A4サイズの『城ラマ』と二宮社長。バックにあるのは、本製品のモチーフになっている『長篠合戦図屏風』。

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国内メーカー約150社が参加し、今年6月に行われた東京おもちゃショー。いまどきらしいさまざまなおもちゃやホビー製品が並んでいたのだが、その中でもネーミングや切り口のインパクトが光っていたのが、周辺地形を含めた城のジオラマ『城ラマ』という製品。

第一弾となる『三河長篠城』(10月下旬発売、通常版1万2600円・古地図付き特装版1万3650円)は、全国的にはあまりメジャーではない城ではあるものの、城郭内のお堀やふもとの川などの起伏に富んだ地形を丁寧に再現。完成度の高さはもちろんだが、城の3DCG映像を見られるアプリマーカーや、なぜか元レベッカやRED WARRIORSのメンバーが参加したというテーマ曲のCDを同梱と、歴史モノのホビー製品としては規格外な特典も目を引いた。
しかもメーカーの“パートナー産業”には聞き覚えがない……? ユニークな製品誕生の裏側を探るべく、横浜市にある同社にお邪魔して二宮博志社長に話をうかがった。

「お城というと、ほとんどの方が想像するのが天守閣ですよね。僕は小学生の頃から、そうじゃないと思っていて。土から成る”と書いて城なので、建物と周りの地形までを含めたものがお城だという発想で、卒業制作にも山城として名高い岐阜城(童友社)のプラモデルを作って提出したんですよ。なぜかというと岐阜城はベースにちょっとだけ地形が含まれているんです(笑)。そういったコンセプトのプラモデルが出てくるのをずっと期待していたんですが、僕が大人になってもなかったので、誰もやらないなら自分でやってみようと思ったんです」

聞けばパートナー産業は、プリンタやFAXなどのパーツを企画・設計するメーカーとのこと。なぜ畑違いの製品開発に乗り出したのだろうか。

「OA部品は10年前くらいまでは日本じゃないと作れない部品も多かったんですけど、今は海外でも優れた機械があればいくらでもよい製品が作れる時代になりました。大量の発注は海外の工場へ行ってしまって、日本のメーカーには小ロットの依頼が中心に……というタイミングで、減った仕事をどういう形でフォローしていくか考えたんですよ。これから波が来るであろう医療機器や車のパーツなどいろんな道を考えたんですが、本気でチャレンジするなら自分がやりたいことにしたいと思って」

本業のかたわら現地調査を行い、何度も試作を重ねるなど、城ラマの製作には2年半近くの時間をかけている。監修やムックのイラストなどは、過去に二宮社長がその著作を読んであまりのイラストの美しさに感動したという戦国史専門家・藤井尚夫氏に依頼した。
「城ラマはいまは建物が残っていない、いわゆる城跡になってしまったお城を地形込みで復元するのがメインのコンセプト。歴史好きな男性をメインターゲットに、家庭にディスプレイしてもジャマにならないA4サイズ、1500分の1スケールにこだわっています。誰もがよく知っている観光地のお城は製品化されているものも多いので、うちではできるだけ地方のお城にフォーカスを当てたい。付録のムックには長篠城の関連人物伝や、周辺の観光ガイド的なページも入れています。長篠城にまつわる歴史には徳川家康や織田信長、武田勝頼などメジャーな武将も出てくるんですが、ムックでは現地の土豪や地侍といった、現地で活躍した人をあえてピックアップしました。埋もれた歴史の中にも、キラリと光る存在がたくさんあるということを伝えたくて」

ちなみにジオラマ内の建物は、自分でパーツを組み立てて配置する形になっている。パーツは小さいもので3mm程度、柱の太さを0.5mm以下で表現、まさに職人技といえる細かさだ。
「日本は木造建築の文化なので、発掘調査をしても建物が残っていなかったり、どこに何があったのかがはっきりしないことが多いんですよ。例えば柱の跡がみつかっても、城が100年続いたとすると建物の建て替えもあるだろうし、固定化できない。でも固定化されてないのなら、自分で好きなところに置いたほうがいいんじゃないかと。もちろん、参考配置図なんかも付けています。実際に作るのは慣れていなくても6時間くらいでできると思いますが、決して安くはない製品だと思うので色を塗ったり、組み立てるときにも最大限楽しんでもらいたいと思っています」

製品本体のこだわり具合もすごいが、80年代育ちの読者なら気になっているであろう、元レベッカの山田貢司氏(ボーカル・NOKKOの実兄)や、元RED WARRIORSのshakeこと木暮武彦氏らが手掛けたテーマソングCDについては……。
「ジオラマを作るときに音楽聴きながら作りたいなと思って、CDの付録を思いついたんです。山田さんとは元々知り合いだったんですが、元レベッカの方だとは知らずに曲を依頼しまして。その時に山田さんの作品をいくつか聞かせて頂いたのですが、なぜか昔大ファンだったRED WARRIORSのshakeさんが思い浮かんだので山田さんにその話をしたら、なんと昔のバンド仲間でかつ元義弟という間柄! 僕がshakeさんのファンだったことを伝えると『彼にギター弾いてもらおうか?』という話になって、二つ返事でお願いしました(笑)。山田さんには実際に現地に一緒に行って、感じたものを音にしてくださいと頼んで作っていただきました」

ほかにも城の3DCG映像を見られるARアプリをプラス。“できれば実際に現地を歩いてほしい”という思いからJR長篠城駅〜長篠城のルートを案内する音声データ「聞き耳ワールド長篠編」(共にダウンロード無料)をホームページ上で公開するなど、新しいお城の楽しみ方を提案。ジオラマを作るだけでなく、歴史や地形をテキストや映像、散策などで理解することで、より城のイメージが立体的なものになる。そんな訳で、歴史教育や地方観光活性化に役立つツールとしても注目が集まっているのだそうだ。

「城ラマの開発途中でのいろんな出会いもプロジェクトの可能性を広げてくれて、この出会いが1つでも欠けていたらここまでたどりつけなかったと思います。でもその出会いを導くのは、自分の情熱だったり、本気度みたいなものなんですよね。僕は城だったけど、テーマはなんだっていいと思う。心からやりたいと思っていることを、本気でやってみるっていうのはすごく大事なんだなと」

そんな風に語る二宮社長の情熱を形にした城ラマ、すでに第二弾の製作もスタートしているのだそう。今後のシリーズ展開も気になるところだ。
(古知屋ジュン)

※城ラマも出展! 『全日本模型ホビーショー』
会場:幕張メッセ9ホール(千葉県千葉市美浜区中瀬2-1)
日時:10/12(土)9:30〜17:00、10/13(日)9:30〜16:30
入場料:1000円(※中学生以下無料)