〈アジア大会〉台湾の「Taiwan」タオルを掲げた観客が制止…なぜ応援が「政治的」と判断されたのか
愛知・名古屋アジア大会の野球会場で、「Taiwan」と書かれたタオルを掲げていた観客が、係員と見られる男性から制止される出来事があった。
【画像】パリ五輪のバドミントンの試合会場でタオルを掲げて台湾ペアを応援する観客。この後、警備員にタオルを取り上げられた
「Taiwan」のタオルを掲げた観客が制止
台湾の中央通信社(CNA)は、係員が大会の運営基準に基づき「政治的主張」に当たるとの趣旨を説明したと報じている。
では、実際の大会ルールでは何が禁止されているのか。観客の国籍をめぐる情報も錯綜するなか、本質ともいえる大会側の対応を整理した。
国際大会の観客席では、自分が応援する国や地域の旗を振ったり、名前の入ったタオルやボードを掲げたりする光景は珍しくない。
しかし、愛知・名古屋で開催中の第20回アジア競技大会では、その応援表現をめぐって議論が起きた。
台湾の中央通信社(CNA)が9月25日に報じたところによると、この日行われた野球のチャイニーズ・タイペイ対中国戦で、観客席にいた人物が「Taiwan」の文字が入ったタオルを掲げて応援していたところ、会場スタッフから制止されたという。CNAは、この人物について「台湾のファン」と伝えている。
CNAによれば、制止を受けた際、周囲の観客から反発が起こり、「Team Taiwan」と声を上げる人も現れたという。日本語を話す女性がスタッフに対し、「Taiwan」という表現を政治的なものとは考えていないとして、規則があるなら明確に示すよう求めたとも報じられている。
これに対し、スタッフ側は大会運営上、「政治的主張」と判断されるとの趣旨を繰り返し説明したという。最終的に、このやり取りを理由として観客が退場させられることはなかった。
では、大会側があらかじめ公表していたルールには、どのように書かれていたのか。
大会規則には「政治的主張」の禁止も…ただし「Taiwan」の明記はなし
愛知・名古屋アジア競技大会組織委員会は9月3日、公式サイトで「会場内での禁止行為」を公表している。
そのなかには、「参加していない国の国旗を掲げること」が禁止行為として明記されている。
また、1メートル×2メートル以上の旗や横断幕などを掲げる行為も禁止されており、違反した場合には退場を求める場合があるとしている。英語版ではより明確に、「大会に参加していないcountry or region(国または地域)の旗」と記されている。
今回の大会で台湾の選手団は、「Chinese Taipei(チャイニーズ・タイペイ)」の名称で参加している。大会公式サイトの参加NOC一覧にも「Chinese Taipei」と記載されている。こうした国際スポーツ独自の枠組みを背景に、旗の扱いに一定の制限が設けられていること自体は、大会前から公表されていた。
一方で、25日にCNAが報じたケースで掲げられていたのは、国旗ではなく「Taiwan」と書かれたタオルだった。
少なくとも大会公式サイトで一般の観客向けに公表されている主な禁止行為を見る限り、「Taiwan」という文字そのものを掲げることを禁止するとの記載は確認できない。
つまり、
「参加していない国・地域の旗を掲げてはいけない」
というルールと、
「Taiwanという文字が入った応援グッズを掲げてはいけない」
という判断との間には、少なくとも公開されている説明だけでは埋まらない部分がある。もちろん、大会の現場では公表ページだけではなく、より詳細な運営基準が存在する可能性もある。
しかし、観客から見れば、事前に示されたルールから「Taiwan」と書かれたタオルまで制止対象になることを予測するのは容易ではない。今回の騒動が大きくなった理由のひとつは、まさにこの「ルールの見え方」と「現場での運用」の差にあったと考えられる。
翌日には「持ち込み禁止」の掲示、大会側は一部について謝罪
さらに翌26日、岡崎中央総合公園野球場で行われたチャイニーズ・タイペイ対日本戦では、別の問題も起きた。
CNAによると、会場入口には中華民国国旗と旭日旗の画像を掲げ、「持ち込み禁止」であることを示す案内が掲出された。翌27日のチャイニーズ・タイペイ対中国戦では、この掲示は撤去されたという。
そして28日、大会組織委員会は公式サイトで「野球競技会場における不適切な掲示についてのお詫び」を発表した。
組織委員会が誤りを認めたのは旭日旗についてだ。
大会側は、旭日旗について「持ち込み禁止の対象ではない」としたうえで、掲示は「現場の誤った認識」によるものだったと説明。観客に不快な思いを抱かせたとして謝罪し、全競技会場への周知を徹底するとした。
一方、この発表では、中華民国国旗の扱いや、前日に起きた「Taiwan」タオルへの対応が適切だったのかについては触れていない。
そのため、一連の出来事をひとまとめにして、
「大会が台湾を排除した」「観客側が大会ルールに違反した」と断定するのは慎重であるべきだが、現時点で確認できるのは、大会にはチャイニーズ・タイペイという名称で参加する枠組みがあり、組織委員会が「参加していない国・地域の旗」を制限していることだ。
そして一方で、「Taiwan」と書かれたタオルまでを政治的主張として制止する根拠は、一般向けに公開された規則からは明確に読み取れないということだ。
さらに、別件とはいえ、旭日旗の扱いについては、現場の判断に誤りがあったことを組織委員会自身が認めている。国際スポーツ大会には、さまざまな政治的、歴史的背景を持つ国や地域から選手や観客が集まる。
だからこそ、運営側には慎重な対応が求められる。
政治的主張を競技会場から切り離すためにルールを設けることと、観客が自分の応援するチームや地域を示す表現をどこまで認めるか。
その境界が曖昧なままでは、現場スタッフにも観客にも混乱が生じる。
「Taiwan」と書かれた一枚のタオルをめぐる出来事が突きつけたのは、台湾と中国の関係そのものだけではない。
国際大会において、政治的表現と純粋な応援の境界を誰が、どの基準で判断するのか。
今回の一件は、その難しさをあらためて浮き彫りにした。
取材・文/集英社オンライン編集部
