王線(橋本―新宿・38.1km)の各駅停車で、所要時間81分・表定速度28.2km/h。関東の大手私鉄では京王電鉄の遅さが目立ち、これでも京王各線の各駅停車では最も速い。京王線は朝ラッシュ時に極めて多くの本数を運行しており、全体的な列車の速度は低下せざるを得ない。

第12位は近鉄難波線・奈良線(近鉄奈良―大阪難波・32.8km)の普通。所要時間は70分、表定速度は28.1km/hである。第11位は、準急が15位にランクインした阪神なんば線(尼崎―大阪難波)の普通。とはいえ、この区間は準急も普通もすべて各駅に停車するので、所要時間も22分とわずか1分しか変わらず、種別の違いというよりは単にダイヤ上の問題といえるだろう。ちなみに表定速度は27.5km/hだ。

続いてベストテン内へいこう。第10位は混み合う路線として知られる東急田園都市線(中央林間―渋谷・31.5km)の各駅停車。所要時間70分、表定速度は27.0km/hだ。第9位も同じく東急電鉄で、東横線(横浜―渋谷・24.2km)を所要時間54分、表定速度26.9km/hで走る各駅停車だ。

通勤の大動脈である両線の朝ラッシュ時は非常に本数が多い。東横線は、急行・通勤特急・各駅停車を合わせて横浜発の列車が6時台13本、7時台19本、8時台は20本。田園都市線は中央林間発だと東横線より少ないが、途中の長津田発だと6時台と8時台が20本、7時台はなんと28本。特に田園都市線では、朝ラッシュ時に急行を運転せず、都心寄りでは各駅に停まる準急を走らせている。急行への混雑集中を防ぎ、追い抜きを減らして全体的な速度の平均化を図ることで、より多くの乗客を運ぶことを第一義にしていることがわかる。

第8位は、13位に続いて2回目の登場である京王線。今度は高尾山口―新宿間44.7kmを走る各駅停車で、所要時間105分、表定速度25.5km/hだ。

遅いのにはワケがある

第7位には西鉄天神大牟田線(大牟田―西鉄福岡・74.8km)がランクインしたが、これはちょっと意外だった。というのも同線は特急が表定速度67.0km/hで駆け抜け、全国大手私鉄「朝ラッシュ」最速運転ベスト20では第5位に入った速い路線だからだ。大牟田から西鉄福岡まで直通する普通列車は平日朝6時16分発の1本のみ。所要時間182分、表定速度は24.7km/hで、特急と比べると約3倍の時間をかけて走る。

まさにノロノロ運転だが、その理由は途中駅での停車時間の長さだ。西鉄柳川で11分、大善寺で8分、西鉄久留米で9分、西鉄小郡で6分、筑紫で9分、西鉄二日市で5分、春日原で5分、大橋で7分と、主要駅で計60分も停車する。所要時間の約3割が停車時間なのだ。

大牟田発の西鉄福岡行きがほぼすべて特急・急行で普通は1本だけという点からもわかる通り、普通列車はそのまま乗り通すのではなく、特に遠距離の場合は速い優等列車に乗り継ぐための存在としてダイヤが組まれているといえるだろう。

第6位は、20位に次いで2回目のランクインとなる南海本線(泉佐野―難波)で、今度は普通列車。所要時間は83分、表定速度は24.6km/hだ。

第5位は名鉄名古屋本線(名鉄岐阜―名鉄名古屋・31.8km)、所要時間78分で表定速度は24.5km/h。特急は同区間を所要時間28分・表定速度68.1km/hで走っており、普通列車は倍以上の時間がかかる。西鉄天神大牟田線の普通列車と同様、停車時間の長い駅があり、新清洲で8分、新木曽川では12分も停まる。名鉄岐阜から名鉄名古屋まで直通する列車のほとんどが特急や急行などの優等列車である点も西鉄と似ており、こちらも優等列車を主軸に据えたダイヤであることがわかる。

第4位は京王電鉄が3本目のランクイン。京王線(京王八王子―新宿・37.9km)の各駅停車で、所要時間94分・表定速度24.2km/hだ。この列車も、目立つところでいうと府中で7分の停車時間があるが、昼間に同区間を走る各停にも長時間の停車はあるため、朝ラッシュ時の運転本数の多さが遅さに影響しているといえるだろう。

昼の2倍時間がかかる井の頭線

そしていよいよベストスリーだが、第3位はまたもや続けて京王電鉄。吉祥寺と主要ターミナル駅の渋谷を結ぶ東京の大動脈、井の頭線だ。距離は12.7kmと短いが乗客数は多い。朝ラッシュ時は、吉祥寺発7時10分から8時42分まで約1時間半にわたって各停だけが26本も続く、まさに速さより量にこだわったダイヤ編成。最も遅い各駅停車は所要時間33分、表定速度も23.1km/hだ。昼の急行は最短16分なので、倍の時間がかかっている。

第2位は南海高野線(河内長野―難波・27.3km)各駅停車。所要時間73分、表定速度は22.4km/hである。関西圏では「鈍行列車」のことを「普通」と呼ぶのが一般的であり、第6位に入った南海本線(泉佐野―難波)も普通列車である。なぜ高野線は「各駅停車」なのか? そのからくりに関しては「関西大手私鉄」朝のノロノロ運転ランキングで記したのでご参照いただきたい。

そして第1位に輝いた(?)のは、阪神本線(元町―梅田・32.1km)の普通列車。所要時間88分、表定速度は21.9km/hであった。なぜこれほど時間がかかるのかに関しては、やはり「関西大手私鉄」朝のノロノロ運転ランキングで述べたが、途中の御影、西宮で7分、尼崎センタープール前、千船で6分など長く停車し、優等列車との接続や通過待ちなどを行うからだ。

「遅い列車」に見えるダイヤの工夫

しかも同線は朝ラッシュ時、6時台〜8時台の間は直通特急と普通がほぼ5分ごとに交互に発車している。つまり、早く遠くの駅まで行きたい乗客には決して負担をかけない、実に効率よいダイヤを組んでいる。「遅い」といっても、単にノロノロ走っているわけではなく、ダイヤの工夫の結果なのだ。

「遅い列車」といっても、優等列車を速く走らせるための通過待ちや接続のためだったり、あるいは数多くの列車を走らせて輸送力を増すためだったりと、各社・各線によってさまざまな理由が存在する。

調べれば調べるほど、各鉄道会社それぞれの乗客のニーズに合わせ、利便性よく運ぶ工夫をしているかがわかる調査であった。