招致を巡る裏金疑惑で、一部では開催自体を危ぶむ声も聞かれる東京オリンピック。日本の大手マスコミでは伝えられていませんが、海外メディアでは電通が大きな役割を果たしたと報じられています。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、かつてFIFAの汚職事件で4億円以上のカネがタックスヘイブンを通じて電通幹部に渡っていたという「事実」を取り上げつつ、今回の疑惑について電通が果たしたであろう役割、さらには「安倍政権と電通」の関係についても詳細に記しています。

五輪招致の黒幕・電通がひた隠しにするオフショア資金の流れ

東京オリンピック招致を日本はカネで買ったのだろうか。

コンサルタントと称しオフショア口座を利用する会社に2億3,000万円を振り込んだのは確かだ。これが、投票権を持つIOC(国際オリンピック委員会)委員への買収工作資金なのかどうか。

招致委員会の中核組織だったJOC(日本オリンピック委員会)の説明では、電通に太鼓判を押してもらったので契約を結び、コンサル料を支払ったと言う。

だが、どんなコンサルだったのか、その内容を明かさないのは、いかにもウソっぽい。電通がからんでいるならなおさら怪しい。FIFA(国際サッカー連盟)の汚職事件でも、電通は疑惑の渦中にいた。そして、疑惑の中心人物であった電通の元専務が、あろうことか東京五輪組織委員会の理事として名を連ねているのだ。

テレビの放映権や、スポンサー企業とのビジネス契約など、巨大利権をめぐってマネーが飛び交う国際スポーツ大会の舞台裏。昨年5月、スイスの司法当局がFIFAの幹部を汚職の容疑で逮捕したのは記憶に新しい。

事件は英国人ジャーナリスト、アンドリュー・ジェニングスの調査報道で明るみに出た。彼の著書『FIFA腐敗の全内幕』には、ブラッター会長が率いるFIFAの幹部たちにカネを貢いで利権をほしいままにしていたアディダス関連のスポーツマーケティング会社「ISL」のことが詳しく書かれているが、その中に電通に関する記述がある。

その金は世界最大規模の広告代理店である日本の電通からのものだった。その電通はワールドカップのもろもろの権利をISLから取得して、日本のメディアに売っていた。ISLの経営が2000年後半に傾いたとき、電通は東から西へとカネを送った。数日後、その金の一部がISLのオフショアアカウントから、同じルートで東側へキックバックされた。債権者は自分たちの金の返済を求めたが、400万スイスフランは、香港にあるとされるギルマーク・ホールディングスの口座にすでに送られていた。…レポーター、ジャン・フランソワ・タンダはーこの業界で信頼できる情報源を通じ、金が電通の専務、高橋治之に渡った事実を暴きだした。タンダも私も電通にコメントを求めたが、東京の巨大広告代理店は、質問に答えてくれなかった。

たかり体質がしみこんだFIFAの幹部たちへの賄賂攻勢でついに資金が尽き、倒産したISL社に対する裁判がスイスのツークで開かれ、電通からISLへの資金提供が明らかになった。しかもその資金の一部は当時の電通専務、高橋治之あてに、オフショア口座を通じてキックバックされていたというのである。この不透明なカネの流れについて電通は何も語らず、いまだに闇の中である。高橋なら全てを知っているのではないか。電通を退職した高橋は現在、東京五輪組織委員会の理事としてあいかわらず国際スポーツの分野に身を置いている。

電通はなんともないのだろうか。日本円にして約4億4,000万円もの大金が裏ルートで還流し、かりに適正な処理が行われていないとなれば、脱税その他の不正行為が疑われても仕方がないだろう。東京五輪招致について買収疑惑が持ち上がっている今こそ、電通は公明正大というなら、それを証明すべきである。

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FIFAスキャンダルを暴いたジェニングスが最初に目をつけたのはサマランチ会長時代のIOC(国際オリンピック委員会)だった。ソルトレイクシティ冬季オリンピック(2002年)の開催地が決定した1998年、招致委員会によるIOC委員の買収疑惑をあぶり出し、過去の招致活動でも不正行為が行われていたことを突き止めた。

その後、2001年にサマランチが退任すると、ジェニングスはFIFAに矛先を変えた。そのせいか、IOCスキャンダルは沈静化していた。ジェニングスによると、「スポーツ記者の多くは、この問題に触れたがらなかった」のだ。その理由は、「組織幹部やアスリートに接触できなくなるのを恐れたため、あるいは単に時間やエネルギーをかけたくなかったため」らしい。つまり、世界スポーツ最大の祭典をとりしきるIOCのまわりには、汚いものには耳目を塞ぎ、ひたすらオリンピック賛歌に舞うスポーツ記者ばかりいるということだ。

そんなぬるま湯につけておくと、巨大利権の王国では、必ずといっていいほど腐敗菌がはびこるものだ。

2013年9月、「トーキョー」と、ジャック・ロゲが声をあげ東京への五輪招致が決定した裏側で、日本から振り込まれた買収資金による集票工作が行われた疑いが濃厚になっている。

疑惑の内容はこうだ。

同年7月と10月の2回にわたり、シンガポールのアパートの一室を住所とするブラック・タイディングス社の口座に、日本のオリンピック招致委員会サイドから2億3,000万円が送金された。同社代表のイアン・タン・トン・ハンなる人物は、その当時IOCの有力委員で国際陸上競技連盟(IAAF)の元会長でもあるラミン・ディアクの息子、パパマッサタ・ディアクの親友なのだ。ラミン・ディアクはIAAFのドーピングにからむ収賄と資金洗浄の疑いで仏当局に逮捕されている。パパマッサタ・ディアクは母国セネガルに逃亡し、国際手配中だ。

仏当局によるこのドーピング事件の捜査の過程で、オリンピックの東京招致にからむ買収工作が浮かび上がった。世界反ドーピング機関(WADA)は今年1月27日、汚職疑惑の独立調査委員会の報告書を発表したが、この中にも、オリンピック招致に関する次のような記述が見られる。

トルコは国際陸連に協賛金400万ドル〜500万ドルを支払えと求められたが断ったためラミン・ディアク会長の支持を得られなかった。日本側はこの額を支払ったので、2020年の五輪は東京に決まった…。

息子のパパ・ディアクがパリで約1,600万円もの高級時計を買いあさっていたことが明らかになっている。東京の招致委員会から受け取った裏金がその元手になっているとすれば、開催地を決めるための投票権を持つIOC委員に高級時計を配って多数派工作をした可能性が高い。

これについて、日本オリンピック委員会(JOC)の会長であり、招致委員会の理事長であった竹田恆和は「ブラック・タイディングス社への支払いは、あくまでコンサル業務に対する適切な対価だ」と、買収工作を否定したが、2億円以上も支払わねばならないコンサルタント業務とはどんなものなのだろうか。

IOCは契約書や、業務報告書などブラック・タイディングス社からもらっていなければならないはずの資料の公開をさまざまな理由をつけて拒んでいて、ブ社がどんな仕事をしたのか、いまだ不明だ。何をしてくれるのか分からないままに2億3,000万円ものカネを渡すバカはいない。

馳浩文科大臣の説明は竹田会長に比べると、まだしも正直だ。

「あれは買収ではない。多数派工作だ」
「ロビー活動を展開するため、より核心に触れる情報が必要だった」

要するに、多数派工作であることは確かなのだ。振込を招致決定前と決定後に分けたのは、前金と、成功報酬の性格を帯びたカネだとみることもできよう。

この問題を国会で追及した民進党の玉木雄一郎議員によると、WADAの報告書には、「『マーケティング・コンサルタント業』が、不正な賄賂を隠す便利な隠れ蓑であるということは捜査当局間の共通認識である」との記載もある。

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さて問題は、招致委員会の照会に対し、ブラック・タイディングス社が確かな会社だとお墨付きを与えた電通である。WADAの独立調査委員会の報告書は、同組織のサイトからダウンロードできるが、電通とブラック・タイディングス社の関係について、以下のように記している。

電通の系列会社「電通スポーツ」は、スイスのルツェルンに「AMS」という会社をつくり、、国際陸上競技連盟(IAAF)から与えられた商業上の権利を販売していた。ブラック・タイディングス社のタン氏は、IAAF主催の世界選手権大会(2015年北京大会を含む)などについてAMSのコンサルタントをつとめていた。

これを読むと、どうやら電通の関連会社AMSは、わざわざIAAFの有力者と親しいタン氏を間にはさんで、IAAFメンバーになにごとかを働きかけていたようだ。

馳文科大臣によると、ブラック・タイディングス社から招致委員会に売り込みがあり、電通に照会した結果、実績があるコンサルタント会社だと確認できたので契約したという。それはそうだろう、電通とブ社はつながっているのだから。

一時はISLに資本参加し、この寡占化された狭い世界にどっぷりつかってきた電通が、マネーの動く裏側の事情を知らないはずはない。

ジェニングスによると、ISLはアディダスブランドを立ち上げたホルスト・ダスラーが創設。ISL、アディダス両社の売り上げを伸ばすため国際スポーツ連盟の幹部たちを買収し、サッカー、トラック競技、フィールド競技、オリンピックを支配していった。現在IOC会長を務めるトマス・バッハ(フェンシング金メダリスト)は、もとをただせばホルスト・ダスラーが自社の「国際関係」チームにリクルートした人材だという。

余談だが、東京五輪組織委員会の理事であり、電通顧問の肩書も持つ高橋治之は、「環太平洋のリゾート王」の異名をとったイ・アイ・イグループ総帥、高橋治則(故人)の兄である。

東京協和信組の理事長でもあった高橋治則が不正融資事件で東京地検特捜部に逮捕、起訴されたのは1995年のこと。それまで面倒をみてきた政治家が離れていくなか、彼が保釈後、最初に駆けつけたのが安倍晋三のもとだった。高橋は安倍晋太郎、晋三親子と親しい関係にあった。田中森一著「反転」によると、高橋の息子が日航の就職試験に落ちたとき、晋三に相談したら、たちまち日航への就職が内定したという。

兄の高橋治之が安倍晋三とどのような関係にあるかは知らない。だが、電通がテレビ局ににらみを利かせて安倍政権に肩入れしているのは、昨今のテレビ局の萎縮ぶりから見ても想像できる。

電通はこのさい、襟を正すべきではないか。裏工作の限りを尽くしてマスコミを支配し、政治を広告化して虚像をつくりあげ、その結果、この国の民主主義を歪めている。そのことをしっかり、自覚すべきであろう。

それにしても国際的なスポーツ大会の商業主義化は行き過ぎている。

その誘致をめぐり、ロビー活動と称して買収資金が動くのは、クロウト筋では常識だという。際限ないカネへの欲望から、スポーツ精神を解放する手だてはないものだろうか。

image by: Sergei Bachlakov / Shutterstock.com

 

『国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋

著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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出典元:まぐまぐニュース!