『図解! 業界地図2017年版』(ビジネスリサーチ・ジャパン著/プレジデント社刊)

写真拡大

■ソフトバンクが抱える「隠れた宝の山」

国内企業でその動向が最も気になる1社が、ソフトバンクグループだ。『図解! 業界地図2017年版』でも、巻頭特集で「ソフトバンクグループの5年先、10年先は?」とのテーマで、同グループの今後に迫っている。

出版時期の関係で、約3兆2000億円という超大型M&A(企業の買収・合併)、英国半導体設計企業のアーム・ホールディングス(HD)の買収については触れられなかったが、中国のネット通販企業アリババ・グループの所有株の一部や、子会社化していたフィンランドのゲーム企業スーパーセルを売却するなど約2兆円の資金を調達したとして、新たな動きに出るのは必至と指摘した。

そのソフトバンクグループは、8月22日、シンガポールの子会社から2兆3728億円の配当金を受け取ったと発表。燃費データ不正問題を起こした三菱自動車やリコー、東レ、住友化学の15年度売上高を上回る金額であり、楽天クラスの企業なら3社も買える配当額だ。アームHDの買収資金に活用したと見ていいだろう。

ソフトバンクグループは相次ぐ大型買収で有利子負債が約12兆円に膨れ上がるなど、借金体質を指摘されることが多いが、隠れた宝の山を抱えているわけだ。15年9月にも国内子会社(モバイルテック)から1兆2371億円の配当金を受け取っている。

子会社から親会社への配当金は、親会社の単体決算には示されるが、グループ内取引であることから相殺消去され、連結決算には直接示されない。ただし、親会社が配当金を受け取る事実に変わりはないし、配当金には税金もかかる。

■“親孝行”子会社が多いトヨタに続くのは

子会社からの受取配当金が多いというのは、稼ぐ子会社を抱えていることを意味する。主な企業の受取配当金を見てみよう。

ソフトバンクグループは、シンガポールの子会社からの配当金が反映される17年3月期も含めれば金額が膨れ上がることはまちがいないが、12年度〜15年度の4期を均すと、1事業年度平均は4422億円という計算になる。これは日立製作所(国際会計基準を採用の3期平均)の1004億円を大幅に上回り、三菱商事とほぼ同水準だ。

子会社などからの受取配当金トップはトヨタ自動車で、4期平均は6368億円である。そのほかでは、三井物産が約3600億円、NTTが3000億円弱、ホンダは約2300億円。住友商事、伊藤忠商事、丸紅、日産自動車、ソニー、パナソニックが1000億円台である。

子会社からの配当金とは対照的に、連結決算に計上されるのが「持分法投資損益」である。これは親会社の出資比率が基本的に20〜50%の関連会社の利益を、出資比率に応じて取り込むものである。関連会社の稼ぎ具合が見て取れる指標だ。

ソフトバンクグループのそれは4期平均で1306億円。トヨタは2968億円、日立は192億円、三菱商事は15年度が赤字に陥ったことで平均額が下がり836億円だった。ホンダが1176億円。三井物産が900億円台、日産自動車は800億円台、伊藤忠商事と丸紅が700億円台である。

子会社の稼ぎ具合では、トヨタを追って、ソフトバンクグループやホンダ、日産、それに総合商社が2番手グループを形成。NTT、パナソニック、ソニーも稼ぐ子会社を傘下に従えているのは明らかだ。

一方、関連会社だけでいえば、持分法投資損益が赤字のソニーとNTTの場合は、赤字体質の関連会社が多いということ。流通2強のイオンとセブン&アイHD、それにパナソニックと日立製作所は、稼ぐ関連会社が少数にとどまっていると見てとれる。

子会社や関連会社の稼ぎでも1歩も2歩もリードしているトヨタだが、それに続く企業が多数出現するのを待ちたいところだ。

(ジャーナリスト 鎌田正文=文)