「夜明け告げるルーのうた」でガン泣き、アニメってヤバい

写真拡大

30歳の男が映画館でガン泣きするのは正直けっこう恥ずかしい。恥ずかしいのだが、『夜明け告げるルーのうた』ではボロボロ泣いてしまった。というか、今もこのタイトルをタイプした瞬間にグッときている。


ストーリーは正当派のジュブナイルなんだけど……


中学三年生の少年・カイは、寂れた漁港の町である日無町で父と日傘職人の祖父と一緒に暮らしている。両親の離婚に伴って父親の実家に越してきたのだ。カイの趣味といえば自作の曲をネットにアップするくらい。学校もつまらない。それなのにカイの曲をネットで見たクラスメイトの遊歩と国夫に無理やり誘われ、彼らのバンド「セイレーン」の練習に参加させられてしまう。

その練習中、彼は歌う人魚の少女であるルーに遭遇する。無邪気に踊りまくり、心から楽しそうに歌うルーと過ごすうち、少しづつ素直になっていくカイ。しかしその存在があるきっかけで町の大人たちに知られ、人魚が町おこしに利用された結果、人間との間に大きな溝ができてしまうことに。そして迫る町の危機。ルーとカイたちはどうなってしまうのか! というお話である。

と、ストーリーだけダラッと書いてしまうと割とよくあるというか、要は『E.T.』というか、ジュブナイルものなんでしょという話ではある。そして、この映画は実際にジュブナイルものとして非常によくできている。

変わりばえのしない田舎の暮らし。初めて自分の進路を決めないといけない中三というタイミング。鬱屈して退屈などうしようもない日常。そこに飛び込んでくる無邪気でかわいい人魚のルー。導入からクライマックスまでの流れも、タイトルの意味も含めて大きいものから小さいものまで見事に回収される伏線も完璧。少年の鬱屈からスタートし、街全体を巻き込んで盛り上がるストーリーテリングは見事の一言である。

しかし、この映画のすごいところはまだまだあるのだ。

絵が動いて音も出る! アニメってヤバい!


この映画の監督は湯浅政明氏である。湯浅氏といえば『クレヨンしんちゃん』や『ピンポン THE ANIMATION』、映画では『マインド・ゲーム』やつい最近公開された『夜は短し歩けよ乙女』など、物理法則を軽く飛び越えた快楽性の高い演出が持ち味。その味が、とにかくすごいのだ。

『夜明け告げるルーの歌』でストーリーの横糸になるのが音楽だ。カイとルー、そしてクラスメイトの遊歩や国夫を結びつけているのは音楽であり、まさに本作の主題のひとつになっている。この音楽に合わせてルーが歌い、人々が踊り、最終的に映画全体がうねるようにグルーヴする! 登場人物は時に原型をとどめないほどグニャグニャに歪み、絵柄もガンガン変わり、そしてそれら全てがひとつも無駄にならず、観客に彼らの感情をぶつけてくるのである。

というわけで、そういうものをずっと見ているとどうなるかというと、段々アニメという表現への感謝が生まれてくるのである。アニメはすごい。なんせ絵が動いて音も出るのだ……。実写じゃこんな多幸感に溢れた映像を作るのは相当難しいだろう。この世にアニメがあってよかった……。ルーの一挙手一投足がかわいい……。ということで、この映画の感想を一言でいうと「感謝」ということになる。エモいストーリーを劇的に盛り上げる演出によって、ありがたい……と自然に涙が流れるのである。

直球のストーリーテリングとアニメならではのエモーショナルな演出が相まってとんでもないことになっている『夜明け告げるルーのうた』。今見ておけば一生自慢できること間違いなしの快作だ。ドラッギーな絵作りをしっかり楽しむためにも、とにかく大きな画面で見てほしい一本である。
(しげる)