北朝鮮は、先軍政治のスローガンを掲げて軍隊を最優先しているが、下級兵士のなかからは栄養失調者が発生するなど、その実態はかけ離れている。金正恩第一書記が、頻繁に軍部隊を訪れてミサイル発射に満足するなか、兵士達は山に行って山菜を採る、いわば「山菜採り闘争」に動員されていると米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。


恵山付近の民家と国境哨所 (画像:酒紅)

「中央からの指示を貫徹するため、協同農場から牛や山羊を何十頭も盗んだ。中国に密入国してテントを張り、長期間にわたって外貨稼ぎになるトゥルチュク(ブルーベリーの一種)を採っていた」

これは、2013年に、7人の部下とともに脱北した朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の元中隊長の証言だ。もともと北朝鮮の軍隊は、「田植え戦闘」や建設現場支援などの任務に動員されるケースが多い。

兵士たちは、軍隊という閉鎖的な組織にいるため、市場活動に参加できず、食糧事情は悪化する一方だ。一般の部隊には、小麦やトウモロコシしか供給されず、おかずなどは兵士たち自らが採ってきた山菜だという。

それにもかかわらず、人民武力部はすべての兵士と指揮官に次のような指示を下した。

「乾燥山菜を1人あたり10キロ上納せよ」

あまりにも無茶な指示に指揮官は、自ら山菜採りに行くことを放棄し、一般の兵士に丸投げした。上納された山菜は、倉庫に保管し、後に兵士たちのおかずとして供給されるが、兵士たちからすれば、各部隊が個別で展開した方が「山菜採り闘争」はスムーズにできる。

わざわざ、余計なことを増やす指示を出す裏には、「朝鮮人民軍は、自ら山菜採り闘争を展開し、自力更生の精神を貫いている。これは目覚ましい成果だ」と上層部、金正恩氏に報告する意図があるようだ。つまり、上官の功名争いのしわ寄せが一般兵士に及んでいる。

一方、金正恩氏の指示によって国境警備隊の待遇が他部隊と比べて、少し良くなったという。しかし、これさえも「アメとムチ」に過ぎない。国境兵士は困窮の末、密輸を幇助したり、川を越えて中国側で略奪行為を働いている。治安の乱れを防ぐために待遇を少し良くしたようだ。

国境警備隊は、一般部隊と違って、24時間警備をしなければならない。食料不足に加えて、山菜採りまで強要されることから、兵士たちからは「労働鍛錬隊(強制労働)よりひどい」という不満も出ているという。

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