なぜプロ野球二軍の移転先公募に自治体が殺到? 米マイナーに学ぶ“球団は町の一軍”の成功例【小林至教授のマネーボールQ&A】#34
【小林至教授のマネーボールQ&A】#34
【前回を読む】プロ野球は「CS導入」でどのくらい儲かるの? 《終戦の遅延》は球団運営に欠かせない「売上防衛措置」
【Q】プロ野球の二軍移転ラッシュが話題の昨今。ヤクルトや日本ハムは移転先が決定し、ロッテも将来的な移転を発表。中日も移転先の公募に30近い自治体が殺到しました。こうした移転ラッシュの背景には何があるのですか?
【A】背景には育成施設を充実させたい球団と、人を呼び込みたい自治体の思惑の一致があります。二軍球場が選手を育てる場所から、町の賑わいを育てる拠点へと役割を広げているのです。日本ハムの移転先に内定した恵庭市でも、住宅や商業施設を組み合わせたまちづくりが計画されています。
そのヒントは米国のマイナーリーグにあります。私は今夏、半月ほど米国を回り、各地の球場を視察しました。なかでも印象深かったのは、2004年以来22年ぶりに訪れたインディアナ州サウスベンド市。かつて調べた町の「答え合わせ」でもありました。
自動車やミシンなどの工場で栄え、最盛期には約13万人が暮らした町ですが、1960年代以降、工場の閉鎖が相次ぎ、人口は約10万人に。中心部には廃虚や空き地が目立ちました。北側にある名門ノートルダム大学の周辺は賑わっても、学生が帰省する夏は静か。当時、同市を本拠地としていたのが、ダイヤモンドバックス傘下1Aのシルバーホークス。市当局は「球団誘致は投資回収ができていなくても、住民が集う場を得た価値は大きい」と語っていました。私の最初の訪問も、そんな時期でした。
市はその後、700万ドル以上を投じて球場を改修。2011年に球団を買収した投資家アンドリュー・バーリン氏も、売店や遊戯施設などの改修に、まず400万ドルを投じました。市は周辺用地の取得や基盤整備も進め、民間投資を呼び込む土台をつくりました。行政の投資に、民間の資金と商売の知恵が重なり、古びた球場が家族で楽しめる場所に変わったのです。
19年には、バーリン氏側が約2200万ドルを投じた121戸の集合住宅と飲食・商業区画が球場隣に完成。今年は今度は市が公的資金で約4800万ドルを投じ、2階席やイベント施設も増設しました。1987年開場の同じ球場を、使い方ごと更新しているのです。球場そばの旧ユニオン駅(かつての市中心部の主要駅)にも、旅客鉄道を呼び戻す計画が進んでいます。
もっとも、町全体の再生を球場だけの手柄にはできません。周辺には今も空き地が残り、再開発は途上。それでも、かつて人が近づかなかった一角に、住み、食べ、集う理由が生まれた。その変化は、22年前を知る身には鮮やかでした。
球場の中も負けていません。現在はカブス傘下A+のサウスベンド・カブスの本拠地。私が訪れた日は、愛犬と入場できるドッグデーでした。さまざまな犬種が集まり、珍しいホワイトシェパードも。飼い主同士は犬自慢に花を咲かせ、犬は試合そっちのけで吠え、柱へのマーキングにも余念がない。犬が飼い主を球場に連れてくるわけです。
団体客向けのパーティースペースも盛況。企業の集まりか同窓会か、飲食を楽しみながら親睦を深めていました。野球を見に来る人にも、野球を口実に集まる人にも居場所がある。これがマイナー興行の底力です。
今季は年間30万人超を集め、7月には1試合1万71人の球団記録も生まれた。しかも、その日はノートルダム大学の職員感謝デー。地域の集まりが球場を満たすのです。
球団が売っているのは、試合と、誰かと過ごす楽しい時間。選手はメジャーを目指していても、球団はすでに町の一軍です。次回は日本の二軍事情を見ていきましょう。
(小林至/桜美林大学教授)
