今年から中国代表を指揮するテリー・コリンズ監督は、0対4で敗れた開幕戦後の記者会見で、同胞のアメリカ人記者から真顔で聞かれた。「近い将来、中国野球は日本野球の脅威となりますか？」
　日本と中国の実力差を考えれば、数年前には聞くことさえはばかれる内容の質問だった。

　思えば３年前。WBC初代王者となった日本チームの優勝への道のりは、1番イチローのファーストゴロからはじまった。西岡、福留の１、２、３番が三者凡退で終わった時、一万人ほどの観客からは「なかなかやるな、中国も」といった感じの格下チームに向けられた拍手が送られた。試合は日本が18−２（８回コールド）で完勝。記念すべきWBC第１回大会の初陣は、強い日本が弱い中国を破ったワンサイドゲームだった。

　あれから３年。侍ジャパンの先頭イチローが、３年前と同じ先発リ・チェンハオに、３年前と同じファーストゴロに打ち取られた瞬間、満員の東京ドームがざわついた。イチローの調子の悪さが、誰の目にも明らかとなった。中島が歩き、青木の２塁打で迎えた初回１死２、３塁、続く２回の無死１、２塁の先制機を逸したとき、場内のざわめきは、イチローだけでなく、日本チーム全体への不安を暗示するざわめきへ変わった。第２回大会の幕開けは３年前と同じなのに、スタンドの反応は大きく異なった。大丈夫か、全日本は？

　ゲーム後。コリンズ監督は中国代表の急速なレベルアップを冷静に分析した。「北京五輪のために（ラフィーバー前監督が）素晴らしい仕事をした。アメリカで30試合ものオープン戦を戦った。練習はどれだけやっても練習。実戦の積み重ねがオリンピック、そして今日の（日本戦惜敗）結果につながったのだ。イチローだって人間だから（無安打のイチローは）責められるべきではない。むしろイチローを（５打数０安打に）抑えられたから、日本相手にこんなにいい試合ができた。中国チームはまだまだ急速に成長するよ。」

　WBC連覇に向け初戦を完封勝ちで飾った侍ジャパン。モヤモヤの中で光ったのは、先発して４回を完璧に抑えたダルビッシュの快投と、５番村田の２ランホームランだった。特に村田は、北京オリンピックで23打数２安打と苦しんだ経験を糧に、国際大会で初ホームランを放った。左打者が並ぶ侍ジャパンの中、右の大砲の一発は、左腕を並べるライバル韓国代表にも脅威と映ったことだろう。

　とはいえ。
　メダルなしに終わった五輪後も長期的プランと具体的ビジョンを何一つ示さなかった日本代表に、未来の希望はあるのだろうか？

文＝小島克典


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