「比較可能なグループで穴埋め」することが 因果推論のキモである
◎メタボ健診を受けていれば健康になれる
◎テレビを見せると学力が下がる
◎偏差値の高い大学に行けば収入が上がる
一見正しそうに見えるが、実はこれらの通説は経済学の有力な研究ですべて否定されている。ここでいう「メタボ健診」と「健康」のように、「2つのことがらが因果関係にあるかどうか」を調べる方法のことを「因果推論」(いんがすいろん)と呼ぶ。
この因果推論の考えかたを一般書で初めて紹介した書籍『「原因と結果」の経済学』が全国の書店で話題。毎日新聞朝刊、日経新聞朝刊に書評が掲載され、池上彰氏も「私たちがいかに思い込みに左右されているかを教えてくれる」と推奨。
どうすれば、ある2つのことがらが因果関係にあるといえるのだろうか。『「原因と結果」の経済学』から、一部を特別に抜粋する。
「反事実」は観察できない。
では、どうする?
2つの変数のあいだに因果関係があることを証明するには、どうしても「反事実」が必要になる。しかし、「反事実」は現実には観察できない。このことを「因果推論における根本問題」(第15回)と呼ぶ。
実は、この問題を克服し、反事実を作り出すことこそが、因果推論に基づくさまざまな手法の根幹である。
そのため、経済学者はどのような値をとるかわからない「反事実における結果」をなんとかもっともらしい値で埋めようとする。
前回と同じようにジュエリーショップの例に戻ろう。あなたが勤めているジュエリーショップは、全国の4つの地域に店舗を構えている。そしてクリスマス商戦に合わせて、これから新聞広告を出すことを考えている。
予算の制約もあり、まず4つの地域のうち、地域1、地域2で広告を出すことにした。
あなたは、広告がどの程度売上を上げるのかという因果効果を知りたいとする。広告の因果効果は、広告を出したときの事実における売上と、まったく同じ状況で広告を出さなかったときの反事実における売上の差である。
もし、(現実にはあり得ないことだが)反事実を知ることができていたとしたら、図表1のようになる。
図表1では、1カ月の売上を1万円単位で示している。たとえば地域1では広告を出し、売上は1300万円だった。また、この地域が仮に広告を出さなかった場合の売上は900万円であったということを表している。
このように各地域で広告を出したときと出さなかったときの売上を知ることができれば、地域ごとに広告の因果効果を算出することができる。
地域ごとの因果効果の平均値を取れば、企業全体における広告の因果効果を計算できる。図表1によると、企業全体の広告の因果効果は500万円となる。
残念ながら、現実世界では反事実における売上を知ることはできない。実際にあなたが見ることができるのは、図表2である。
ここでは反事実の売上はすべて「?」となっていて、タイムマシンがない限りわからない。この「?」をどうやってもっともらしい値に置き換えればよいのだろうか。
たとえば、こんな風には考えられないだろうか。広告を出した2つの地域(地域1、地域2)と、広告を出さなかった残りの地域(地域3、地域4)をそれぞれグループとして見てみる。
すると、広告ありのグループがもし広告を出さなかった場合の売上は、広告なしのグループの売上とだいたい同じくらいになるのではないか。
もしそうなら、広告ありのグループの反事実を、広告なしのグループの売上で穴埋めすればよい(図表3)。
そして、あなたの企業全体における広告の因果効果は、広告ありのグループの売上の平均値(1500万円)から、広告なしのグループの売上の平均値(1000万円)を引いたもの(1500万円−1000万円)である500万円と考えることができる。