表紙にはTwitter界での人気が加速した、愛らしい“たらこわさび”姿が。小学館刊『ありがとう! わさびちゃん』(1050円・税込)

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今年の6月2日、カラスに襲われ重傷を負った子猫が保護された。顎は粉砕骨折、顎の内側にも穴を空けられ、舌が裂けた状態だった生後2〜3週間の子猫。一命は取り止めたものの、自分で食事ができる状態ではなく、保護主がカテーテルで2時間おきにミルクを与えることに……。一時は里親を探すためにTwitterのアカウントを開設したものの、保護主の“父さん、母さん”は子猫を家族の一員として迎え入れることに決めた。命名は「わさび」。

わさびちゃんの毎日を綴ったTwitterアカウントでは、治療の様子はもちろん、カテーテル給餌を嫌がるわさびちゃんがケガをしないよう、“おばあちゃん”が考案した愛らしいおくるみを身に着けた姿などが公開され、フォロアー数が一気に万単位に膨れ上がった。少しずつ体重が増え、ケガが癒えていく様子を、約11万人(8月末時点)にも登るTwitterやinstaglamのユーザーたちが見守った。しかし7月末ごろからてんかんの発作と思われる症状が頻繁に表れるようになったわさびちゃんは、8月26日に症状が急変。27日には集中治療の甲斐なく虹の橋を渡ってしまった。

保護されてからわずか87日間という短い時間を全力で生きたわさびちゃんの書籍『ありがとう! わさびちゃん』(小学館刊、1050円・税込)がこのたび出版された。
Twitterには掲載されなかったものも含む父さん、母さん撮影の秘蔵写真コレクションでは、同じく家族の一員であるゴールデンレトリーバーのぽんずちゃん、セキセイインコのぼーちゃんとの仲睦まじいショットのほか、ゆかた風やマーメイド風などおくるみのバリエーションも公開。写真だけではなく、87日間の詳細な治療のレポートや主治医のインタビュー、子猫を保護した場合の注意事項なども掲載され、わさびちゃんファンのみならず、ペットと共に生きるすべての人へのメッセージが込められた一冊になっている。また、この書籍の売り上げの一部が動物愛護の活動のために寄付されることが決まった。

わさびちゃんが亡くなったあとも、Twitterアカウントを継続し、残されたぽんずちゃんやぼーちゃんの様子や、想い出のショット、わさびちゃんの保護を通して交流を深めた人々とのやり取りなどを綴っている”わさび母さん”に、現在の心境をうかがった。

――わさびちゃんについて、強く印象に残っていることはどんなことですか?
「わさびのマイペースなところが好きでした。病院で先生が真剣な表情で診察していても、ごろんと横になったり、先生の指をガジガジかじり始めたり、じゃれたりして……。私たち人間の心配をよそに、やんちゃでいたずらばかり。このままやんちゃに育っていくんだろうなと思っていました。遊びを誘うように、ぴょんとおどけてステップを踏むように目の前に躍り出てくるような仕草もかわいかったですね」

――『ありがとう! わさびちゃん』の、特にどんなページに注目してほしいですか?
「この本は単なる写真集に留まるものではなくて、かわいい写真と一緒に伝えたいこともいっぱい詰まった本です。そうした伝えたいことを読んでいただきたいのはもちろんですが、あんなに傷だらけだったわさびが明るく元気に成長していった過程を、頑張って生きていた姿を見ていただければと思います」

――11万人超のTwitterやInstglamのフォロアーの中には海外の方も多かったようですが、わさびちゃんが海外からも注目されているということをどのように受け止めていらっしゃいましたか?
「海外の方々はみなさん、本当に温かい目でわさびの成長を見守ってくれていました。かわいいところだけでなく、てんかんの疑いで発作が起きた時の動画などを見ても、現実を受け止めて励ましてくれたり、亡くなった時も一緒に悲しんでくれたり。本当に素直な気持ちで接してくれたことが、とても嬉しかったです。言語は違っても、通じ合う心はあるんだと改めて思いました。感謝の気持ちでいっぱいです」
 
――わさびちゃんを愛したフォロアーさんたちや、この本を通してわさびちゃんをこれから知る読者の方々へ、メッセージをお願いします。
「フォロワーさんたちはみなさん動物を大事にしている方が多くて、みなさん、わさびを自分の子のように心配して下さったり、アドバイスを下さったり、励まして下さったり、応援して下さったり、亡くなった後も支えていただき、本当にありがとうございます。
私たち自身が、野良猫や捨て猫が生き伸びるのがいかに大変かということをこれまであまり意識していなかったように思います。わさびを通して現実を知り、こうした辛い思いをする動物がいるんだと改めて考えさせられました。この本を通して初めてわさびを知る人も多いと思いますが、こうした現実を知ってもらいたいと思い、出版を決意しました。仕事や住宅事情など、様々な理由から動物と一緒に暮らしたくても暮らせない方々もたくさんいらっしゃると思いますが、例えば外で野良猫を見ても、温かい目で見て欲しいと思うのです。
この本は、小さなお子さんには特に読んでもらいたいと思います。そして、どんな小さな命でも、自分と同じ大切な命なのだということを知って欲しいと思います。
野良だって、こんなにめんこい!」

わずか87日間という短い生涯だったが、たくさんの人に愛されたわさびちゃん。残されたこの本には、“生き物と向き合うことの意味”が詰まっている。
(古知屋ジュン)