マイクロソフトが目指すWindows 10の未来とは? 低価格2in1 PCから見えたスマホ時代のPC

写真拡大 (全3枚)

今や格安スマホの到来で、スマートフォンが1〜3万円台で購入できる時代となった。情報取得や発信、コミュニケーションがこれ1台で完結できることから、“PC(パーソナルコンピュータ)”が必要なくなりつつある。

しかしながら、スマートフォンで勢いがあるASUSTeK ComputerはPC事業においてもその手を緩めない。さらにファーウェイ(華為技術)もスマートフォンやタブレットで培った小型軽量化技術と評価の高い外装や質感を武器にPC事業に力を入れている。

こうしたスマホにも注力しているメーカーは、Windows 10にどのような世界を見いだしているのだろうか。

現在のノートPCは、液晶の品質やCPU性能、RAM容量、内蔵ストレージの大きさ、これらにこだわらなければ、3万円台で購入は可能だ。
Webブラウザやメール、簡単な文書作成なら低価格PCでも、ビジネス利用でもなんとかなるほどだ。

低価格ノートPCには、もうひとつタブレット型の2in1 タイプのPCがある。
タッチで操作できるタブレットと、専用キーボードと接続するだけでノートPCのような使い勝手を実現する。

この2in1タイプのPCのメリットは、低価格ながら
・視野角が広い発色が綺麗な液晶画面
・タッチで操作できる
・ペン入力をサポートする機種もある
など、特にタッチ操作対応の液晶品質は、低価格ノートPCではあり得ないクオリティの高さだ。

デメリットは、既存のクラムシェル型ノートPCのようなキーボードとディスプレイの安定感がないことだ。
2in1タイプは、ディスプレイ側が本体となるため、ノートPCとして使う場合、
・重量バランスが悪くなる(立っているディスプレイ側が重い)
・充電やUSB端子がディスプレイ側にあり。ケーブルの取り回しも不便

デメリットはあるものの、既存の低価格ノートPCよりも液晶の品質やタッチ操作ができることからコストパフォーマンスは高く、なによりスマホ世代でもタブレットスタイルならPCを使いこなすことが可能であるところは大きなメリットだろう。




冒頭で挙げたASUSでは、ハイエンドモデルの「TransBook T304UA」からエントリーモデルの「TransBook Mini T102HA」まで2in1 PCのラインナップを揃えている。
特にT102HAは、低価格ながら
・ワイドビュー液晶
・マグネシウムボディ
・たわみが少なく入力しやすいキーボード
・Windows Helloの生体認証に対応した指紋センサー
・アクティブペンに対応
など、一通り、いやハイエンド機に匹敵するようなWindows 10 PCとしての要件を揃えている。それでいて、キーボードを含んだ重さが800g以下とモバイル用途としても実用的だ。

もちろん良いところばかりではなく、低価格PCであるが故に、
・CPUは非力なインテル「Atom x5-Z8350」
・ストレージは、SSDよりも速度が遅いeMMC
という仕様であるため、時折、動作が重く感じることもある。

しかし、それらを理解した上で使用してみるとT102HAはかなり器用なことができるPCであることに気付く。

Windows 10というOSは、これまで定番であったマウスやタッチパッドでの操作よりも、画面タッチによる直感的な操作できる操作性が、便利なシステムだ。
・思ったままのレイアウトで入力できる手書き
・画面の直接タッチによる精度の高いポインティング操作
・文字選択にもペンが”使える”

そう、T102HAに触れることで、Windows 10が本来、どのようなOSなのかが見えてくるのだ。

マイクロソフトは2012年にタブレットPCなどでも快適に操作できるよう、Windows 8と、翌年そのUIを改良したWindows 8.1をリリースした。
しかしながら、その斬新なUI(ユーザーインターフェイス)の評価は低く、Windows 10ではWindows 7のUIに近い形に修正することで収束した。

Windows デスクトップは、
・Windowsをタッチで操作するユーザーの絶対数が少ない
・そもそもWindowsの大部分が正確なポインティングを必要とする
このため、Windows 8シリーズの操作性では、Windowsのデスクトップモードで細かな項目をタッチ操作するのはなかなかストレスがたまる作業だった。

とはいえ、不評だったタイルが横に並ぶModern UIはタッチ操作においては、独自の世界感と先進性があり、ワクワクするものであった。特にタッチに対応した大画面PCなどは、高速に流れる大きなタイルアイコンの操作感覚が新鮮だった。

基本操作は、横方向のスクロールに加えてピンチイン操作でタイルを縮小表示することでタイル全体を見渡すことができた。さらに上下にスワイプすることでアプリケーション一覧画面を簡単に行き来することもできた。

こうしたWindows 8の操作が受け入れられなかった理由は、シンプルにマウス操作の作法と異なっていたからだ。

特にスクロールホイールの向きと画面スクロールが噛み合ってないこと、様々な操作を行うためには画面端にマウスカーソルを持って行って操作する必要があるという不便を強いられたことにある。

タッチ操作においては、画面右端からUIを引き出してくるなど、先進的な操作性だったのだが、あまりにもそちらを重視しすぎたため、本来のデスクトップPCやノートPCの操作性が犠牲になってしまったと言うわけだ。

では、Windows 10はどうだろうか?

こちらは従来のマウスやトラックバッドで操作するUIに、タッチ操作を乗せたような形で収束している。その顕著な部分が、スタートメニューの復活だ。

上下にスクロールさせることで、これまでのスタートメニューとWindows 8、8.1の良さをあわせたところに着地した。
また、スタートメニューはWindows 8、8.1のような全画面表示に切り替えることも可能で、タイルに表示されるインフォメーションを活用した使い方も可能だ。

一方で、この新しいスタートメニューを、タッチで操作をしてみるとWindows 8、8.1にあった自由度や先進性がなくなっていると感じざるを得ない。

上下スクロールとなったことで、広さが感じられずスケールの小さい世界に閉じ込められたような感覚だ。またマウス操作を軸としたため先進的だったタッチ操作は退化している。

たとえば、
タイルアイコンの設定は右クリックですぐメニュー表示可能だが、タッチ操作ではアイコンの長押しをして指を離してはじめてメニューが表示される。
以前は、タイルアイコンを下にフリックすれば、そのタイルアイコンに設定できる項目が表示されるという斬新なUIだった。
これは長押し操作を極力配して、指先だけで様々な操作を実現していたのだ。

アプリケーション一覧画面に遷移するためには、マウス操作にならって一覧表示のアイコンをタップする必要がある。スクロールが上下に統一されたのならば左右のスワイプでアプリケーション一覧とタイル画面を行き来させて欲しいところだ。

とはいえ、こうした先進的なタッチ操作は、Windows 8および8.1で終了し、未来が閉ざされたというわけではない。

マイクロソフトは、OSのナンバリングはWindows 10で終了し、以降Windows 10を適宜、進化させる方向に舵を切っている。
今後、Windows 10のUIも、時代に沿って進化していくことに期待したいところだ。



昨年11月の「November Update」、そして今年4月にリリースされた「Creators Update」以降、ペンデバイスの機能強化などが盛り込まれている。

Windows 10の先進的な機能を全て引き出すためには、それなりのPCスペックはもちろんだが、なによりユーザー体験を豊かにするためにはタッチ操作とペンデバイス、Windows Helloに対応する生体認証デバイスが重要になってきている。

そういう意味では、T102HAは低価格モデルながら、Windows 10が生み出そうとしている世界を覗ける窓として、適したモデルであるように感じた。

マイクロソフトが描く世界に沿ったPC、それは万人が必要としているものなのか?
現時点では、不明点も多く、疑問も残るが、スマートフォンにはない新しいチャレンジがあるように感じる。

そして、ASUSやファーウェイといったメーカーが作り出すPCには、ユーザーがスマートフォンで得た価値体験から、同メーカーのPC購入への導線とするための戦略的な製品の役割を担っているのだろう。


執筆 mi2_303