なぜ、母親たちはニセ科学にハマるのか ――「母親たちの宗教戦争」に思うこと

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世の中には怪しい情報が蔓延している。
特に美容や健康に関するものは顕著だ。いわゆる「ニセ科学」とか「トンデモ健康法」というやつである。


トンデモ健康法は、自分を実験台にするのだと割り切って、リスクを承知の上で、手のかかる子どものいないライフステージのときに、自分自身で試してみるだけならまだいい。

しかし、そうではないのなら話は別だ。親自身が万一健康を害すれば子どもの世話がおろそかになるし、拒否できない子どもに試せば、子どもにも健康被害が及ぶ可能性がある。

また、ニセ科学はマルチ商法とからんでいることもよくある。私のもとにも勧誘が来たことがあったが、そのたびに「マルチって友だちなくすよね……」とさみしい気持ちになる。マルチ商法にハマった親の子どもだって、友だちづきあいに支障をきたすことだろう。

しかし、たとえ明らかな健康被害を被っていても、友だちをなくして孤立しても、ニセ科学を信じている人に「それは怪しいよ」という忠告をするのは無駄というものだ。こういう人はたとえ医師などの専門家が忠告してもまったく耳を貸さない。

何せ、本人たちは「私は子どものために勉強を欠かさず、子どもにとって最もよい情報をつねに追い求め、それを実践しているよい母親だ」と思い込んでいる。だから、忠告したほうが悪の枢軸側の人間にされてしまう。

それを見るにつけ、この永遠に分かり合えない感じって、なんだか宗教戦争みたいだよなあ……と思うのだ。

■本物の科学者は知らないことに謙虚である


そもそも、ニセ科学というのは、効果を実証するためのデータが不十分だとか、論文がないとか、そういう科学として認められるための条件を十分に満たしていないもののことをいう。ただ、一般人にとって論文を探したり読んだりすることはハードルが高いため、ニセ科学かどうかを判断するのは難しい。

とはいえ、ニセ科学提唱者の言説をよくみると、ある程度共通した特徴がある。
たとえば、下記のような特徴が挙げられる。

・効果を断言する
(→薬機法上断言できない場合は「期待できる」という言葉を使うことがあるが、これも断言しているのと同じようなものだろう)
・困ったことは何でも解決するという
(→「この水を毎日飲んだら肌がきれいになって子どもを授かりました!」みたいな「風が吹いたら桶屋が儲かる」式の体験談)
・「セレブも愛用」と宣伝している
(→もちろん、セレブが愛用しているものがすべて怪しいわけではないのだが、ニセ科学の多くはこの手の宣伝で無駄にキラキラしている)
・やたらと脅す
(→何もしていない人やほかの流派の信者は将来不幸になると主張)


私は、仕事柄、科学雑誌の記事の執筆のために、たくさんの科学者に取材することが多いのだが、上記のような主張をする人はほとんどいない。

取材をすると、「ここはまだわかっていない」「もしかしたらその説は正しいのかもしれないが、私の専門外だから明言できない」「そういう仮説はあるけれどまだ実証されていない」「根拠となる論文がない」という言葉がよく聞かれる。

つまり、真摯に科学を追求している人というのは、知らないことに対して大変に謙虚なのだ。そして、専門外のことは、そもそもよくわからないので、むやみに批判することもない。

■洗脳されやすい母親業界の体質


それにしても、どうして母親というのはニセ科学を信じてしまいやすいのだろう。子どもを産むと愚かになるから? そう斬って捨てるのは簡単だが、ちょっと待ってほしい。私は、母親業界の体質が、そもそもニセ科学と相性がよいのではないかと思うのである。

宗教の洗脳というのは、外の光を入れない部屋で極度に睡眠時間を減らして、生活リズムを崩すという手法をとるという。

なんだかよく似ていますね。そう、子どもを産んだ直後の母親の生活にである。とくに近年は「なるべく母乳で育てよう」という考え方が強いので、出産でボロボロの体を休めるために入院しているのに、全然休まらないくらいスパルタな母乳指導をする産院もある。
こうして、育児の幕開けとともに、洗脳されやすい人間が量産されていく。

そして、何でもかんでも子育ては母親の責任とする風潮が母親を苦しめる。
成人した子どもであっても、不祥事を起こしたら、母親にマスコミが押しかけて謝罪をしなければいけない社会だ。

反対に、難関大学に合格したり、オリンピックでメダルをとったりすると、これまたマスコミが殺到して母親の育児法が話題になる。だから、母親は賢くあらねば、子どもを立派に育てねば、というプレッシャーは強い。そして、子持ちの女性が仕事で社会的に認められるのは難しいので、子育てで承認欲求を満たそうとする人がどうしても増える。

「孤育て」もある。
核家族が増えたことももちろんだが、すごい勢いで進歩する科学も皮肉なことに孤育てにひと役買っているのではないか。だって、自分の親や近所のおばあさんなどの育児のベテランからの教えが、「非常識」になってしまうのだから。

そうなると、どうしても育児が育児書だのみになってしまうが、子育ては育児書のマニュアル通りにはいかない。ちょっと予定外のことが起これば、パニックになる。ああどうしよう。一生懸命やっているのに、なぜつまずくのか。藁をもすがる思いでインターネットを検索し、たくさんの情報の中から自分に都合のよい情報を信じてしまうのも無理はない。

ニセ科学にハマる人は、自分や家族が原因不明の体調不良に悩んでいることも多い。それで病院に行って「とくに異常は見当たりませんね」「本当にこの病気かどうかは断定できません」なんて言われたり、納得がいくまで説明してもらいたいのに、多忙な医師がうんざりした顔で適当な説明で済ませてしまったりすると、標準医療に不信感を持ってしまうのではないか。

そんなときに「これをやればお悩みはまるっと解決します!」と断言してくれる人が現れたらどうなるか。決して安くはない投資をして臨む健康法だ。これだけ払ったのだから効くよねという期待もあって、今までよりもよくなったように感じてしまうのではないか。そう、「病は気から」の反対である。

ずっと悩んでいたことが多少なりとも解消されれば、そりゃ「師匠! あなたのメソッドについていきます」となってしまうだろう。そして、ニセ科学を飾り立てる小難しい理論を解説してもらえば、なんだか自分が賢くなったような気がするものだ。

こうして、弱りはてた母親は、「世の中に蔓延する雑多な情報から、こんなに貴重な情報にたどり着いたんだ。私は賢い母親だ」という誇りで満たされる。これがニセ科学に「入信」する仕組みだと私は考える。

そしてもし、マルチ商法がからんでいる場合は、たいていはママ友からのお誘いでハマる場合が多い。こういうものは断るのが難しく、鉄の意志で断ると、必ず関係がぎくしゃくする。

何十年も連絡を取っていなかった、離れて暮らす地元の同級生から勧誘されたというのであれば、断ってそれっきり会わなければ終わりだが、誘ってきた相手が街を歩けば遭遇してしまうような近所の人や、子どもの友人の親では断りにくい。波風を立てるよりは……としぶしぶおつきあいして抜けられなくなり、「自分の判断は間違ってはいなかった」と思い込んで無理やり納得しようとする人もいるのではないか。

母親を取り巻く環境が変わらなければ、いくらニセ科学で事故が起きても、いくらでもそれに代わる新手のものが出てくるだろう。
だって、「教祖」にとってこんなに儲かるマーケットはないのだから。

だから、私たちは自衛するしかない。具体的には、どうすればいいのか。
・なるべくやるべきことを絞って、睡眠時間を確保し、判断力を保つ
・育児になるべく強すぎる「こだわり」を持たない
・子育てで承認欲求を満たそうとしない
・ニセ科学の特徴を頭に入れて、あやしそうな案件が寄ってきたら巧みに避ける
ということだろうか。

う〜む。言うはやすし、行うは難しだ。こんなことを言っている私でさえ、「絶対にハマらない自信がある」なんて胸を張って言えない。だって、子育てというのは、いつなんどき袋小路に迷い込むかわからないのだから。

今井 明子
編集者&ライター、気象予報士。京都大学農学部卒。得意分野は、気象(地球科学)、生物、医療、教育、母親を取り巻く社会問題。気象予報士の資格を生かし、母親向けお天気教室の講師や地域向け防災講師も務める。