中学受験 注目校の素顔 学校研究シリーズ『麻布中学校・高等学校』(ダイヤモンド社)。必ず「自由な校風」と評され、時に生徒の行き過ぎた行為も話題になる麻布だが、戦後東大合格者数の十傑から漏れたことのない全国唯一の名門校でもあり、各界にたくさんの著名人を輩出している。本書収録の麻布名物「教養総合」科目の「原子力利用と社会」の高度で濃密な授業には驚かされる

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文科省の調査によると、現在全国の中学生の約8%が私立中学に通っている(2012年度文部科学省学校基本調査より)。東京に限ると25.7%、なんと4人に1人以上だ。受験者数だけならその比率はさらに上がる。

都内の私立中学の大半が2月の初頭に行われる。受験まで残すところ3カ月余りとなり、いよいよ受験者は志望校絞り込みの最終段階に入ってきた。そんな中学受験生たちの目標であり、羨望である超一流中学と呼ばれる名門校がある。首都圏だと男女の御三家(麻布、開成、武蔵、桜蔭、女子学院、雙葉)、関西だと灘、九州だとラサールなどが古くからそうした学校として挙げられるが、こうした学校は一体何が"超一流"なのだろうか。

「名門校は東大の合格者数が多いので、スゴイ受験テクニックを教えるところだと思い込んでいる人がいるのですが、実態はその逆であることが多いんです」

そう話してくれたのは、先月ダイヤモンド社より「中学受験 注目校の素顔」シリーズとして、麻布、開成、武蔵、灘と4冊の学校研究本を一気に上梓された教育ジャーナリストのおおたとしまささん。

「たとえば麻布高校では酵母パンづくりから原子力行政まで、60もあるテーマから選ぶ選択必修の『教養総合』という受験とは関係ない授業が名物になっていますし、武蔵では中3から選択必修で学ぶ第2外国語の成果を生かし、受験生にとって大切な高2の終わりから高3にかけて国外研修にいくチャンスのある制度があるほどです」

必ずしも受験一辺倒ではない名門校が、大学進学実績でもいい成果を収めることができるのはなぜなのだろうか。

「新興の進学校で素晴らしいカリキュラムを売りにして実績を出しているところもありますが、名門校では同じ進学実績でも先生方にかなり自由な裁量を与えているところが多いんです。にも関わらずいい実績を上げるのは、陳腐な表現になりますが伝統の力ということなるのかもしれません」

"伝統"には進学実績を維持するプレッシャーも含まれているという。御三家呼ばれるような名門校でも東大合格者数の実績が悪いと保護者から不満を中心に各所からのプレッシャーがかかるのだ。崇高な建学の精神を全うするためには、受験戦争にも勝ち抜き続けなければいけないという厳しい現実に常に晒され続けている。「進学実績を上げることが学校を色々なものから守ってくれる最大の防御策と言えるかもしれません」(おおたさん)。

しかし現実的には伝統の名門中学に入学することができるのは、ごく一部の中学受験エリートだけだ。彼らだけがいい教育を受けるのでは格差は広がるばかりではないのか。
偏差値の上位校でなくともいい教育をしている中学はあります」

そうした学校を峻別するには、先生に裁量の自由があるかが一つの目安になるという。

「よく『生徒の自主性を育む』という人はいますが、教える先生方に自主性がなくて自主的な生徒が育つはずはありません。最近やたらと規則で先生を縛ろうとする動きがありますが、そういう風潮には疑問を感じます」

学校の気風を知るには、学校説明会をうまく活用したい。

「校長が話す内容ではなく、他の先生にどのような態度で接するかに注目してみてください」

学校説明会ではキレイごとしか言わないで、話の内容自体はどこも大差はないが、高圧的な校長は、どんなに取り繕っても他の先生への態度という形で表出するというのだ。そして抑圧的な扱いを受けている先生は、生徒に対して高圧的になることが多いという。
「逆に生徒自慢をしている学校にいい学校は多いですね」

冒頭で紹介したおおたさんの著書「中学受験 注目校の素顔」シリーズでは、各校の歴史や授業・カリキュラム以外にも学園生活の様子も描かれており、各校の気風を窺い知ることができる。
たとえば、今春開成の運動会開催に際して脅迫状が届いた事件への生徒たちの対応は自治の気概に満ち溢れたものであり、私たちがともすれば超一流進学校に対して抱きがちなガリ勉のイメージとは異なった自律して成熟した生徒像が浮かび上がる。

中学受験は今や珍しくないものになってきた中、子どもの将来のためにも偏差値や進学実績に留まらない学校選びの重要性が増してきている。中等教育を考える際、名門校から学べることは存外多いのかも知れない。
(鶴賀太郎)