その時の脳波状態にピッタリの音楽が再生される

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「以心伝心」という言葉がある。かつてアントニオ猪木の付き人だった藤原喜明は「猪木さんの目を見れば、何を求めているか瞬時にわかる」と述懐していたが、この間柄に言葉は要らない。皆まで言わずとも、察してしまうから。

そんな阿吽の呼吸で、音楽プレーヤーとやり取りできるとしたらどうします? 人間や動物相手ではなく。
ちょっと、凄いんですよ。我々の気持ちを察し、そのテンションにピッタリの曲を自動再生してくれるシステムが開発されたんです。慶応義塾大学理工学部・システムデザイン工学科の満倉靖恵准教授が10年以上の歳月を費やして研究を重ねた結果、形となった「脳波音楽プレーヤー(仮)」は、“念じる”だけで曲を再生させることができるのです。

では、その原理について。まず、ヘッドフォンを装着する。すると、ヘッドセットがその人の脳波の状態を検知。一方、携帯音楽プレーヤーには、あらゆる人があらゆる曲を聴いた時の脳波の状態に関する情報が詰まっている。
要するに、保管された脳波特徴の情報と、ユーザーの脳波の状態をマッチングさせてあげる。照らし合わせることによって、その時の気分にピッタリの曲が再生される、という考え方です。
わかりやすく表現しましょうか? 端的に説明すると「“脳波”がリモコンになった」というわけです!

ちなみに、このプレーヤーには何曲くらいのレパートリーが落とし込まれているんでしょうか?
「現在は100曲ですが、著作権等の問題をクリアすることにより、最終的には約1万曲が再生できるようになります」(満倉准教授)
ここで誤解されている方も多いと思うので、一つ補足説明させて下さい。このプレーヤー、自分でシコシコと曲を取り込んで扱う機器ではないのです。あらゆるジャンルの音楽が、元より収録されているとのこと。
「世界中の音楽が、その人の状態に合わせて再生されます。全く新しい形の、音楽との出会い方になると思うんですね」(満倉准教授)
1万曲もあれば、間違いなく新境地が開拓できるはずだ。これは、ワクワクするなぁ。

ここで開発者である満倉先生に、この音楽プレーヤーの有意義な使用法を伺いしました。結果、挙げられたのは以下の3つのシチュエーション。
・手を上手く使うことのできない満員電車内
・車の運転中(走行中、カーステを操作するのは危険なので)
・一日の終わりに、自分の状態を確認する“ライフログ”として

注目は、3つ目の“ライフログ”としての使用法である。
「テンションが低い時は、やはりテンションの低い曲が再生されます。皆さん、ストレスが溜まっていても気付いていないことが多いんですね。そしてそのまま進行し、鬱状態に入り込んでしまうこともあります。ただ、この音楽プレーヤーで曲を聴けば、ご自身の状態を自覚することができるわけです」(満倉准教授)
「自分が落ち込んでいる」と自覚できたら、それは儲けもの。なぜなら、人間には「バイオフィードバック」という機能が備わっているから。
例えば、落ち込んでいる自分に気付いたとする。すると、そんな自分を身体(心)がリカバーさせようと、自然に働きかけ出す。落ち込んだ自分がリカバーされた後は、きっとテンションの高い音楽が再生されるだろう。
なるほど、心の平静を保つためにも有効な使い道です。まさに、「NO MUSIC,NO LIFE」!

そんな「脳波音楽プレーヤー(仮)」は、来年を目処とした商品化が予定されているとのこと。

最後に。この技術は、この先もドンドン進化していきます。
「元々は『念じたことを文字にして表す』というのが研究の目的でした。そのプロセスの一つとして、脳波をリモコン化させる今回の音楽プレーヤーが形となったのです」(満倉准教授)
思考を文字化させる研究は未だ中断されておらず、将来的には「念じて文字にする」技術が実現化されるはず。

日々の生活の形が変わっていく予感、プンプンします!
(寺西ジャジューカ)