『難解な絵本』(いとうせいこう作/角川書店)定価:1200円(絶版)

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誰かと話していて、「好きな映画は?」あるいは「好きな本は?」といった話題になることがある。
どんな作品を挙げるかで、人の評価はかなり決まってしまう。アクション映画やギャグ漫画ばかり並べて、「意外に子どもっぽいのね」と思われるのは、できれば避けたいところだ。
かといって、難しい映画や本を今さら観たり読んだりするのは面倒だろう。とりあえず、適当なタイトルをあげる、という策もあるが、「どのシーンがよかった? 雪だるまにマフラーを巻くシーンは、あの○○にインスパイアされたものみたいだけど、君はどう思う?」などとリスキーな会話に突入しかねない。
そんなお悩みを持っている方におすすめなのが、この『難解な絵本』だ。

ページ数はたった94ページ。絵本なので文字も大きめ。タイトルに反して、「難解」な言葉はほとんど出てこない。イラストも可愛い。
作者は現在もテレビなどで活躍する才人、いとうせいこうだ。俳優、小説家、タレント、作詞家、ラッパーとして幅広く活動する彼が「子供」という切り口から世界を切り取ってみせたのが本書。その抜群のセンスには、脱帽し、ため息をつき、そして爆笑するしかない。前衛、芸術、戦争、文学etc。彼の手にかかれば、なんでも「子供」で一刀両断だ。

同様の才人として有名だった故中島らも氏は、子供と老人はフリークだ、と語っていた。常識の埒外にいるからだ。それゆえホラー映画では子供がモンスター化する作品が多いのだとか。
いとうせいこう氏はこの絵本の中で、そんな「常識が通用しない存在」、モンスター予備軍である子供をさまざまな世界に放り込んでみせ、架空のケミストリー(化学反応)を発生させている。
「好きな本」に絵本をあげれば、「ロマンチスト」のイメージを醸成することが可能だ。さらに本書にはユーモア性と知性が馥郁と香る。「ユーモアを解す知性派のロマンチスト」という絶好の人格をアピールできるアイテムと言える。

初版の発行は1990年だから、21年も前になる。残念ながら、絶版になっているので、中古を探すしかない。幸い、発行部数が多い絵本なので、Amazonなどで簡単に見つかる。
(谷垣吉彦/studio woofoo)