今からおよそ1年前、イタリアの『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙は1面にチェ・ゲバラに模したディエゴ・シメオネを載せた。キューバ革命の英雄とアトレティコ・マドリードの指揮官に共通するのは、アルゼンチン出身の「反逆者」であるということ。前者はアメリカ、後者はクラブフットボール界を牛耳るスーパーエリートクラブたち、すなわち強大な敵に対して牙を剥く。


CL準決勝で対決する、レアルのジダン監督とアトレティコのシメオネ監督 この時は、昨季のチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第1戦が終わった直後で、アトレティコという小さな反乱軍が準々決勝でバルセロナを下し、続いてペップ・グアルディオラ率いるバイエルンにも先勝。「コマンダンテ・シメオネ。チョリスモ(チョロ=シメオネの哲学)とティキ・タカ(バルセロナ時代にグアルディオラが指揮した戦術)への反抗」との見出しが走った。

 あれから1年が経ち、今季のチャンピオンズリーグ4強にも、同じような文脈がある。アトレティコvsレアル・マドリード。マドリード・ダービーはCL決勝トーナメントで4シーズン連続となるが、過去3度の対戦で軍配はすべて白い巨人に上がっている。

 3年前の決勝ではアトレティコが後半ロスタイムまでリードしながら終了間際に同点とされ、延長で崩壊して1-4の敗北を喫し、一昨季は準々決勝で第2戦の終盤に決勝点を奪われて敗退。記憶に新しい昨季の決勝では、先制されながらもヤニック・カラスコのゴールで追いついたが、最後はPK戦で屈した。3度目の正直が叶わなかった選手とサポーターは大量の涙を流し、指揮官は結果を「運命」と表現して受け入れるほかなかった。

 ここ4シーズンで3度目のCLベスト4に入ったアトレティコを「小さな反乱軍」と呼ぶのは、あるいは適切ではないかもしれない。トップレベルで継続的に結果を残している点では、レアル、バルセロナ、バイエルンの現在の欧州3強に比肩する。

 しかしながら、この盟主たちが過去4シーズンで欧州制覇の称号を増やしている一方で、マドリードの赤白のチームは準優勝の数を3に伸ばしただけだ。また経営規模では、レアルとの間におよそ4億ユーロ(約487億円)もの差がある。ダビデとゴリアテ、一寸法師と鬼、そしてキューバとアメリカに例えても、大きな間違いではないだろう。

 アトレティコは今季のリーグ戦でも、レアルに1分1敗と勝てていない。つまり、過去3年間のCLと今季のリーガで一度も白星を奪えていない相手だ。加えて、レアルはCLで14試合無敗を継続している。果たしてアトレティコに勝機はあるのだろうか。

 レアルのジネディーヌ・ジダン監督は、独自の戦術がないとか、頼れるのはカリスマ性だけだとか、華麗だった選手時代と違って手堅いアプローチを取るとか、重箱の隅をつつくポゼッション原理主義者たちから批判されることもある。しかし、これだけの結果を残しているのだから、そうした意見もただの言いがかりに聞こえてしまう。

 確かに看板は前線のBBCだ。でも実際の生命線は中盤のルカ・モドリッチとトニ・クロースであり、この世界随一のセントラルMFコンビに全幅の信頼を置き、遅速自在の攻撃を繰り出すチームを築いたのは指揮官ジダンである。その後方にカゼミーロを置いてバランスを考慮し、両サイドバックは中盤の高いキープ力と守備力を後ろ盾に、自慢の攻撃性能を遺憾なく発揮。主将のセルヒオ・ラモスが世界で指折りのCBであることは、あえて説明するまでもないし、守護神ケイロル・ナバスはカリブの星だ。これといった死角のない王者レアルは、CLが現在の名称となってから初の連覇を視野に入れている。

 そうしたなかでアトレティコが希望を見出すなら、敵地で勝ち点1を手にした4月8日のリーガ31節か。この一戦でもほぼ主導権をレアルに握られていたが、終盤に一瞬の隙をついてアントワーヌ・グリーズマンが同点ゴールを記録。再三のピンチを迎えながら、数々のファインセーブで相手に1点しか与えなかったGKヤン・オブラクの活躍も特筆すべきものだった。CL準決勝の2試合でも、この26歳のエースストライカーと24歳の守護神の働きが、アトレティコのカギを握るだろう。

 一方で、アトレティコ側に明らかな不安箇所もある。シメ・ブルサリコとフアンフランが相次いで負傷離脱し、代役不在の右サイドバックは22歳のCBホセ・ヒメネスでしのいでいる状況だ。また、4月25日のリーガ34節ビジャレアル戦で背番号10を背負うMFヤニック・カラスコが鎖骨を痛め、レアルとの第1戦には間に合わない見込みとなった。

 対戦相手もペペとラファエル・バランの2人のCBを負傷で欠くものの、ナチョ・フェルナンデスが見事に穴を埋めている。会長のお気に入りであるギャレス・ベイルの離脱は、逆にジダンに選択の自由が与えられたと捉えることも可能だ。

 このように状況的にはシメオネに厳しい要素が多い。しかし手負いの戦いでこそ燃えるのが、革命家なのかもしれない。ゲバラが多くの仲間を失いながらも山中に潜んで勝機を探ったように、シメオネも持ちうる駒を最大限に生かす方法について熟考を重ねているはずだ。巨大な敵に何度跳ね返されても屈せずに立ち向かう黒づくめの熱い男が、凱歌を奏でる姿をそろそろ見たい。

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