薬物依存の治療薬はなかった

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清原和博、酒井法子、ASKA、高知東生、清水健太郎......。覚せい剤取締法違反(所持)で逮捕された著名人は多い。そして再犯を防ぐ道はかなり困難といわれる。治療薬がないという理由もある。

富山大学の研究チームが、覚せい剤の依存症を抑制する物質を世界で初めて発見、英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」(電子版)の2017年10月12日号に発表した。治療薬の開発につながる可能性があるという。

覚せい剤に特効薬なし、生涯の通院治療が必要

厚生労働省のウェブサイト「薬物依存症」の「治療法」を見ると、最初にこう書いてある。「薬物依存症を解消する特効薬はありません」。そして、薬物を断つためには、入院を含め生涯続く治療が必要だとしてこう続ける。「薬物が手に入らない環境をつくり、薬物を使わない生活を続ける自己コントロールの継続が目標となります。しかし、一人での決意ではほとんど持続しません。持続させるには、医療施設や相談所に通い続けるしかありません」。つまり、生活改善を徹底させる認知行動療法が中心になる。

富山大学の発表資料によると、薬物依存、特に覚せい剤依存の再犯率は60%と非常に高い。しかし、精神疾患ととらえて社会復帰を図る療法を行なうだけで、治療薬の開発は研究されてこなかった。

研究チームは、マウスに覚せい剤を投与する実験を繰り返した結果、脳の中で「TMEM168」という物質が大量に増えることを発見した。薬物依存は「快楽ホルモン」と呼ばれる脳の神経伝達物質「ドーパミン」の増加によって引き起こされる。ところが、「TMEM168」は別の物質オステオポンチンと結び付くことでドーパミン量を抑えた。そして、オステオポンチンをマウスの脳に注入すると、マウスは覚せい剤を欲しがらなくなった。つまり、覚せい剤中毒になったマウスにオステオポンチンを与えると、ドーパミンの量が減り、依存症の症状が収まるのだ。

研究チームの新田淳美教授らは発表資料の中でこうコメントしている。

「薬物乱用は大きな社会問題でありながら、精神疾患ととらえられ、医療や薬学の立場からの解決策が講じられてきませんでした。私たちは薬学の研究者として、再犯を防ぐことができる治療薬の開発を目指します。私たちが発見したTMEM168とオステオポンチンの化合物が、薬物依存の治療薬に結びつくことが期待されます」