下見不足、引率教員の有無より深刻…辺野古沖の高校生死亡事故の報告書でわかった研修旅行に潜む危険の正体

■調査委員会の報告書でわかったこと
2026年3月16日、同志社国際高校の沖縄研修旅行中、名護市辺野古沖で生徒18人が分乗した2隻のボートが相次いで転覆し、高校2年生1人と船長1人が亡くなり、ほかの生徒16人が負傷した。その後、学校法人同志社は特別調査委員会を設置し、7月31日に218ページにも及ぶ調査報告書を公表した。
この報告書が明らかにした問題は多い。辺野古ボートコースについて十分な現地下見がおこなわれていなかった点、事故当日に引率教員がボートに乗っていなかった点、出航の可否を誰がどの基準で判断するのかが明確でなかった点、さらに学校と法人のリスク管理体制や、安全管理を他人任せにする組織風土まで厳しく指摘されている。
さて私自身は、事故が起きた当初から、学校のリスク管理体制の不備を考えるうえで、旅行代理店がどこまで関与していたのかに注目してきた。なぜなら、今回の辺野古沖での教育活動には、旅行代理店が関与していなかったからだ。
同校は3泊4日の旅程全般の手配を旅行代理店に委託していたが、辺野古沖の活動は代理店の契約外で、学校が独自に手配していた。転覆事故を起こした「不屈」と「平和丸」による運送は、本来必要な海上運送法上の事業登録を受けていなかった。リスク管理の根幹にかかわる確認が抜け落ちていたのである。以下、報告書の内容を踏まえて、なぜ辺野古沖の活動が旅行代理店の関与からはずれたのか、その経緯を見ていきたい。
■旅程に学校独自のプログラムが混在
一般に修学旅行や研修旅行では、学校が教育上の希望を示し、旅行代理店が交通、宿泊、現地の活動などを組み合わせて旅程をつくる。同志社国際高校の沖縄研修旅行も、全体としては旅行代理店C社の「受注型企画旅行」だった。
ところが、旅程の一部に、C社の契約対象ではなく、学校が現地の関係者に直接依頼する独自プログラムが混在していた。今回の2025年度の研修旅行では、生徒は3日目に、読谷村を歩くコース、美ら海水族館や美術館をめぐるコースなど、計7つのコースに分かれて各種活動をおこなった。それらの一部に、戦没者の遺骨収集や、他校教員のアトリエ訪問、そして辺野古沖での海上活動など、学校が独自に手配する活動が含まれていた。
同校の教員のなかには、旅行代理店が全プログラムに関与していると誤解していた者が複数いた。2年生の学年主任もその一人で、事故発生後まで独自プログラムの存在自体を認識していなかった。つまり、旅行代理店が入っている研修旅行なのだから、旅程のすべてが代理店の安全確認を経ている--そう見えてしまう構造があったのだ。C社側も、独自プログラムは契約範囲外であるため、内容への積極的な関与や変更の提案は難しいと考え、安全性の確認もおこなっていなかった。こうして、安全確認の空白が生じた。
■安全確認をせずボート活動を導入
同志社国際高校の独自プログラムは、少なくとも30年ほど前から存在していたという。長年の人間関係や信頼関係を通じてつくられた活動には、学校ならではの教育的価値もあっただろう。問題は、その延長線上に、2022年度からボートで海上に出るという実践が加わったことである。
辺野古エリアでは、以前から地元住民の話を聞いたり、海岸を歩いたりする活動がおこなわれてきた。そうした経緯のなかで、2022年7月、下見中の教員2人は、今回の事故で死亡した船長とホテルで面談した。その席で初めて、船長から、ボートに乗って海から新基地建設現場を見る活動を提案されたという。下見に同行していた旅行代理店の担当者とは、その前に別れており、面談は教員だけでおこなわれた。
教員2人は、船長からの提案を教育的意義があると考えて学校に持ち帰り、同年9月には辺野古沖での海上活動の導入がすんなり決まった。しかし、実際のボートを確認したり、現地で航路を確かめたり、海上運送に必要な法令上の手続きを確認したりすることはなかった。

■同志社国際高校だけの問題ではない
こうして以前から実施してきた講話や海岸散策などの延長線として、ハイリスクな乗船活動が、安全確認の仕組みをともなわないまま、辺野古コースに組み込まれたのだった。
2024年に発行された、子どもや若者の旅行・校外活動におけるリスク管理の国際規格「ISO 31031」では、すべての旅行に同じ水準のリスク評価・管理が必要なわけではなく、旅行や活動ごとのリスクに応じて管理の水準を調整する考え方が示されている。また、リスクが許容できない場合には、旅行を実施すべきではないことも示されている。ところが同校では、活動のリスクが質的に変わったにもかかわらず、安全管理の仕組みを切り替えなかった。
この問題は、同志社国際高校だけの特殊事情とはいえない。琉球新報の記事(7月4日付)によると、事故で亡くなった船長は、東京都内の中学校と高校の修学旅行における海上見学を個人的に受け入れていた。また、『Business Insider Japan』(3月26日付)によると、複数の大手旅行代理店に取材した結果、学校と関係の深い人物に講話を依頼するなど、学校独自の手配が組み込まれるケースは他でも実際にあるという。こうした学校独自のプログラムが一部にあるとしても、その部分だけを旅行代理店の安全確認から切り離してはならない。
■カヌー体験と辺野古ボートの違い
旅行代理店が介在する意味は、単に予約や移動を手配することではない。報告書によれば、C社が通常おこなう事前の安全点検には、催行基準の明確化や、病院・警察署等の確認が含まれていた。海上運送であれば、一般不定期航路事業としての登録、船長に必要な資格、船客傷害保険、安全管理規程など、法令上の要件も確認すべき対象となる。
同じ研修旅行中の別コースにあった「慶佐次川カヌー体験」は、この違いをよく示している。こちらは旅行代理店を介したプログラムで、救命胴衣の着用や安全事項の説明があり、警報、増水、落雷、強風、高波などに応じた中止基準が設けられ、実施できない場合の代替プログラムもあらかじめ決められていた。水上活動である以上、危険があることを前提に安全を確保する仕組みが用意されていたのだ。
一方、辺野古ボートコースでは、天候悪化時の中止基準も、代替プログラムも明確ではなかった。水難事故を想定した危機管理マニュアルも整備されていなかった。2023年度以降は、過去に事故が起きていないことから安全だという思い込みのもと、必要な安全性の検証がなされないまま継続されていたと、報告書は指摘する。
人を信頼することと、安全確認を怠ることは別である。ところが、長年続いてきた学校独自の活動という枠組みのなかでは、その区別が曖昧になった。ハイリスクな海上活動が加わったにもかかわらず、従来の関係性のまま前年度踏襲が続いた。私は、ここに事故の構造的な起点があったと考える。

■教員は「旅行」の専門家ではない
これから修学旅行シーズンを迎える。各学校にはまず旅程表を見直し、旅行代理店の関与から外れている活動がないかを確認してほしい。仮に学校が直接調整する活動がある場合も、その存在と内容を旅行代理店に共有し、原則として旅程全体を安全確認の対象にすべきである。とりわけ海、川、山での活動や、船などの乗り物を使う活動については、学校だけで手配を完結させてはならない。
研修旅行等の事故防止にあたって、細かなリスク管理や点検を教員にゆだねる方向性は、非常に危うい。教員は教育の専門家であって、旅行先の交通事情、自然条件、事業者の資格や保険、催行基準、緊急搬送体制までを専門的に評価する旅行の専門家ではない。教員に新たな責任を積み増すだけでは、長時間労働のなかで確認が形式化することにもなりかねない。
学校には学校の専門性がある。子どもの特性や、子どもがどのような行動を取り得るかをよく知り、教育活動として何を実現したいのかを旅行代理店に伝える。一方、旅行代理店は、学校の希望を踏まえて実施可能な複数の選択肢を示し、事業者、交通、気象条件、中止基準、代替案、緊急時対応まで含めて安全性を点検する。そのうえで学校が教育目的に合うものを選ぶ。この役割分担が必要である。
ただし、旅行代理店が関与すれば事故が起きないわけではない。学校が安全管理の責任を手放してよいわけでもない。大切なのは、学校だけで安全を抱え込まないことだ。校外でおこなう教育活動だからこそ、学校外の専門性を取り入れ、学校と旅行代理店が一緒にリスクを検証する。辺野古沖の事故を一校だけの特殊な失敗として終わらせず、全国の校外学習の仕組みを見直す契機にしなければならない。
----------
内田 良(うちだ・りょう)
名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授
専門は教育社会学。博士(教育学)。学校リスク(校則、スポーツ傷害、いじめ、体罰、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究を行っている。また啓発活動として、教員研修等の場においての情報提供も。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。
----------
(名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授 内田 良)
