タンパベイ・レイズ=TBとマイナー契約をした松井秀喜の記者会見で、一番聞いてほしかったのは、

「人工芝のドーム球場であるトロピカーナ・フィールドでも、大丈夫なのか」ということだった。

背番号55へのこだわりは、どうでもいいと思った。
松井は日ごろ、日本球界には復帰しないと語ってきた。その理由としてNPBの球場は、人工芝が多く(12球団のうち10球団)、膝への負担が大きいからだ、と説明してきた。

トロピカーナ・フィールドは体への負担が軽いHSJ社製のロングパイル人工芝フィールドターフを使っているそうだが、東京ドームもフィールドターフを使っている。東京ドームがこの芝に張り替えたのは、2007年。松井がMLBに渡った後のことだ。

トロピカーナの人工芝が問題ないのであれば、松井秀喜にとって、日本復帰の障害はなくなったことになるのではないか。

松井がこれまでNPBに戻らない理由として語ってきた「人工芝云々」という話は、方便だったのか、とも思えてくる。

FAになった松井秀喜が、日本に戻る意思がまったくなかったことは、オファーがないにもかかわらず渡米して、ニューヨーク州で自主トレを続けていたことでもわかる。

NPB側から松井へのオファーはいくつもあったはずだ。古巣の巨人にしたって、阪神にしたって、統一球問題で貧打にあえいでいるのだ。ON以後の巨人の最強打者が戻ってくる意思があれば、もろ手をあげて迎え入れたはずだ。

しかし、松井は苦しい言い訳をしてまで、アメリカにこだわっている。

なぜなのだろう。

一部のスポーツ紙に載ったように「退路を断つ」みたいな安っぽい動機ではないはずだ。

単純にマネーの話ではないことは想像がつく。常にスター街道を歩んできた松井にとって、金は後から付いてくるものだったはずだ。

今年、松井秀喜がMLBで選手登録されれば10年目となり、選手年金が満額支給される。60歳以降日本円にして2000万円近い年金が約束される。しかし、松井秀喜がそのためにMLB残留を目指したとは考えにくい。
松井秀喜は、なぜ、NPBに戻らないのか。

巨人という最も陽の当たる球団に鳴り物入りで入団し、4番打者として抜群の実績を上げてきた松井秀喜。しかし、MLBでの10年間は順調とは言えなかった。特に2006年の怪我以降は、毎年がピンチの連続だった。2009年、FAとなってからは年俸は急落し、今年はついに開幕を浪人で迎えた。アメリカでの評価は“過去の人”になりつつある。プライドはズタズタになったはずだ。

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しかし、松井は帰らない。NPBとMLBの頂点を共に知る稀有の存在である松井は、みじめではあってもMLB残留を選んだ。

なぜなのか。

選手へのリスペクトの問題か、ステイタスの問題か、トレーニング手法なのか、球団との契約の問題か、文化の問題か、やはりマネーなのか。

恐らく、そこにNPBとMLBの決定的な「差異」があるのだと思う。

そう遠くない未来に、松井秀喜がバットを擱いたときに、忌憚のないところを話してほしいと思う。