大雨の中でも確かな技巧を随所で披露したチャナティップ。J1の“華”になりつつある。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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[J1リーグ23節]川崎2-1札幌/8月19日/等々力
 
 突然の激しい雷雨で、目の鼻の先で開催予定だったビッグイベント、多摩川花火大会が中止となった。本来ならバックスタンド越しに風情のある花火を拝めたはずだが、こればかりは仕方がない。
 
 だが、等々力陸上競技場の一戦は、そんな恒例の花火にも負けないくらいの娯楽を運んでくれた。降りしきる雨のなか、攻守が目まぐるしく替わる白熱の一戦。なかでもホームサポーターをも惹きつけたのが、コンサドーレ札幌のタイ人アタッカー、チャナティップだ。

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「コンディションはだいぶ良くなってきた。日本のサッカー、Jリーグの速さにも慣れてきて、自分らしいドリブルやパスも出せるようになってきました。楽しいです」
 
 そう話してニッコリ笑う背番号18は、並ぶと本当に華奢で、158センチ・56キロの公称サイズよりもさらに小さく見せる。だがピッチの上では威風堂々と立ち振る舞う。
 
 開始2分にジェイの落としから鋭い仕掛けを披露すると、同5分にはレーザービームのようなサイドチェンジのパスを右サイドへ通す。さらに9分にはエウシーニョと激しく身体をぶつけ合うも怯まず、ブラジル人SBがたまらずファウルを冒してイエローカード。30分にも奈良竜樹のレイトタックルを誘い、川崎CBは警告を頂戴した。前を向かせたら、阻止するのはなかなか厄介だ。
 
「日本に来る前から不安はなかったし、楽しんでやろうとだけ思っていた。まず必要だったのは仲間からの信頼。それがないとボールをもらえないし、サッカー選手になれないから。今日みたいにたくさんボールに触れると楽しいし、嬉しいです」
 
 大先輩のチームメイト、小野伸二からはこんなアドバイスをもらったという。
 
「ボールを受けたら、なにをおいてもまずは自分を発揮するんだ、と言ってもらった。すごくありがたかったし、ずっと大切にして心がけています」
 
 試合は川崎に2点のリードを許し、80分に敵のミスを突いて1点を返したものの及ばず、1-2の敗北を喫した。しかしながら夏に加入したジェイ、チャナティップのコンビは試合を重ねるごとにフィットしており、前線は都倉賢、ヘイスとの先発争いが激化。攻撃には幅と厚みが生まれ、今後に向けてかなりのポテンシャルを秘めている。ジェイはチャナティップについて「10番(トップ下)に相応しいプレーをしていて信頼性がある。巧いよ、彼は。これからもっといい引き出し合いができそうだ」と手応えを口にした。
 
 圧巻の加速力と切れ味鋭いパス、そして最終局面で発動されるクリエイティビティー。観ていてワクワクさせるアタッカーだ。
 
「もっと良くなると思うので、応援してください。コンサドーレは残留しますよ!」
 
 微笑みの国からやってきた英雄、チャナティップ。いよいよJの水に慣れ、本格ブレイクの気配がぷんぷんと漂う。
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)