現在のネイマールの状態は、まさに針のむしろだ。

ネイマール、日々、悪化する一方」「ネイマールに失望」「代表にゴールを置いてきたネイマール」など、最近、ネイマール関連の記事のタイトルは、マイナスな響きがあるものばかりだ。

 先日、南アフリカを相手に行なわれたブラジル代表の親善試合でハットトリックをマークし、ネイマールが再び笑顔を取り戻したかと思われた。しかし、代表戦を終えて、バルセロナに戻ってきてから2日後、アウェーのバジャドリード戦(3月8日)では、スタメン出場したものの見せ場がないまま後半に交代。試合は1−0でバジャドリードが勝利し、バルサは今季3敗目を喫した。

 それまでもネイマールのパフォーマンスを疑問視する声はあったが、非難の矢が一斉に降り出したのは、このバジャドリード戦を終えてからだ。

 バルセロナお抱えの、と言っても過言ではない地元のスポーツ紙『スポルト』に至っては、「元会長のサンドロ・ロセイが、ネイマールの移籍と獲得を急ぎ過ぎたのでは」との苦言を呈した。今年のバルセロナに必要だったのは、センターバックの補強とブスケッツに代わるフィジカルのある中盤の選手であり、メッシ、アレクシス・サンチェス、ペドロ、セスクなど前線の選手があふれるバルサにネイマールは必要ではなかったという論理だ。

 さらに不安を増大させるデータがある。バルセロナが今季27戦行なったうち、メッシとネイマールが共にスタメンを張ったのは、全体の3分の1に当たる9回。バジャドリード戦で、バルサは今季3つ目の黒星を喫したが、ふたりがスタメンでプレーし、試合に負けたのはこれが2度目なのだ。

 もちろん、7回は勝利していたわけで、この程度で警告を発するのは大げさだという声もあるかもしれない。だが、世界に数多(あまた)いるアタッカーの中でも、世界一と言われる選手とそれを引き継ぐと言われているポテンシャルの高い選手がコンビを組んでいるのだ。それに期待するなという方が無理な話だろう。

「メッシもネイマールも、バルサでワールドカップに向けてのプレシーズンマッチをしているだけなんじゃないの?」といった意地の悪い囁(ささや)きも、ちらほら聞こえてくる。ネイマールだけでなく、チームを率いるヘラルド・マルティノ監督にも、容赦ない非難の声が届いているのは言うまでもない。

 ネイマールがクラブに、あるいはヨーロッパのサッカーにいまだに適応していない、メッシとの相性が良くない、サントスからバルサに移籍した際の移籍金問題が取り上げられ、バルサの会長が退任する騒ぎにまで発展したことが影響している、カーニバルの時期で気持ちが浮ついている、恋人のブルーナさんと別れたばかりなので集中できていない、など、調子が上がってこない理由を探せば数多くあるが、中でも「移籍金騒動」がネイマールに影響を与えているという見方が強い。

 10日ほど前、マルティノ監督は「今のネイマールを取り巻く状況は普通ではない。私には(彼が)これまでと変わっていないように見えるが、四六時中一緒にいるわけではないし、精神的にダメージを受けるような、そういったプロセスが進んでいるのかもしれない」とネイマールが一連の騒動に影響を受けている可能性があることを初めて示唆したのだった。

 ネイマールと同じ試合に出場して、同じようにゴールできなくても、メッシにはそれほど非難は集まらない。すでに過去に十分な功績を残しており、今季負傷していたのを差し引いても、ここまでリーグ戦で15ゴールを決めており、今年だけで7ゴールをマークしている。

 クラブ自体、今季よくここまで耐えてきた、という状態にある。ネイマール獲得を積極的に進めたサンドロ・ロセイ会長が辞任し、最初はビクトル・バルデス、今月になってカルレス・プジョルと、チームを支えてきた二人が今季いっぱいで退団することを発表した。また、冬の移籍シーズンも含めて、今季はネイマール以外の補強がなく、現在のチームが抱える問題は、バルサの強化部門の弱体化を露呈しているのではないか、という見方もある。

 そして、チーム自体のパフォーマンスが精彩を欠く時、選手個人の光も鈍ることは往々にしてあることだ。それでも、チームに危機感があったからこそ、それを打ち破るための突破口としてネイマールを獲得したという意味合いは強い。

 たとえば、過去にバルサが獲得したビッグネームが、移籍初年度に決めた得点数を見れば、その差は歴然としている。ロナウジーニョ(19点)、サミュエル・エトー(25点)、ズラタン・イブラヒモビッチ(17点)、ダビド・ビジャ(23点)などと比べ、ネイマール(3月11日現在で7点)の得点数は圧倒的に低いのだ。

 確かに、ネイマールは22歳になったばかりで、その若さゆえまだ経験値が不足している、という言い訳はあるかもしれない。だが、かつてロナウジーニョは「19歳になった時、トップチームでやっているかどうか」が才能ある選手かどうかのひとつの判断材料だと話していた。

 それを考えれば、ネイマールに与えられた時間は少ない。現地時間3月12日にはチャンピオンズリーグ、そしてさらに3月23日にはクラシコ、29日にはバルセロナダービーと大事な試合が目白押しだ。ネイマールは、果たしてバルサの真の救世主になれるのか。世界中が注目している。

山本美智子●取材・文 text by Michiko Yamamoto