セミナーで講演した山梨大学の中村和彦教授

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今の子供たちは運動不足だとよくいわれる。小学生の外遊びの平均も1日1時間以下とかなり短い。運動不足による体力低下も問題になっている。

先日、ボーネルンドが「小学生の体力向上を目指したあそびの役割」と題したプレスセミナーを開催。発育発達学を専門とする山梨大学の中村和彦教授が、子供たちの遊びの現状について話してくれた。

中村教授いわく、外遊びが減っているのは、必要条件である「仲間」「時間」「空間」という3つの“間”がなくなっているからだという。みんな忙しくて遊び仲間が確保できないし、塾や習い事でスケジュールがいっぱいで時間がない。さらに自由に遊べる野原や空き地といった空間もない。

昔と違って遊びの場所も内容も変化し、室内でゲームなどを好む子供も増えている。だが、中村教授にいわせれば、
「公園で遊ぶ子供が減っているのも当然」
というのも最近の公園は禁止事項が多すぎるのだ。
「ボール遊びやバットふりは危ない遊びとして禁止。登りたくなるような木があるのに登るのは禁止。さらに、ほかの人にめいわくをかかることはやめましょう、と書いてある。具体的にはうるさくしない、近隣の住民に迷惑をかけない等。これでは子供が遊べるわけがない」
うーん、いわれてみれば、確かにその通りかも。

体遊びや運動が減れば、体力は低下するし、動作の発達も妨げてしまう。なんと、1985年の幼児と現代の子供を比べると、「たつ」「なげる」「ける」といった基本動作の発達段階は、現代の5歳(年長)児は25年前の3歳(年少)児レベル、小学3・4年生は25年前の5歳(年長)児と同様だという研究結果もあるそうだ。

遊びではなく、スポーツをして体を動かせばよいと考える人もいるだろうが、中村教授は今の日本のスポーツ文化にも疑問を投げかける。
「大人のスポーツ文化を子供に対してもそのまま導入し、競技志向でユルさがない。結果として、スポーツ嫌いの子どもが生まれてしまっている」
実は欧米では、小学生以下の子供たちに競技的なスポーツはさせない国も多い。むしろ、幼いうちは1つの種目に限定せず、いろいろな種目を体験させようという考え方なのだ。それによって、動作のレパートリーも増え、動作も洗練されていく。

そうした現状を背景に、最近は教育現場で「あそび」を取り入れている小学校も現れ始めた。たとえば東京都の立教女学院や広島県三原市の公立小学校では、ボーネルンドと協力して校庭に多様な遊具を設置した本格的なあそび場を導入。また、都内の足立区立足立小学校では、「元気アップタイム」と題したあそびの時間を取り入れており、長縄など様々なあそびを日常的に楽しんでいる。こうした取り組みは子供たちが多様な動きを経験できるうえ、子供の間のコミュニケーションの促進にもひと役買っているようだ。

2020年に東京での五輪開催が決まった今、大切なのは一部の子供たちを早くからトップアスリートにするためにトレーニングすることではない。むしろ、運動が嫌いな子や苦手な子でも楽しめるような取り組みを考えることが重要だと中村教授は強調する。

小学校での「あそび」の実践はまだ先進的な取り組みではあるが、今後も子供の運動不足や運動嫌いに対して、様々な取り組みがおこなわれていくことを期待したい。
(古屋江美子)