大迫勇也の代役に浮上。何がセレッソ杉本健勇のスイッチを入れたのか
「このチームは、昨季はJ1でやっていたわけではありません。それを考えたら、選手たちは明らかに成長、進化を遂げています。これからがもっと楽しみ」
ジュビロ磐田戦で今季14得点目を決めた杉本健勇(セレッソ大阪)
J1第23節、ヤマハスタジアムでのジュビロ磐田戦後、セレッソ大阪のユン・ジョンファン監督は、その心境を語っている。先制しながら1-1に追いつかれるという悔しいドローで終わっただけに、ポジティブな点を探したのだろう。ただ実際、セレッソの選手の成長、進化は顕著に出ている。
そして最もブレイクしているのは、ストライカーの杉本健勇(けんゆう/24歳)だろう。磐田戦の先制ゴールを含め14得点。Jリーグ得点王を争っている。
「ハリルJAPANの切り札になるのでは」
ロシアW杯アジア最終予選、オーストラリア、サウジアラビアとの決戦で日本代表招集も囁かれているほどだ。
では、杉本を変えたスイッチはどこにあったのか?
杉本は過去、J1での最多得点は6点。19歳でリオ五輪代表に選ばれ、大器と言われながらも、その本領を見せてこなかった。昨シーズンはJ2で14得点したものの、伸び悩んでいた。
その変化のスイッチは、それほど複雑な場所に隠れていたわけではない。
「得点が取れるポジションを取れ!」
今シーズンからセレッソを率いるようになったユン監督は、ストライカーとしての杉本にプライオリティを与えた。これによって、ゴールに向かってプレーの迫力が増大。シンプルに結果につながった。
杉本は器用なところのある選手である。シュートだけでなく、ドリブル、パスなど技術レベルが高い。視野も広く、身体能力も非凡なものがある。ポストワーカーとして前線で体を張れるし、サイドに流れて起点にもなれる。
「男気がある選手」
チームメイトたちは言う。自己犠牲も厭わず、ユース時代は、試合の流れによってはセンターバックをすることもあった。
万能に映るだけに、杉本は多くの仕事を求められすぎたのだろう。
「健勇とは、練習中から『間に(クロスを)入れるから』とは話しているんですが、今日は狙い通り、完璧なタイミングでしたね」
磐田戦、杉本の得点をライナー性のクロスでアシストした水沼は、そう説明している。
「健勇はゴールを取るポジションを取れるストライカー。クロスを上げる方から見ても、ここ、という場所に入ってくれる。FWでも、誰もが持っている感覚ではないんです」
得点シーン。杉本はマーカーを置き去りにするようにトップスピードでニアに入り、滑り込みながら右足の甲で軽くミートしてコースを変え、ファーサイドに流し込んだ。決して簡単なシュートではない。クロスを入れる水沼との呼吸、マーカーとの緩急の駆け引き、ボールをヒットする技術、全ての条件を満たしていた。
杉本はいわゆるクラシックなセンターフォワードだろう。横からのボールに強い。クロスを呼び込み、ボールをネットに放り込むセンスに優れている。磐田戦では、得点以外にもクロスから次々に際どいシーンを作っている。右サイド、松田陸からのクロスは左ポストに当て、水沼からのクロスにはダイビングヘッドで飛び込んだ。
Jリーグでは、サイドにドリブラーやトップ下タイプのパサーを置く場合が多く、「クロスの職人」のようなタイプが少ない。その点、クロスを得意とする水沼は、杉本の「最高の恋人」になっている。また左サイドバックで攻め上がりを信条とする丸橋祐介も、質の高いクロスを左足で供給できる。
両翼でお膳立てをする選手が、もうひとつのスイッチになったのだ。
「サイドからのクロスは、今年、チャンスも多いので、3本に1本は必ず決めないと」
そう明かす杉本自身、手応えをつかんでいる。特筆すべきは、今シーズンのシュート数が、柏レイソルのクリスチアーノに次いで2位という点だろう。ゴールをするための準備が整っている証左。誰よりも、得点が取れるポジションにいるのだ。
劇的な変貌を遂げつつある杉本だが、なにもゴール以外の仕事をおろそかにしているわけではない。
「杉本にボールが収まっていたので、そこは無理にいかず、収まるのは仕方ないと割り切ったところで、対応することにした」(磐田MF川辺駿)
杉本のポストプレーは何度もチームを救い、敵を警戒させていた。ボールを収めて展開。時間を作り、陣地を回復させた。ボールの落下点を見極める目もよく、バウンドも必ずと言っていいほど自分のものにしていた。
逆説的だが、ゴールというプライオリティがはっきりしたことで、プレー全体が安定し、怖さも出てきている。
「(代表選考を前に)やれることはやった。選ぶのは監督なので」
そう語る杉本は、本来のストライカーの匂いを放っている。代表に選ばれるだけの資格は得た。
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