「作業着が白い」という理由で退職するケースも… “セクハラ”や“更衣室の有無”だけではない女性作業員が直面するブルーカラーの「昭和すぎる職場環境」
世界経済フォーラム(WEF)が、毎年発表している「ジェンダーギャップリポート」が今年も発表された。
「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野における男女格差を数値化し、国別にランキングした同報告によると、今年の日本のジェンダーギャップ指数は、世界145カ国中117位(前年は148カ国中118位)。日本初の女性首相の誕生によって、ランクの飛躍的アップを期待する声もあったが、主要7カ国(G7)のうち最下位という定位置に、今年も居座った。
日本の「女性の社会的地位の低さ」は、超男性社会であるブルーカラーの現場によく表れている。深刻な人手不足で女性を受け入れる機運が高まる一方、そのための態勢は全くといっていいほど整っておらず、現場の女性は“昭和の時代”で止まったままのジェンダー観に苛まれている。

【写真を見る】いまだに「昭和」のまま…「男性が働くことが前提」という認識を改めるべき
女性用トイレの存在をドヤる経営者たち
タクシー:5.9%、トラック:4.7%、建設業:3.6%--。
これらは、それぞれの現場にいる女性労働者の割合だ。
現在、ブルーカラーの現場では、人手不足の解消やダイバーシティの観点から、外国人とともに女性労働者の受け入れが進み、少しずつその数を増やしている。しかし、労働力人口総数に占める女性の割合が45.4%であることに鑑みると、どれほどブルーカラーの現場に女性が少ないかが分かる。
なぜブルーカラーには女性が少ないのか--。
そんな問いに対する答えとしてよく聞かれるのが、「女性には筋力や体力が足りないから」「女性の力でできる仕事ではないから」というもの。
しかし、肉体労働の現場において、女性労働者自身が不利になったり働きにくいと感じたりする最も大きな要因は、「女性に筋力や能力がないから」ではない。
「女性を積極的に受け入れようとしておきながら、それぞれの現場の設備や道具、風習、評価がいまだに『男性が働くことが前提』にされているから」なのだ。
こういうと、得意げな顔をした一部の経営者から、こんな言葉が返ってくることがある。
「うちの会社は、“女の子”の受け入れ態勢、万全です。リフォームして女子トイレ設置しましたから」
令和も8年になったが、女性を子ども扱いしながら、女性トイレや更衣室という「あって当然」のものを“印籠”のように掲げてしまうのが現状なのだ。
ナプキンの交換「1日1~2回」
前述通り、現場の女性が男性との身体的な違いで悩むのは、「体力・筋力差」ではない。自らの意思でその業界に入ってきているうえに、面接でどんな仕事なのか聞かされているため、女性であれ男性であれ、体力や筋力の弱い人たちは最初から門を叩かないからだ。
とはいえ、女性に身体的な悩みがないわけではない。それが、「生理や女性特有のライフイベントに対する周囲の無理解」だ。
ブルーカラーの現場の大多数が男性であるのと同時に、経営者もそのほとんどが男性であるがゆえに、「女性の体の構造」や「配慮の仕方」などを知らない人が非常に多いと感じる。
筆者が聴講者の9割が男性になる講演会に登壇する際、なんとかこじつけて話をするのが「女性の生理」についてだ。男性にとって、生々しい生理の話はあまり聞く機会がないのだろう。会場が息を殺しているのを感じながら、「女性はナプキンを1日に何回変えていると思うか」と問うてみると、多くの男性たちが「1~2回」と真面目な顔をして答えるのだ。
そんな経営者や上司に、女性労働者が生理やライフイベントに対する悩みなど打ち明けられるわけがない。筆者のもとには、こうして年間数十人の女性ブルーワーカーたちから多くの相談がやってくる。そのほとんどのDMには、「上司に女性がおらず相談できないのでDMしました」という挨拶文が付く。
作業服の色が原因で退職する女性
女性ブルーワーカーの生理にまつわる働きにくさのなかでは、「生理痛でも仕事が休めない」や「男女共用のトイレではナプキンが替えにくい」という声が多いが、なかにはこんな悩みも。
「うちの工場では、作業服が白だからという理由で女性作業者が辞めました」
とりわけ食品関係、医療、リネンなどに関わるブルーカラーの現場には、作業服が白という現場が少なくない。清潔がウリの現場だ。真っ白な作業服はそのバロメーターになる。
だが、この白い作業服を毎日着用しなければならないのは、女性にはかなりの心的ストレスになる。言わずもがな、汚れが一発で分かってしまうからだ。
ナプキンから経血が漏れる失敗は、実は稀に起きるものではない。かなりの割合の女性が、生理がくるたびに多かれ少なかれ漏れた経血で下着を汚してしまっている。ましてやブルーカラーは体を動かす現場だ。
「私たちはただ座っているだけではなく動く。そのうえ現場にはトイレも少ないので、ナプキンを取り換えるタイミングを逸することも多く、余計漏れやすいんですよね」
女性の労働者が抱える「ライフイベント」
女性ワーカーからの悩み相談は、前出のような生理に関するものだけではない。
「セクハラに耐えられない」
「同僚に言い寄られて困っているが、上司は『モテモテじゃん』と真面目に取り合ってくれない」
「妊娠したが、相談できる上司がいない」
など、ライフイベントに関わるものや、一刻を争う内容のものも少なくない。
とりわけ、20~30代の若い女性ブルーワーカーからは、妊娠を機に現場から外され、給料が激減。産後復帰できるまで生活できないかもしれないといった悩みも聞かれる。
なかには、本人の意思に関係なく妊娠が判明した直後から「母体保護」で現場を降ろされたが、「現場作業者として雇ったから」と内勤にしてもらえず、「女性で働き続けるのは難しいのでは」などと暗に退職を促された人も。
さらに、こんな声も。
「妊娠初期のころは普通に仕事をしていたのですが、つわりがひどいため、深夜帯のシフトは免除してもらっていました。しかし、周囲の男性ドライバーからは、陰で『女はズルい』『だから女は使えない』と言われていたようです」
女性トラックドライバーを表す「トラガール」という言葉に、筆者が強い憤りを感じる理由の1つには、こうして「若い女性」を誘っておきながら、彼女たちのライフイベントに対する理解や準備には全く無頓着であることがある。
昭和を引きずったままのセクハラ
女性ブルーワーカーからの相談の中でも最も件数が多いのが「セクハラ」だ。
その無神経ぶりはかなりのもので、これほど「口うるさい」でおなじみの女性ライターさえ、ど真ん中のセクハラを頻繁に受ける。先日、取材で知り合った既婚の経営者からはこんなメールがやってきた。
「次の人生があったなら、結婚相手として貴女に会いたい--」
またある現場では、写真撮影の際に場所の誘導を口実に腰に手を回され、またある現場では、来賓用の胸章の位置がズレているからと体に触れられそうになる。
逆に、男性相手には決してしないであろう辛辣な批判を、大勢の前で延々と展開する「マウントおじさん」も後を絶たない。
現場目線で、リアルを探ろうと彼らに馴染もうと思えば思うほど、こうした言動をしてくる男性が増えるのが、何よりも心的な負担になる。
それでも筆者は、その仕事が終われば会う必要がなくなるのでまだいいが、立場が弱く逃げ場のない女性ブルーカラーが、社内でこうしたハラスメントを日々受けているかもしれない現実を思うと、心の底から危機感を抱くのだ。
現場の女性が声を上げにくい理由
多くの女性ブルーワーカーからの声に触れると、あることに気付かされる。
彼女たちは、自ら進んで男性が圧倒的に多いブルーカラーの世界に踏み入れた手前、身に降りかかった理不尽に対して抗議の声を上げにくいのだ。実際、SNSには、「自分で入って来たのに文句言うのは図々しい」、「女性だけ待遇いいのはズルい」、「男性に対する逆差別だ」という女性ブルーワーカーへの批判が少なくない。
そのため、セクハラやパワハラがあっても、相談せずに我慢してしまうのだ。
さらに深刻なのは、こうしたマッチョイムズな男性社会に女性自身もが染まってしまっていることだ。女性ブルーカラーが集結したとある勉強会で「女性としての働きにくさ」を出し合う機会があった。そこで、現場経験最長だったベテラン女性がこう言い放った。
「働きにくさ? そんなものないですよ。女だから働きにくいと思うなら辞めた方がいい。セクハラも笑ってかわし、同調できるくらいじゃないならこの仕事は向いていない」
こうした「大先輩ベテラン女性ブルーワーカー」による根性論のあと、若手が何を言えるのだろうか。
筋力や体力に自信のある女性ワーカーのなかには、汗水たらすこと、男性と同等に重いものを持ち運んでいることを誇るSNS投稿もよく目にする。だが、こうした発信は、「同じようなことができなければ現場で働く資格がない」という誤ったメッセージを送ることになるだけでなく、現場の労働環境の改善を阻害する要因にもなる。
根性論がもたらした「人手不足」
現場や世間が忘れがちなのは、「そもそも男性労働者ならば過酷な労働を強いてもいい、というわけではない」という視点だ。
「汗水の量こそ仕事をした証し」
「我慢は美徳」
「機械を使うのはサボり」
こうした根性論を言い続けてきた結果、ブルーカラーは女性どころか若者にすら選ばれなくなってしまった。
女性が働きやすい環境は、男性にも働きやすい環境になるはずだ。実際、「女性の働きやすい労働環境にしたら、現場のベテラン男性職人の多くが抱えていた腰痛が解消された」という話もある。
なかには女性や外国人労働者の理解を深めるべく、全員参加型のダイバーシティ研修を積極的におこなっているブルーカラー企業もある。そこで働いている労働者の表情は皆、抑圧された現場の労働者のそれとは明らかに違う。
女性の労働環境の改善はもちろん、業界の人手不足の解消には、「はたらく人を選ばない労働環境」が必要になる。そのためにも、現場には「昭和」からの脱却が何より求められているのではないだろうか。
橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)
デイリー新潮編集部
