1月23日、バルセロナの会長、サンドロ・ロセイが唐突に辞任し、副会長だったジョセップ・マリア・バルトメウが会長に就任した。

 ことの発端は、「ネイマールの契約内容に不正があるのではないか?」と、本来バルセロナを支える側のソシオ(会員)がクラブを訴えたことにある。

 クラブ側は、ネイマールの契約内容の開示を余儀なくされ、ひょんなことから、ネイマールの契約内容が明らかになった。この騒動はいったい何なのか。バルセロナで今、何が起こっているのだろうか。

 現在、争点となっているネイマールの移籍金について、バルセロナは変わらぬ姿勢を貫いている。その移籍金額はあくまでも「5710万ユーロ」だとクラブ側は主張。一方、今回の騒動の発端となったエル・ムンド紙などによれば、ネイマール獲得にかかった実際の金額は「9500万ユーロ」。移籍金以外の支払いとして、契約金、エージェントへの手数料などがあり、その合計が9500万ユーロになるという。レアル・マドリードのベイルの移籍金が約1億ユーロだったにもかかわらず、ネイマールの移籍金が5710万ユーロですむはずがない、という報道もある。

 また、バルサの大半の選手と異なり、バルセロナがタイトルを獲得できなくても、ネイマールが1ゴールも1アシストも決めなくても、5年間合計で5670万ユーロが支払われるように契約が決められていることも明らかになった。さらに、ネイマールがバロンドール争いで3位以内に入った場合にはボーナスとして200万ユーロが支払われる。

 ほかに、今まで明かされていなかった項目として「サントスの原石を探す費用」名目で200万ユーロ、「クラブと広告の契約を結ぶブラジル企業探しの費用」に400万ユーロ、サンパウロのファベーラ(スラム街)に住む子供たちへの慈善事業費用として250万ユーロが、それぞれ代理人である父親とネイマールファミリーに支払われているとも言われている。

 これまでにクラブが明かした内容によれば、N&N社(父親ネイマール・ダ・シルバとナディンの所有会社)へ4000万ユーロ、サントスへの支払いが1710万ユーロ、代理人への手数料2700万ユーロ、契約金1000万ユーロ(数字はバルセロナの公式サイト発表による)が派生している。これら一連の情報は、選手側との守秘義務によって公にしていなかったというのがクラブ側の説明だ。

 クラブとしては、潔白を証明するために、最終的にネイマールの契約内容を明かすハメに陥ったわけだが、クラブ側は「選手の契約内容を明かすのは、これが最初で最後」と断言した。

 今回の騒ぎに、バルサトップチーム監督のヘラルド・マルティノは、「選手の契約内容が明かされるなんて、こんな状況は過去に経験したことがない」と長いプロ人生の中で、初めての出来事に遭遇したことを明かし、「これがバルサにとって良き結果となることを願っている」と付け加えた。また、ネイマールがサントスからバルサに来ることに陰で尽力していたダニ・アウベス(ブラジル代表)は、「金額を明かすなんて、それは選手に対する敬意の欠如だ」とコメントしている。

 この一連の騒ぎを受けて、とうとう代理人であるネイマールの父親も口を開いた。いわく「私はネイマールがサントスを出る前に、4000万ユーロを(バルサから)受け取った。他にももっと良いオファーを出してきたクラブはあったが、2014年6月までにはバルサに移籍することを確約するためのものだった」と説明。

 そして、「今回、ネイマールファミリーの名前を守るために、契約内容を明かしてくれと私の方からバルトメウ会長に頼んだ」と語り、それは「ネイマールがこういった騒音に関係なく、落ち着いてブラジルワールドカップに行くための、父親としての思いやりだ」と訴えた。

 ちなみに、移籍に詳しいスペイン人のある代理人に聞いたところ、今回のような契約は「腐るほどあるケースだ」と断言していた。

 今回、「バルセロナがネイマールと契約を交わした内容に不正があるのでは」という訴えが、すぐに法廷で裁かれる方向で進んでいったのだが(現在は告訴が取り下げられる方向)、それがあまりにもスムーズだったのは、レアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長の存在があるのでは、という見方もある。

 実際、一部ラジオメディアが、ペレス会長は現スペイン政府とのパイプが強固であり、その政治力を利用したと報じた。つまり、現在バルサが支払っている年俸のほぼ倍額(5年間で推定1億500万ユーロ)を提示したにも関わらず、ネイマール獲得が叶わなかったため、それを根にもっているペレス会長が、サンドロ・ロセイ失脚を企んだということだ。

 すると、レアル・マドリードは今回の「ネイマール騒動」に関して、会長であるフロレンティーノ・ペレスは無関係であると公式文書を出し、その報道を行なったラジオ局の記者を訴えるという騒ぎにまで発展している。

 一方、当のネイマールは現在ケガで戦線離脱中。マルティノ監督いわく「一刻も早くチームに戻るために、リハビリに集中している」といい、ネイマール本人のSNSアカウントを見る限り、周囲の喧騒から離れてリラックスしているようだ。

 この騒動がどう終結するのか、まだ先は見えない。今後、なぜ突然辞任したのかなど、いくつかの疑惑を晴らす必要があるにしろ、前会長のサンドロ・ロセイなしにネイマール獲得はもちろん、バルサが栄光の時代を歩むきっかけとなったロナウジーニョ、デコなどの選手獲得がありえなかったのも事実だ。

 レアルに倍額の年俸を提示されてもバルサでプレーすることを選んだネイマールが、政治の道具として利用されないことを願いつつ、今後の推移を見守っていくことになるだろう。

山本美智子●取材・文 text by Yamamoto Michiko