実際に東京都内のマンホールの数を推定してみる

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「フェルミ推定」をご存じだろうか。グーグルをはじめとする外資系IT企業や、コンサルティング会社で入社試験に出されたことで話題になったもので、簡単にいえば、「だいたいの値」を見積もる手法のことである。正しい結果が得られるかどうかよりも、推論の過程を重視する。そうしたフェルミ推定を使った試験で、企業はその人の論理的思考力を見ているのだ。

実際にトライしてみてほしい。「東京にある上下水道のマンホールの数を推定しなさい」──。「えっ、そんなのわかるわけないよ」と思うかもしれないが、次の手順で考えていけば大丈夫。フェルミ推定には5つのポイントがある。(1)仮説を立てる。(2)問題をいくつかの要素に分解する。(3)既知のデータを活用する。(4)各要素の推定量を決定(算出)する。(5)総合する。

今回の問題では、(1)仮説として、マンホールの数は上下水道が普及している世帯数に比例すると考える。(2)問題を分解し、「東京の人口」(データ)、「1世帯当たりの人数」(推定量)、「上下水道の普及率」(推定量)、「マンホール1つ当たりの世帯数」(推定量)とする。(3)既知のデータとして、東京の人口は約1300万人という数字を活用する。(4)各要素の推定では、1世帯当たりの人数は、都会は1人暮らしも多いので2人とする。上下水道の普及率は100%。マンホール1つ当たりの世帯数は難しいが、ざっくりと10世帯と考える。(5)以上を総合して、東京にあるマンホールの数を推定する。

東京の世帯数は「1300(万人)÷2(人/世帯)=650(万世帯)」。上下水道が普及している世帯数は「650(万世帯)×100%=650(万世帯)」。その結果、マンホールの数は「650(万世帯)÷10(世帯/個)=65万個」と推定される。

入社試験ではここで終了となる。しかし、重要なのはこの後の「検証」である。フェルミ推定では結果を検証し、正解と大きく違った場合、どこが間違っていたのかを考える。

たとえば、仮説だったのか、データだったのかと。ちなみに、『東京都の下水道2014』(東京都下水道局発行)によると、2013年度末の都内のマンホールの数は48万4078個。約50万個だから、65万個という推定数はそう悪くない数字といえよう。

これは実際のビジネス現場でも同じだ。期初の売り上げ予想に比べ、実際は大幅に下回った、あるいは大幅に上回ったとすれば、その結果を検証する必要がある。

企業がフェルミ推定を採用試験に出す背景として、世の中の価値観の多様化や、変化の早さがあると考えられる。商品サイクルはもちろん、ビジネスモデルでさえどんどん変化するなか、ビジネスパーソンは自分が置かれた状況で正しい答えを素早く導き出す力が必要となる。

そのときに直感に頼るのは危険である。そこで論理的に考えて、「正しいはず」という根拠に基づき結論を出せば、正解にたどり着く可能性は高いし、仮に間違っていても納得感があるだろう。そうした論理的思考力がビジネスパーソンには求められているのだ。

(永野数学塾塾長 永野裕之 構成=田之上 信)