2011年のクライマックスシリーズや日本シリーズでも、後に語り継がれるような名試合、繰り広げられるでしょうか。

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10・19。
この日付を見ると、いまだに1988年10月19日、パ・リーグ優勝をかけた激闘、ロッテVS近鉄ダブルヘッダーの記憶が鮮明によみがえってくる。

シーズン終盤、首位を独走していた西武ライオンズを、近鉄バファローズが怒濤の追い上げを見せ、迎えたこの日。近鉄が優勝するには、19日のダブルヘッダーをどちらも勝たないといけない。

舞台は川崎球場。まずデーゲームで行われた1試合目を逆転勝ちで決め、どこか異様なテンションに包まれたまま突入した最終戦。

2試合目も激戦になり、近鉄が勝ち越し点を入れるたび、その裏にロッテが追いつく展開に。4-4のまま迎えた延長10回表。
ここで、延長に突入した場合には、試合時間が4時間を経過した場合にはそのイニングで打ち切り終了となる規定が、近鉄の前に大きく立ちはだかる。10回表に突入した時点で、規定時間まで残り3分しかない。結局、近鉄は得点することはできず、近鉄のリーグ優勝は消滅した。

マンガや映画よりもドラマチックな物語は、翌年も続く。西武と近鉄による優勝をかけたダブルヘッダー直接対決で、ブライアントが2試合挟んでの驚愕の4打席連続ホームランを放ち、西武の優勝を文字通り打ち砕く。2年越しの劇的すぎる優勝だった。

江夏の21球、「巨人はロッテより弱い」発言、仰木マジック、ホリエモンの買収騒動。野茂英雄、阿波野秀幸、石井浩郎、鈴木啓示、太田幸司、ブライアント、ローズ、マニエル、吉井理人、中村紀洋……。
この“猛牛軍団”の激闘の歴史を記録したムック、『プロ野球 近鉄バファローズ クロニクル』(スコラムック)を手にして、2004年に合併によって球団は無くなってしまったが、いまも強烈に記憶に残る選手や試合の多い球団だったんだなぁという思いに、あらためてかられた。

ムックは、こういった本でおなじみの名勝負ベスト10や、名選手たちの紹介を中心に構成されているのだが、球団のカラーゆえか、どのページからも高い熱量が伝わってきて、読んでいるうちに記憶が呼び起こされるとともに、こっちもどこか熱い気持ちになってくる。

ちょっと面白かったのが、元祖甲子園のアイドル・太田幸司と元ロッテの愛甲猛の対談と、ファン座談会のページ。太田幸司が当時の人気ぶりを、斎藤佑樹をひきあいにだして、「あんなもんじゃなかった」と自分で言ってみたり、「なでしこジャパンみたいなもんやな」と言ってみたりする。酒のにおいをさせて球場に現れる選手がいたとか、川崎球場は、ラーメンだけはうまかったとか、いろいろ自由な発言に、笑います。
座談会のほうも、仰木監督が飲みに誘ってくれたという話とか、渡辺久信に「なんで近鉄(ファン)なの?」と言われたとか、女性ファンが、選手に電話番号を教えてもらった話とか、ぶっちゃけトークが満載。これもまた、ファンの近鉄愛あってこそか。

かつて近鉄バファローズというチームがあった。それを忘れないために、というよりきっと、忘れられなさそうだが。
(太田サトル)