関連画像

写真拡大

「夜中に東尋坊へ連れて行けと言われ、背筋が凍りました」。福井県のタクシー運転手であるAさんは、過去のインパクトの大きかった客を振り返る。

Aさんはある日の午前1時ごろ、1人の50代男性を乗せた。その男性客に指示された行き先は、なんと自殺の名所ともいわれる「東尋坊」。サスペンスドラマなどでもよく使用される自殺の名所で、Aさんは一瞬乗車させることを迷ったそうです。

しかし、そういうわけにもいかず、Aさんは「理由もなく乗車を拒否することはできませんでした。ただ、自殺に加担してしまったのではないかと後悔しています・・・」と語っていた。

タクシーの運転手が、「この客は乗せたくない」と思った場合、乗車拒否をすることは許されないのだろうか。鈴木義仁弁護士に聞いた。

タクシーが「乗車拒否」できるのはどんな場合なのか?

タクシーの場合、道路運送法13条で、正当な理由がない限り、原則としてお客さんからの乗車の申込みを拒絶してはならないと定められています」

鈴木弁護士はこのように述べる。どんな場合に正当な理由があるのいえるのか。

「道路運送法13条ただし書きと、旅客自動車運送事業運輸規則13条で、例外的に乗車を拒否できる場合が規定されています。たとえば、次のようなケースです。

(1)半額の料金で行くように要求するような場合、(2)定員オーバーになる人数での乗車を要求するような場合、(3)高速道路料金を運転手に負担するよう要求するような場合、(4)一方通行なのに『逆走していけ』などと、道路交通法違反で走るように要求するような場合、覚醒剤の密売所に案内しろなど公序良俗に違反するような場合(5)地震などの天災で、通行が困難な道路を通らざるをえないような場合、(6)ガソリン缶など危険な物を持ち込もうとした場合、(7)行き先を告げられないような泥酔した者」

今回のケースは、どれかにあたるのだろうか。

「今回のケースでは、『東尋坊』に行くことを指示されましたが、それ自体は、乗車拒否の理由にはならないと思われます。

問題となるのは、自殺の名所とされる場所への乗車を引き受けることが『公序良俗に違反』するかどうかでしょう。引き受けることが『公序良俗に違反』するのであれば、それを拒否することは『正当な理由』にあたるからです。

ですが、自殺自体は犯罪ではないですし、『自殺しに行くのですか?』という質問をしなければならない義務は運転手にはないでしょう。また、『何しに行くのですか』と尋ねたとしても、『夜の海を見たい』とか『夜空を眺めたい』と答えられたら、本心では自殺するためには向かっていたとしても、それ以上追及することはできないでしょう。

そのため、東尋坊に行きたいという客の乗車を引き受けることは、『公序良俗に違反』するとはいえないでしょう。したがって、この点からも、運転手は乗車を拒否することはできないのではないかと思います」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
鈴木 義仁(すずき・よしひと)弁護士
神奈川大学大学院法務研究科教授。横浜市消費生活審議会会長。著書に「悪徳商法にご用心」(共著:日本評論社)、「訴える側の株主代表訴訟」(共著:民事法研究会)「くらしの法律相談ハンドブック(共著:旬報社)」
事務所名:鈴木法律事務所