名越稔洋(なごし・としひろ)  株式会社セガ 取締役CCO(Chief Creative Officer)。1965年6月17日生まれ AB型。山口県下関市出身。1989年セガ入社後、鈴木裕のもとCGデザイナーとして『バーチャファイター』シリーズの制作などに参加。1994年初のプロデュース作品『デイトナUSA』を発売し、ドライブゲーム史上に残る大ヒットを記録。2005年に大ヒットとなる『龍が如く』を手がけ注目を集める。『龍が如く』シリーズは全世界500万本以上のセールスを記録。

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ヒット商品の仕掛け人が語る制作秘話はおもしろいものだと相場が決まっている。株式会社セガのヒットメーカー、名越稔洋氏の場合もまたしかり。
名越氏といえば、全世界500万本以上を売り上げたゲーム『龍が如く』の生みの親。この作品が誕生する過程にはどのような経緯があったのだろうか?
お話をうかがっていくと、『龍が如く』はコンセプトメイキングやターゲットユーザーの選定に一日の長があっただけでなく、ある点に徹底的にこだわり抜いていることが重要なカギを握っているのだとわかる。では、その「ある点」とは……?前編にひきつづき名越ワールド炸裂の対談は、ファンならずとも一読の価値ありだ。

繁華街をコンセプトにした時点で、勝算があった『龍が如く』

武田 私は名越さんが『龍が如く』の開発に入る前、その構想を聞かせていただいたことがあります。でもその時、「繁華街を自由に歩き回れるゲーム」と聞いて、どんなゲームかまったく想像ができませんでした。

名越 それだけ聞いても、訳がわからないですよね(笑)。設定もストーリーも、それまでのゲームとはぜんぜん違うものでしたから。

武田 正直、お話をうかがったときは、こんなにヒットするゲームになるとは思えませんでした(笑)。「まだこれは世の中にはないものだから、つくってみないとわからない。自分はこれに賭ける」と名越さんがおっしゃっていたのを、よく覚えています。

名越 じつは「実在の繁華街」をコンセプトにした時点で、半分勝ったと思っていたんです。

武田 確信があったんですね。

名越 ゲームで何かの世界観をつくるときには、みんなが知っているものをテーマにするのが鉄則なんです。でも、メジャーなものは、たいていもう誰かが先につくってるんですね。

 そこで、ふと自分がかつてホームにしていた飲み屋街のことを思い出しました。そういう猥雑な繁華街をゲームの世界で再現したらどうなるだろうと思ったんです。繁華街って、今までメインテーマとして扱われたことはほとんどないけれど、みんなが知っていて興味もあるはず。「知らない世界をのぞいてみたい」という下心をくすぐるものがあるだろう、と分析していました。あとは踏み込んで、どれだけリアルに再現できるかがキーになるな、と。

 また、『龍が如く』というゲームの特殊性は、マーケティング的に徹底的に絞り込みをしているところにもあります。ゲームをつくっていると、いろいろ考慮しなきゃいけないことが出てくるんですよ。たとえば、海外展開を見据えて、舞台を海外にしたほうがいいんじゃないかとか。女性ウケを考えて、もっと主人公は親しみやすいイケメンのほうがいいんじゃないかとか(笑)。そういう意見は、もう全部突っぱねることにしました。

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