「日本にはないものがあると思ったんです。毎日天然芝のグラウンドで練習ができるとか、チームメイト皆がプロ選手で“昼間に全員で”練習ができるとか。日本女子サッカーでは当たり前ではないことですからね」
 
―――チームへ合流して4か月が過ぎました。チームメイトと毎日一緒に過ごす全寮制には、馴染めていますか?
 
「長い合宿をしている感じです。食事が毎日、庶民派の中華料理でキツイ面もあったり(苦笑)ただ外国人選手として一人部屋(中国人選手は二人部屋)を用意してもらっていますし、何よりチームメイトの優しさと人懐っこさに助けられています。彼女たちの影響で今まで持っていた中国の方へのイメージがかなり変わったくらいに親切なんですよ」
 
――世界を獲ったこともある近賀選手には“中国女子リーグのレベル”は日本女子サッカーに例えるとどのカテゴリーに相当すると感じていますか?
 
「中国1部がなでしこ1部下位から2部上位くらい、私がプレーする中国2部は、なでしこ2部の中位くらいですかね。ただやっているサッカーは異なりますよ。こっちの局面でのガツガツさは半端ないですから」
 
――中国での生活にはびっくりすることが多いのでは?
 
「ハプニングは多いですよ。一番驚いたのは、部屋のシャワーから真っ茶色なお湯が出てきたことですかね。その日は移動日で、練習後直ぐに準備して出発しなければならなかったので余計に焦ったというか。後でチームメイトへ話したら皆もそうだったらしいのですが、彼女たちは動じないみたいな(笑)」
 
 2017年7月9日、目下無敗でリーグ首位を走る武漢をホームへ迎えた一戦が行なわれた。勝点6差で追う杭州女子は、昇格レースに踏みとどまるには是が非でも勝ちたい大事な試合だった。午前中の代表者会議で午後4時キックオフが確定、気候を考慮して試合当日の朝に試合時間が決まる辺りも実に中国らしい一面を感じた。
 
 試合は0-4の完敗だった。最初の失点場面、相手の攻撃を防いだGKがキックフィードしようとモーションを取った際に背後に居た相手FWに気が付かずボールを奪われ、そこから失点してしまう。それまでは完璧に近い試合運びで相手を嫌がらせていただけに悔やまれるプレー、それで空気が変わったことは否めなかった。
 
「四川でのアウェーゲームから移動して中2日での試合、怪我人や体調不良者が多い中でやり繰りしてのトライだったけど、上手くいかなかったね」とは試合後の林のコメントだ。悔しいだろうが、この臨戦態勢での敗戦に選手をかばった。
 
 試合前の中国人通訳スタッフとの立ち話、「私がここへ来た2年前よりも格段に選手は成長していることを感じています。日本人スタッフや選手のお陰であることは間違いありません」と話してくれた。体育局所属の指導者が指揮することがほとんどの中国女子サッカー界で、中国女子リーグ2部で外国人監督は林ただ一人(1部には2名)らしいのだがが、チーム改革に日本人がひと役買って評価されていると聞かされ、なんだか嬉しくなった。
 
“足球”大好きな人民国家主席の肝いりで施行された「中国足球改革発展総体法案」のもと、中国全土で急速に環境整備や育成組織の強化が図られ、そこへ地元企業が資金協力してオラが街のチームを全国区へ押し上げていく。聞いてはいたのだが、この“中国式新強化スキーム”を肌で感じられた貴重な帯同取材となった。
 
「昔の強さがなくなった」とも言われる中国女子サッカーだが、大陸的分母ゆえの素材量は脅威であることに変わりない。バブルマネーを注ぎ込んだ強化策が花開く時はいつなのか、“眠れぬ獅子”の動向には引き続き注視していきたい。
 
取材・文:佐々木裕介