米空軍は、航空自衛隊の主力戦闘機F-15Jの同型機であるF-15Cに関し、早期退役案を検討しています。あと30年は飛び続けられるともいわれるF-15Cですが、どのような事情があるのでしょうか。

米空軍、F-15Cの退役を前倒しに?

 2017年5月現在、アメリカ空軍では、かつて「最強」とうたわれた主力制空戦闘機F-15C「イーグル」の退役を前倒しにし、性能にやや劣るものの安価なF-16をもってこの代替にするべきではないか、という案が検討されています。


アメリカ空軍のF-15C「イーグル」(画像:アメリカ空軍)。

 アメリカは世界でもっとも多くの防衛費を投じている国ですが、その反面国家財政における監査制度は極めて厳格であり、高い透明性が求められます。税金の無駄遣いが許容されないため、アメリカ軍とはその膨大な兵力を、ある意味では世界でもっとも厳しい台所事情によって支えているともいえます。

 F-15Cは原型機のF-15Aが1970年代に導入されはじめ、現在もなお200機以上がアメリカ空軍に在籍中であり、沖縄県の嘉手納基地をはじめ日本、米本土、欧州に配備されています。配備開始から長い時がたちもはや老朽機ともいえる存在ですが、レーダーや電子戦システムなどの搭載機器、ミサイルなどはほぼまるごとアップグレードされており、いまもなお世界有数の強い戦闘機であり続けています。

 ではなぜ、その空中戦に強いF-15Cを退役させなくてはならないのでしょうか。それはF-15Cには「空中戦しかできない」という欠点があるからです。

早期退役のもっともな理由とその否定材料になる驚きの現状

 これまでF-15は強敵が予想される空域において、ここぞというときの「切り札」として実戦投入されてきました。しかしながらF-15Cがいくら強いとはいっても、アメリカ空軍にはすでにF-15Cを圧倒する空中戦性能を誇るステルス戦闘機F-22「ラプター」が200機近く配備されており、また昨年からは最新鋭のF-35A「ライトニングII」の配備が開始されるなど、F-15の「切り札」としての価値は相対的に失われてしまっています。

 それならば、多少は性能に劣っても空中戦から対地攻撃まであらゆる任務をこなせる「マルチロールファイター(多用途戦闘機)」であり、しかも維持費のかからないF-16に置き換えたほうが予算を圧縮できます。そして浮いた費用をF-35Aなど別の用途に使えば総合的に見て空軍の能力は向上することが見込めます。

 現在F-15Cの平均年齢はすでに30歳に達しており、2017年にはついに1万飛行時間に到達した最初の機体もあらわれました。F-15Cは開発当初4000飛行時間(20年の運用に相当)の耐久性が求められ、最終的には8000飛行時間の寿命があたえられました。ところが極めて頑丈な機体は設計値を倍上回る1万6000飛行時間の寿命を実現できることが見込まれています。ゆえにもっとも酷使した1万飛行時間達成機でさえ、あと30年は使える寿命が残されている計算になります。

空自主力と同型機は2040年の空も飛ぶ?

 残り30年もの寿命が見込まれるため、実際にF-15Cを早期退役させるかどうかはいまのところ不明です。またアメリカ空軍はA-10C「サンダーボルトII」攻撃機の早期退役を何度も計画しておきながら、ことごとくキャンセルしたこともありますから、F-15C早期退役案も立ち消えとなってしまう可能性は十分にあります。

 F-15を開発したボーイング社も、将来型F-15Cのコンセプト「F-15 2040C」なるプランを公表しており、F-15Cの性能向上契約をもぎ取ろうと必死のアピールを行っています。

 航空自衛隊ではF-15Cと同じタイプであるF-15Jを主力戦闘機として運用しており、そしてF-15Jはこの先数十年にわたって主力であり続ける予定です。そのためアメリカ空軍からF-15Cが消えてしまうという事態は、日本にとっても決して他人事ではありません。

 30年近くにわたり最強戦闘機として君臨したF-15Cは、いま大きな岐路に立たされようとしています。

【写真】空自の主力F-15J


那覇基地にて、航空自衛隊 南西航空混成団 第9航空団 第304飛行隊所属のF-15J。近代化改修済みの機体で、当面は航空自衛隊の主力機(関 賢太郎撮影)。